大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON481「ルネサスエレクトロニクス・シャープ・ソニー~ビッグデータ分析事業の課題を考える」

2013年8月30日


 ルネサスエレクトロニクス 鶴岡、甲府工場を閉鎖へ

 シャープ マキタがシャープへの出資を決定

 ソニー ビッグデータ分析に参入


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 ▼ ルネサスエレクトロニクスもシャープも、経営方針が曖昧になっている

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 経営再建中の半導体大手、ルネサスエレクトロニクスは2日、

 生産体制を見直し、新たに鶴岡工場を3年以内に閉鎖、甲府工場を

 2年以内に閉鎖すると発表しました。


 6月のトップ就任後、初の会見に望んだ作田会長は、

 再度の追加リストラの可能性を示唆するとともに、車載機器と

 産業機器向け半導体に注力分野を絞り、再建を目指す考えを示しました。


 官民が出資し、何とかルネサスエレクトロニクスを救済しようと

 していますが、現状を見ると経営体制も定まっておらず、

 非常に難しい状況です。


 ルネサスエレクトロニクスは、NEC、日立製作所、三菱電機の3社が

 出身母体になっているわけですが、未だに合併して1つの会社として

 「体をなしていない」のが大きな問題だと思います。


 工場1つ1つがバラバラですし、それぞれにお客さんも異なります。


 地場との関係性もありますから、工場を閉鎖するといっても一筋縄では

 いきません。


 出身母体同士でのせめぎ合いもあるでしょう。


 これだけそれぞれの意見が異なる工場がある状況をまとめつつ、

 経営再建していくというのは、よほどの経営能力がないと難しいと思います。


 ルネサスエレクトロニクスと、ある意味、似たような状況に陥っていると

 感じるのが経営再建中のシャープです。


 シャープから出資の要請を受けている電動工具大手のマキタは

 20日までに出資する方針を決定しました。


 両社は5月に業務提携し、マキタが主力の電動工具で培ったハード技術と、

 シャープの電子制御技術を組み合わせてロボット事業への参入などを

 目指す考えで合意しており、報道によると出資額は数十億から

 100億円規模になる見込みとのことです。


 シャープは現預金がどんどん減り続けていて、鴻海との提携で一時的に

 上昇した株価も下落し、今では完全に低迷している状況です。


 そのような中、シャープは、クアルコム、サムスン電子から出資を受け、

 デンソーなど様々な企業からも出資を受ける予定と報道されています。


 しかし、これほど多くの企業から出資を受けてしまうと、シャープが

 どこに向かって舵をきるのか?というのは、非常に難しいと思います。


 出資している企業は、全て違う目的・思惑を持っているからです。


 このシャープの状況は、ある意味、ルネサスエレクトロニクスと同じです。


 私からすると、マキタがシャープと組んでロボット事業を展開できる

 イメージが湧かないのですが、それでもマキタは堅調な経営を

 していますから良いでしょう。


 問題なのは、このような形での出資が、結局シャープの経営再建の

 解決策につながらないのではないか、ということです。


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 ▼ フェリカの活用を今さら考え始めても、もう手遅れ

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 ソニーは19日、電子マネーに使われる自社開発の非接触ICカード技術

 「フェリカ」で、ビッグデータ分析事業に参入すると発表しました。


 フェリカはJR東日本のスイカなど国内商用ICカードのほとんどに

 使われており、累計発行枚数は6億6千万枚を超えています。


 この技術基盤を持つソニーが情報漏洩リスクを減らす新技術を開発、

 事業化することでビッグデータの国内利用に弾みがつく可能性もある、

 とニュースでは報じられていますが、私は無理だと思っています。


 そもそも、このような事業展開については10年前に

 私がすでにソニーに提案していることです。


 例えば、ある個人の行動についてICカードの移動データから、

 仕事帰りの移動だと分析できれば、帰りに立ち寄れる家の近くの

 デパートの特別ディスカウントをオファーすることが可能になるでしょう。


 フェリカの機能を使えば、さらに様々な「仕掛け」が考えられますが、

 当時のソニー経営陣は私の提案には興味を示さずに、フェリカを

 部品にしてバラ売りしてしまいました。


 当時から、ソニーが主導権を握って「仕掛け」を構築していれば

 良かったのですが、今となっては発行枚数6億枚といっても、

 それぞれデータの所有者が違っていて、統一されていません。


 あるデータはJR東日本で、あるデータはJR西日本、あるいは

 決済データはJCBといった状況です。


 これを共有化することは、今さら不可能でしょう。


 もし当時から、ソニーがフェリカをバラ売りせずに、

 最初から「仕掛け」を作って全体像を描いたビジネスを展開していれば、

 世界制覇も可能だったと私は思います。非常に残念です。


 世間ではビッグデータという言葉が、一人歩きしている節があります。


 そもそもスモールデータの分析すらできていないのに、

 ビッグデータの分析はできません。


 スモールデータで発想を固めて、それをビッグデータに

 活用していくから上手くいくのであって、最初から闇雲に

 ビッグデータをかき回しても、何も生まれません。


 今のソニーは、ビッグデータという言葉に踊らされている

 だけだと感じます。


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