大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON475「永住権・オーストラリア経済・捕鯨問題~本質的問題を捉えて解決策を考える」

2013年7月19日



 永住権 新たな永住権創設を検討

 オーストラリア経済 オーストラリア経済にもたらす「成長の果実」

 捕鯨問題 捕鯨裁判で日本側が反論


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 ▼ 永住権の創設だけで簡単に移民は増えない

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 政府は成長戦略の一環として優れた能力を持つ外国人を呼び込むため、

 経営者や技術者を対象にした新しい永住権の創設を検討する方針を

 発表しました。


 日本に3年間滞在すれば申請でき、通常の永住権では認められない

 配偶者の就労や親、家政婦の帯同が可能になるとのこと。


 専門性の高い外国人が長期滞在しやすい環境を整え、

 外資系の誘致や日本の研究開発力の向上につなげる狙いです。


 これは就労人口が年々減っている日本にとっては、当然必要なことです。

 

 似たようなルールはすでに適用されていますが、

 実際に永住権を取得する高度人材の外国人が急増しているわけでは

 ありません。


 住環境の整備、子供の教育問題など、何かしら外国人が

 日本に移住する妨げになっていることがあるのだと思います。


 今回の新しい永住権の創設だけで、オーストラリアのように

 多数の移民が日本に入ってくるという状況を作るのは難しいでしょう。


 日本は世界的に見ても、外国人労働者が少ない国です。


 米国は別格としても、ドイツやシンガポールにもはるかに及びません。


 シンガポールなどは能力を基準に永住権を付与していますが、

 この点も日本が苦手とするところです。




 工事現場での労働力として外国人労働者を雇うことはしてきましたが、

 特殊技能を持つ優秀な人材を受け入れることは、

 これまでの日本ではほとんど実績がありません。


 しかも当然のことながら、特殊技能を持つ優秀な人材は

 世界中の国から引く手あまたです。


 こうした点を考慮しても、日本が新しい永住権の創設をしても、

 それだけ簡単に移民が来てくれると考えるのは甘いと思います。


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 ▼ 日本はオーストラリアの移民政策に学ぶべき

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 ロイター通信は、移民受け入れで人口拡大、豪経済にもたらす

 「成長の果実」と題する記事を掲載しました。


 経済成長が続いているオーストラリア経済について、

 毎年約25万人に上る移民の受け入れが同国の成長要因の一つ

 であることは見過ごされがちと指摘。


 移民受け入れにより、住宅や自動車、教育から医療に至るまで、

 あらゆる分野での需要が支えられていると紹介しています。


 一時期、人口が1500万人から増えなかったオーストラリアが、

 移民受け入れに舵を切り、現在人口は2300万人近くまで

 増加しています。


 若く、能力が高く、高所得層の人材です。


 こうした25万人もの移民のおかげで、今オーストラリアは

 新興国のような特徴を持ち始めています。


 GDPの成長率も順調ですし、総じてオーストラリア経済は堅調です。


 かつて資源価格の乱高下によって、国の経済が影響を受けた頃とは

 明らかに違う国になっています。


 オーストラリアは2300万人の人口で、

 毎年、正味で20万人ほどの移民を受け入れています。


 同じレベルで言えば、日本は100万人規模の移民受け入れが必要です。


 私は常々、80万人の移民受け入れを提言してきました。


 このくらいの規模で移民を受け入れなければ、

 日本の就労人口の減少は抑えられないでしょう。


 GDPの維持すら難しい状況になると思います。


 ぜひオーストラリアを参考にして、移民政策を検討して欲しいと

 思います。


 そのためにも、日本は非建設的な役人体質から

 いち早く脱却することも大切でしょう。


 日本のくだらない役人体質が見事に表れてしまったのが、

 捕鯨問題です。


 日本の捕鯨は国際条約に違反するとしてオーストラリア政府が

 国際司法裁判所に起こした裁判で、日本側は2日、オーストラリアの主張は

 文化の押し付けだとし、捕鯨による両国の考え方は文化の違いによるもの

 だと反論しました。


 1946年の国際捕鯨取締条約では科学調査目的の捕鯨が認められており、

 日本はこれを根拠に南極海で毎年調査捕鯨を続けていますが、

 オーストラリアは日本が商業捕鯨という真の目的を隠ぺいしている

 と訴えています。


 毎年この議論は平行線をたどっているわけですが、

 率直に言えば日本の言い分は、嘘・イカサマです。


 調査目的と言いながら、鯨を販売しているのは明らかです。


 農水省の利権を守るためであって日本の文化・伝統も関係ありません。


 実は先日の裁判で、日本側にある1つの質問がありました。


 それは、

 「もし調査目的だと言うのなら、殺さずに調査する方法はないのか?

 キャッチアンドリリースすることはできないのか?」というものでした。


 実にシンプルな質問ですが、本質に迫る質問です。


 日本側はまともに回答することができませんでした。


 結局、調査目的などと役人のイカサマで物事を進めようとするから、

 こういう事態になるのです。


 「我が国の漁民の生活もあるので一定量の捕獲は認めて欲しい」と

 素直に言えばいいと思います。


 実際、アイスランドはそのように主張しています。


 日本はおかしな役人体質から脱却し、いい加減態度を変えるべき

 時期が来ていると思います。


 捕鯨問題に限らず、非建設的・非生産的な役人思考ではなく、

 問題の本質を的確に捉え、それを解決する思考を

 身につけて欲しいと思います。



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