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〔大前研一「ニュースの視点」〕#110 テクノロジーの進歩が生む新たな金融商品と、証取大統合時代

2006年4月21日

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 テクノロジーの進歩が生む新たな金融商品と、証取大統合時代


 テクノロジーの進歩が、取引市場に新たな境地を生み出している。
 アメリカでは、コンピュータを駆使する原油先物相場連動型の
 上場投資信託(ETF)が上場し、新たな金融商品が
 台頭しはじめた。


 一方、取引所そのものもシステムの進歩により、
 国境を越えた「大統合」時代を迎えている。
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●テクノロジーの進歩が生み出した「架空の市場」が与える影響は?


株式投資が注目され、個人投資家も増えていることは
常々触れていますが、「先物取引」となると、個人にとっては
まだまだ敷居が高いものです。


その理由は、まず取引の参加に株式投資などと比べると
コストがかさむことです。さらに最も大きなリスクは、決済の
段階となれば商品を引き取らねばならないというルールです。


つまり原油の先物取引をするとなれば、将来石油を実際に
使ったり、ビジネスを展開するといった人でないかぎり、
なかなか手が出せませんでした。


「現物」が常に背景にあるもの、それが先物取引です。


しかし、このたびアメリカ証券取引所(AMEX)に上場した
原油先物相場連動型の「上場投資信託(ETF)」は、
そうした現物をかかえるリスクを回避し、限りなく通常の
株式取引に近い「手軽さ」で原油先物に投資するのと同じ
投資効果を得ることのできる金融商品です。


実際の原油の先物相場に連動して市場は変化しますが、
ETFは極端な話「コンピュータ上の仮説」、
つまりマネーゲームの意味合いが強いので、
実際の先物取引のように現物を引き取るリスクもないし、
保有し続けるのも買い続けるのも自由です。
通常の株式売買と同じような身軽さがあります。


証券取引所としても、このような新たな商品が登場することを
歓迎する傾向があります。先物取引に強い投資銀行、
たとえばゴールドマン・サックスなどは、
ETFにも積極的に取り組んでいくことでしょう。


面白い商品が出てきたと思える面もありますが、
これはあくまでコンピュータ上の架空の世界です。
言い換えれば供給も無限、逆に絞るのも自由なので、
現物の石油価格の乱高下を招きかねないという懸念があります。


今後、石油価格を左右するひとつの流動要因になって
いくことでしょう。


とにかく今、証券取引所が欲しているのは
「バラエティの富んだ金融商品」です。
それが、国境や取り扱う商品の垣根を越えた取引所の
「大統合」というムーブメントに直結しています。



●世界の取引所は「第三世代」へ。かたや日本は・・・


違う国や都市の証券取引所が合併し、統合する時代が
今まさに到来しています。
もちろん、これはテクノロジーの進歩がなせる業です。


情報がネットワークを介して、たやすく国境を越え、
他国の金融商品であっても手軽に手が出せる状況になりました。


先日も、オーストラリア証券取引所「ASX」と
シドニー先物取引所「SFE」の合併が発表されたばかりです
(8月末までに合併予定)。


もともとSFEは世界的にみても、アメリカ、シンガポールと並ぶ
注目の先物取引市場でした。
堅実堅調なASXと、先鋭的なシステムを擁して人気を博す
SFEの合併は、幅広い金融商品をカバーしたい取引所のニーズを
満たすことになるでしょう。


こうした動きは、システムの面からいえば「第三世代」
に該当します。さきがけとなった取引所のひとつが、
ニューヨーク証券取引所です。
システムの革新が必須と考えたN.Y.証取は、私設市場に
近いようなものまで買収して規模を広げ、自らも上場しました。


そしてあらゆる取引、金融商品も工業品も先物もすべて、
一枚岩のシステム上で行えるようにしました。
これが「第三世代」と呼ばれるシステムです。


ちなみに「第一世代」は、旧来の立ち会いをそのまま
コンピュータに肩代わりさせたシステムのことです。
東京証券取引所のシステムもここに属します。


「第二世代」は、取引のルールもコンピュータの特性に
合わせたシステムです。立ち会い人の行動をなぞらえた
東京のシステムのように昼休みもないし、午後3時で
終わるといったこともなく、5時頃まで取引できるように
なっています。


「第三世代」には、先物や現物など複数の商品を同一の
プラットフォームで展開するという特長の他にも、
注目に値すべき点があります。


従来、取引後のお金の支払いや実際の株のやりとり、
それらにまつわる約定の実行などの「クリアリング」と呼ばれる
部分に関しては、取引所のマターではないとするのが
一般的でした。


日本も外部組織(日本証券クリアリング機構)が
クリアリング業務を担っています。


客観性を保つ意味で、外部に組織を構えるべきという
意見によるものですが、「第三世代」のシステムは
この部分をも組み込んで効率化を図り、取引所が実際に
クリアリング業務も担当するようになっています。


また、取引をする上での目安となる「気配値」というものを、
取引所は一定のターム(1時間に1回など)で掲示していますが、
「第三世代」のシステムは気配値を頻繁に更新し、
タイムリーな数値を掲示する仕組みとなっています。


これにより買い手も、プログラムを駆使して
常に気配値を観測し、一定の金額になったら自動で
アクションを起こす、といったことが現実味を帯びてきます。


買い手と売り手、そして仲介となる取引所、
それら3者がコンピュータを駆使し、これまで以上に迅速で
アクティブな市場が生まれることになるでしょう。


欧州にもすでに「第三世代」の波は押し寄せていて、
現在は米ナスダックがロンドン証券取引所の
筆頭株主となりました。


北欧・バルト地域で6ヶ所の取引所を運営している「OMX」や、
パリ、アムステルダム、ブリュッセルの3つの証取が
統合して生まれた「ユーロネクスト」、
さらにドイツ取引所までも、ロンドン証券取引所との統合を
視野に入れて動き始めているとの報道も出ています。


まさに弱肉強食、風雲急の大統合時代です。


その中で、システムも旧来のものを使い、ロンドン証取にも
どこにもアクションをおこさず、安穏としている
東京証券取引所には、一抹の不安を覚えます。


ネットワーク時代においては、「日本に住んでいるから
日本の証取を使う」といった定石は確実に崩れていくはずです。


今後、私たちは銘柄を吟味することはもちろん、
取引所そのものに対しても、商品の品揃えや
フットワークの軽さ、ボーダレス感覚の有無を推し量り、
その都度、利用する取引所を決めていく必要があるでしょう。


                       -以上-


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