大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON527「広域電力・原発再稼働・燃料電池~思い込みに陥らないための思考習慣」

2014年7月25日


広域電力運営 電力広域的運営推進機関が設立総会

原発再稼働問題 川内原発の安全審査

燃料電池車 水素ステーション


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▼ 高圧送電会社を中核とした構想を理解すべし

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全国規模での電力融通の司令塔となる

「電力広域的運営推進機関」が17日、都内で設立総会を開きました。


近く経済産業相に設立の認可を申請し、

来年4月に発足するとのことですが、

私はこの中途半端な組織はいかがなものかと思っています。


私は一貫して、高圧送電会社を国の唯一の組織とすべきと

主張しています。


配電会社には各地方で独占を許可し、高圧送電会社は、

9電力がそれぞれ所有する高圧送電網の「資産」を

持ち寄って設立します。


発電は自由化し、基本的に誰でも参入できるようにし、

そこで作られた電気は高圧送電会社が買い取ることで、

全国どこにでも責任をもって送電します。


ソーラー発電や風力発電など、1000ボルト以下のものは

この送電網では送れないので、その場合には

ローカルの配電会社を使えば良いでしょう。


経産省の人に、私は何度もこの構想を

説明していますが、発送電分離などと言って、

錯綜していて、一向に理解してくれません。


なぜ今回のような中途半端な組織を作ってしまうのか、

私は理解に苦しみます。


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▼ 原発の課題を全てハードウェアに帰結させてしまっているのは問題

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原子力規制委員会は16日、九州電力が再稼働に向けた

安全審査を申請していた川内原子力発電所1、2号機について、

事実上の合格を決定しました。


東京電力福島第1原発事故をふまえた新たな規制基準を

川内原発が初めてクリアしたとのこと。


九電は今秋の再稼働をめざしていますが、

地元自治体の同意が残る課題になります。


川内原発、伊方原発などは私に言わせれば、

ものすごく地理的な条件が良い原発です。


それでも「桜島が噴火したらどうするのか?」などという人がいますが、

それを言い出したら「隕石が落ちてきたらどうするのか?」

と言うのと同レベルだと思います。


今の審査基準だと審査委員の人が何か口を開けば、

延期になるかあるいは莫大な金額の改修が必要になっています。


この点は大きな問題だと私は感じています。


柏崎刈羽原発などはすでに数千億円の改修を行っています。


運転経過年数別に見ると、40年以上経過した原発は

絶対にペイしないでしょう。


30年~39年のものでも、おそらく無理です。

29年未満がボーダーラインになると思います。


結局、不安の全てをハードウェアに帰結させて

しまっていることが原因です。


私は「どんな状況になっても冷却できれば良い」と

思っていますが、実際にはとてつもない高さの

防波堤も作らされています。


日本は新しい原子炉は作らないという方針なので、

いずれ原発がなくなる日が来ます。


その時、CO2の問題はどうするのか?など課題は残っていますが、

現状で言えば「それはそのときになったら考えればいい」

というのが国民・マスコミの感情だと言えるでしょう。


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▼ 水素が安全でクリーンエネルギーというのは、大きな勘違い

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CO2の問題について、多くの人が勘違いしていることで

気になっているのが水素ステーションに関するニュースです。


JX日鉱日石エネルギーは「究極のエコカー」とされる

燃料電池車に、燃料の水素を供給する施設である水素ステーションを

2018年度をめどに100カ所設置すると発表したそうです。


安倍政権が掲げる「成長戦略」にも、水素ステーションの整備が

組み込まれてきましたが、お話になりません。


日経新聞をはじめ多くの人が勘違いをしています。


水素を社会インフラにすることは、日本という国では絶対に不可能です。


福島第一原発の爆発は、原子炉が爆発したものではなく水素爆発でした。


水素というのは恐ろしい気体です。


この事実を理解せず、水素ステーションなどと言っても、

福島第一原発のような爆発が1回でも起きたら、

今度は「水素が危険だ!」と手のひらを返すに決まっています。


実験段階では問題ないかも知れませんが、水素ステーションという形式で

水素をそこら中に置くというのは、神経質な日本の国民性を考えても、

絶対に上手くいかないと思います。


燃料電池車についても、万一衝突事故が起こってガソリン自動車と接触したら、

それこそ大爆発してしまいます。


こうした危険性をしっかりと理解すべきです。


またもう1つ水素について誤解されているのが、

「安価」かつ「クリーンエネルギー」ということです。


水素を作る最も一般的な方法は、水を電気分解させることです。


しかし、これはコスト面で原子炉に依存した方法です。


原子炉が夜間電力を半額にしていたから、それを利用する燃料電池車のコストも

安いという話であり、仮に風力発電で水素を作るとなったら、

値段が高くなりすぎて実現しません。


また水素は燃えても水になるだけだから「クリーン」だという人がいますが、

これは全く違います。


確かに燃える段階ではクリーンかも知れませんが「水素を作る」タイミングで

大量の炭酸ガス(CO2)が発生するからです。


この対策として、産油国で水素を作ってそれを日本に運んでくれば良いのでは?

ということで一部の造船会社が色めき立っていますが、結局CO2は発生しているので意味がありません。


CO2の問題は、地球温暖化への対策ですから、

日本という地域だけの問題として捉える時点でおかしな話です。


燃料電池車など、自動車会社は30年前から研究しています。


極端に言えば、今すぐ発売することも可能でしょうが、

彼らは事実を知っていますから、誰も水素を信用していないと思います。


福島第一原発で起きた爆発。あの恐ろしい景色は、水素爆発です。


水素は安全でクリーンエネルギーなどと、いい加減な発言をするのは

やめてもらいたいと心から思います。


それこそ、専門家が出てきて安倍政権の成長戦略が

いかに危険なものかを説明して欲しいとさえ思っています。



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