大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON163 環境問題への取り組みはマナーではなく“投資”

2007年5月25日

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 米大手金融 環境投融資に乗り出し
 シティグループ 今後10年間で500億ドル
 バンク オブ アメリカ 200億ドル
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●環境問題に「マナー」的な姿勢で取り組んでも、
                    そこに改善はない。


米大手金融機関が環境関連の大規模な投融資に乗り出します。


最大手のシティグループが世界の代替エネルギー開発企業
などに、今後10年間で500億ドル(約6兆円)を投融資する他、
バンク・オブ・アメリカも200億ドルを投じるとのこと。


最近では、環境問題という意識も広く一般にも浸透してきて
いますが、


ここで問題にしている環境問題とは、日常的に私たちが
口にする環境問題とは別次元の問題として
捉えるべきだと私は思います。


普段の生活レベルで言えば、環境問題に取り組む姿勢は、
ある意味、マナーに近い感覚だと思います。


しかし、地球温暖化などの環境問題は、マナーという感覚で
取り組むべきものではないし、そのような態度では全く
対処になりません。


今回のシティグループやバンク・オブ・アメリカの発表を
聞いて感じるのは、


今多くの企業が使っている「環境」という言葉は、
本質的な意味としてではなく、単なる流行の枕詞として
使われているだけだということです。


あるアンケートによると、一般の人の企業に対する期待度が
最も高いテーマが「環境」問題だといいます。


だから、企業としては、とりえあえず、「わが社は環境問題に
取り組んでいます」という姿勢を見せておこう、という
対応をとっているだけに私には見えます。


本質的な意味で環境問題へ取り組むならば、
環境問題への対処とは「投資である」という考え方を
忘れてはいけないでしょう。


単なるパフォーマンスのために、お金と時間を費やしても
意味がありません。


地球全体の環境が改善されるという大きなリターンを
得るために、お金と時間を「投資」するわけです。


投資という考え方に立脚するなら、しっかりと目標数値を
定めて、その計画に従って実行すること、


そして、結果を評価して、改善を重ねていくという
プロセスを踏むのは、当たり前のことだと私は思います。


かつては、「環境を犠牲にして輸出をしている」と揶揄された
日本も、今では1人当たりの消費エネルギーが米国の
2分の1程度に過ぎないという、環境優等生になっています。


日本において、このように環境問題への取り組みが
成功したのは、マナーという曖昧な姿勢ではなく、
国や企業がしっかりと目標数値を定めて、大きな「投資」
として環境問題に取り組んできたからです。


●世界レベルでは、「計画経済」的な考え方で
                 環境問題に対処するべき。


しかし、日本だけが環境優等生であっても、
全世界的には意味はありません。


地球全体の問題ですから、世界の各国が環境問題に
真剣に取り組まなくてはいけないのです。


そのためには、「計画経済」的な考え方が必要だと
私は思います。


それぞれの国が、積み上げ式に環境問題として
取り組めることを考えていくのではなく、


例えば、CO2の世界排出量の総量について、全世界的な
目標値を決め、それを世界の各国に割り振るという考え方です。


これによって、例えば、米国は強制的にCO2を半減しなければ
ならないといった抜本的な改革が実行されるべきだと思います。


このように、全体としての具体的な目標を持って
取り組まないと、今後、環境問題が改善されていくことは
ないと私は思います。


例えば、豊かな米国としては、「お金を出しているのだから
ガソリンを少々使ってもいいじゃないか」と主張する。


反対に、貧しいインドとしては、「木や糞を燃やさざるを得ない
のだから、CO2を排出してもしょうがない」と主張する。


このような現状のままでは、
環境問題の改善に行き着くことはないでしょう。


また、世界全体として目標を定めようとすると、
インドや中国といった途上国は、必ず反対してきます。


60年代の日本同様、これからが経済成長なのだから、
それに“タガ”をはめられるのは不公平だという主張です。


これについては、世界全体の計画経済の実現という意味で、
インドや中国に環境問題という“タガ”をはめる代わりに、
先進国である日本が有利な条件で投資するとか、


あるいは無制限に技術を提供する、といった手を打って
いくべきだと思います。


しかし、このように計画経済的に環境問題に取り組んでも、
最終的には人口が減らない限り、北極の氷は溶け出して
しまうのではないかと不安を覚えます。


といっても、現状はその前段階です。


環境問題の本質は、自国の利益の延長線上にはありません。
地球全体的な視野を持って取り組んでもらいたいと思います。


                         以上


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