大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON477「消費増税・貿易統計・TPP~消費税引き上げの目的を考える」

2013年8月2日


 消費増税 消費増税による影響検討を指示

 貿易統計 1-6月貿易赤字 4兆8438億円

 TPP TPP交渉に正式参加


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 ▼ 消費増税の再検討は危険な考え方/景気よりも財政問題が深刻

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 安倍首相が来年4月に予定する消費増税による景気や物価への影響を

 再検証するよう指示したことが26日明らかになりました。


 政府は法律で定めた通り消費税率を現行の5%から10%に

 2段階で引き上げる場合を含め、増税の開始時期や引き上げ幅を変える

 複数案を検討するとのこと。


 デフレ脱却を重視し、増税が来春以降の景気腰折れを招かないよう、

 追加的な景気対策の実施も視野に万全の準備で臨む考えのようですが、

 これは「危険」な考え方だと私は思います。


 消費増税については、民主党政権時に自民党も合意の上で

 可決されています。


 つまり、これは正式に「やらなければならない」ことです。


 実施を2段階にした上、さらに繰延べとなってくると、

 日本の財政規律の問題になるでしょう。


 これは国債の暴落を招く危険性すらあります。


 ゆえに、麻生財務相及び財務省は、何とか食い止めようとしています。


 安倍総理は事情を理解していないのか、1年で1%ずつなどと

 言っていますが、市場との対話という点で相当ハイリスクだと

 思います。


 消費増税を実施しても、きちんと3本目の成長戦略を描けば

 問題ないはずです。



 例えば、私が提案するような土地活用の規制撤廃などです。


 また、消費増税について、景気にどのような影響が出るのか?

 という議論があります。


 安倍総理も、景気の数字を見ながら消費増税のタイミングを

 秋に判断したい、などと述べていますが、根本的に間違っています。


 というのは、今の日本の最大の問題は景気の悪さ(不況)

 ではないからです。


 この20年間日本はずっと不況でしたが、それでも餓死者が続出する

 わけでもなく、失業率も4%台でスペインのような大きな数字には

 なっていません。


 つまり、日本という国は景気が悪くなっても、

 つぶれることはないのです。


 それよりも、GDPの2倍という歴史上類を見ない莫大な借金を抱えた

 財政こそが、日本の最大の問題です。


 約1000兆円の借金のうち、大半は自民党が生み出したものです。


 だから、今の政府はなるべく手を付けたくないという心理が

 働いているのでしょう。


 飛行機に例えるなら、不況というのは

 「乱気流になって揺れますのでご注意ください」程度の話ですが、

 財政問題は「墜落します」と同義です。


 かつて今の日本ほどの借金を抱えた国もなければ、

 そこから回復した国もありません。


 さらには、毎年80万人ずつ就労人口が減っていく日本では、

 借金を返す人がいなくなる時代が、すぐそこに迫っています。


 まず、この重要性を認識して欲しいと思います。


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 ▼ 日本は米国化し、輸入国になった

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 財務省が24日発表した貿易統計によると、1~6月期の貿易収支は

 4兆8438億円の赤字でした。


 上期ベースでは3年連続の貿易赤字。


 赤字額は前年同期(2兆9168億円)を上回り、比較可能な

 1979年以降で最大となったとのことです。


 原発稼働を停止したため、燃料の輸入が増加したことが

 大きな要因になった、という報道もあるようですが、

 これは本質的な問題を指摘していません。


 確かに、直近の数字で輸入が大きく伸びていることは確かですが、

 貿易収支のグラフを長期スパンで見れば、

 右肩下がりの傾向にあるのは明らかです。


 増加したという鉱物燃料の輸入額も2008年と同レベルであり、

 突出して大きな数字だったというわけではありません。


 日本の貿易収支には、反転の兆しは全く感じられません。


 これは日本が米国化したことを意味しています。


 すなわち、日本は輸入国になったということです。


 今、日本企業は海外でモノを作って日本国内の販売網で販売する、

 という形態に変化しています。


 かつて米国が経験した「3つ子の赤字」問題のうち、2つの赤字を

 日本も抱えてしまっている状況なのです。


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 ▼ 安易に「国益」という言葉をつかって、ごまかすな

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 日本政府は23日午後、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に

 正式参加しました。


 日米両国を軸とする巨大な貿易圏作りが動き出し、

 アジア太平洋を巡る経済や安全保障の枠組みに大きな影響を

 与える見通しとのこと。


 私が気になったのは、交渉担当官がしきりに「国益」を

 強調していたことです。


 私に言わせれば、彼らが言う「国益」は「少数利益団体の利益」

 であって、本当の意味での「国益」ではありません。


 国民消費者から見れば、良いモノが安く購入できることは

 非常にいいことです。


 そうした観点を無視して、自分たちの都合だけで「国益」を

 語るのはおかしな話です。


 安易に「国益」などという言葉を使わずに、

 正直に言えば良いのです。


 自民党には「国益」と称して、利益を守るべき団体があって、

 そういう存在が自民党を支えているとも言えます。


 ただ、そのような事情は米国でも同じでしょう。


 オバマ大統領にしても理解できるでしょうから、

 「お手柔らかに」と言えば良いのです。


 こうしたことさえ理解できずに、安易に「国益」という言葉を

 使うのは、明らかに新聞記者の認識不足だと思います。



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