大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON468「日本の標準時間と国家戦略特区~類似した事例を調べて施策の有効性を考える」

2013年5月31日


 東京都・猪瀬知事

 標準時間を2時間早める提案

 国家戦略特区

 新特区構想案を発表


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 ▼ 東京で標準時間を2時間早めるのは、物理的に難しい

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 東京都の猪瀬直樹知事は「日本の標準時間を2時間早める」

 という構想を発表しました。


 22日の産業競争力会議で、無駄にしていた日照時間を有効活用でき、

 消費電力が抑制できること、明るい時間に仕事が終わり、

 アフターファイブ需要が生じるなどと利点を強調したとのことです。


 都知事として産業競争力会議で何かしらの提言をしようと試みた、

 という点では評価できますが、現実的には難しいと

 言わざるを得ません。


 私は以前、北海道にサマータイムを導入することを提案したことが

 あります。


 北海道の場合には、朝4時台くらいには明るくなってきますから、

 夏に限れば2時間ずれても問題はありません。


 そして、その結果としてロシアと同じ時刻になるという

 大きなメリットを狙ったものでした。


 これは、シンガポールの狙いと同じです。


 シンガポールが今の標準時を採用したのは、

 中国と合わせることで経済活動をスムーズに行いやすくする

 という意図がありました。


 また猪瀬都知事の提案するように東京で2時間標準時間を

 変更しても、金融機関が東京に集まってくるという

 保証はありません。


 市場が成り立てばいいだけなので、必ずしも東京に金融機関が

 集まる必要はないからです。


 そして、現実的に難しいのは「物理的な」理由も

 大きく影響します。



 冬の東京では、夕方6時にはすでにかなり暗くなっています。

 これが2時間ずれると夕方4時になるわけです。


 朝は真っ暗闇の中通勤することになるでしょう。

 こういうことを考えると、おそらく相当の反発が予想されます。


 猪瀬都知事の提案とは全く関係なく、私は1時間ほど標準時を

 ずらす意味があると思っています。


 帰宅してもまだ明るいうちに2時間~3時間あれば、

 何かやりたいことをする時間にもなるでしょう。


 また、かつて私が試算したときには、サマータイムを

 導入することで消費電力が15%程度少なくできると見積もりが

 出ました。


 しかし大きな反発があることを、私は身を持って

 体験しているので分かります。


 明るい時間帯でサラリーマンが家に帰るとなると、

 いわゆる夜の街で働く人たちから反対を受けます。


 また戦後の米軍が駐留している時にサマータイムを

 経験している年配の方からは、サマータイムは嫌だという

 感情的な反対も受けました。


 猪瀬都知事の意気込みは感じますが、

 この問題は一筋縄ではいかないものです。


 現実的に今回の提案が実現することは難しいでしょう。


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 ▼ 外国企業のみの「特区」を作っても意味が無い

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 政府が地域を限って大胆な規制緩和や税制優遇を検討する

 新特区「国家戦略特区」に関する東京都の構想案が

 21日明らかになりました。


 誘致した外国企業の法人実効税率を

 20%まで引き下げる目標を掲げ、海外の名門大学の誘致などで

 外国人向け教育や医療を充実させる狙いとのことです。


 法人税率を20%にすることで世界から日本へ誘致したいと言っても、

 世界にはアイルランド(12.5%)やシンガポール(17%)が

 あるので、それほど効果はないと私は思います。


 もし本当に誘致を狙うのであれば、さらに法人税率を下げる

 必要があるでしょう。


 根本的な点を指摘すると、私はそもそも「外国企業」のみに

 適用するのではなく、「日本企業」にも適用するべきだと

 思っています。


 というのは、こんなことをしたら日本企業が本社を海外に

 移してしまうからです。


 ロシアは今回の「国家戦略特区」と同様に「外国企業」に

 対してのみ法人税の優遇があります。


 結果、ロシアはどうなったか?と言うと、キプロスに資金を

 持ちだして、キプロス経由で外国名義でロシアに

 投資をするようになりました。


 ロシアへの投資額が一番大きいのはキプロスですが、

 これはキプロス人ではなく、ロシア人がキプロス経由で

 投資しているのです。


 日本の場合に想定されるのは、シンガポールに会社を移して、

 シンガポール経由で「特区」の恩恵を受ける企業が

 続出することです。


 せっかく特区などを作っても、結果としては日本企業の本社が

 外国に出て行くだけでおわりです。


 これがグローバル企業の動きであり、今回の提案は

 このような動きを全く知らない人が作ったとしか思えません。


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