大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON462「サッチャー改革と英国経済~取り組みを実現して成果を出す」

2013年4月19日


 英サッチャー元首相が死去

 ~8日・87才~

 「小さな政府」で経済自由化実現

 1979年から11年間首相勤め


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 ▼ 30代の若手を集めた、影のキャビネットによる小さな政府の実現

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 鉄の女と言われ、1979年から11年間イギリス首相を務めた

 マーガレット・サッチャー氏が8日、脳卒中のため死去しました。

 

 強い指導力で国営企業の民営化や規制緩和を進め、

 小さな政府を目指し経済の自由化を実現する手腕は、

 他の先進国の経済改革に大きな影響を与えました。


 日経新聞に連載されたサッチャー元首相の

 "私の履歴書"は、素晴らしいものだったと思います。


 実際、彼女の記憶力、信念は素晴らしいものがありました。


 サッチャーさんは首相になった後、影のキャビネットを作りました。

 

 通常は野党が作るものですが、彼女はロンドン大学教授を

 リーダーにすえ、そこに私のマッキンゼー時代の同僚や、

 ロイヤル・ダッチ・シェル、バンク・オブ・イングランドなどの

 イギリスの一流企業に在籍する30才から35才までの若手を

 7,8人集め、毎週水曜日の午後に必ず自分自身の時間を

 とっていました。


 そこでは、自分が出したポリシーがイギリス各地に

 どのように受け入れられ、どうしたら上手くいくか。

 またポリシーとしてどういうものを出したらいいかを、

 全てこのメンバーに調べさせ、議論させました。


 私も一度、日英関係をテーマに参加しましたが、

 非常にユニークだと感じました。


 日本の安部首相だと、年齢の高いアドバイザーを招集したり、

 臨時の会議や委員会を作って議論させたりします。


 彼女は、常設の優秀な若手7名プラス先生を集め、

 自分の部屋で一週間議論させ、自分のポリシーの言い方が

 難しくないかなど、全部若手の言いたいように言わせ、まとめていくのです。


 この仕組は猛烈な効果を発揮し、サッチャー改革を支えた施策だと思います。


 また、彼女は根っからの小さな政府論者で、

 10年以上経済戦略研究所の副所長でした。


 そして、イギリス病の根治に相当な信念をもって取り組みました。


 世論や朝日新聞の反応を気にする日本の政治家とはだいぶ違います。


 そのため潰れた産業や街もあり、恨みも買いましたが、

 絶対にぶれませんでした。


 あまりにも急な改革に反発し、彼女の人気が急落した時期もありましたが、

 その直前にアルゼンチンがフォークランドに攻め込みました。


 彼女は強硬な姿勢を貫きました。


 アンドリュー王子もヘリコプターのパイロットとして

 従軍したことでも知られています。


 結果的に彼女は罷免されませんでした。


 その後、ゴルバチョフとレーガンの間をとりもち、

 冷戦終了まで持ち込みました。


 その意味で、彼女は信念に基づく傑出したイマジネーションを

 持っていたと思います。


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 ▼ 現在のイギリスを形作った、サッチャー改革7つのポイント

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 小泉元首相も小さな政府を提唱はしていましたが、

 郵政改革は選挙終了とともに中途半端なまま、

 再官営化に向かってしまいました。


 改革を続けることは非常に難しいものです。


 BBCのサッチャー元首相追悼番組では、労働党の人が口汚く

 罵っていました。


 どうしても恨みを買ってしまうものです。


 サッチャー改革のポイントは、民営化、財政、税制、規制緩和、

 金融政策、社会保障、労働組合でした。


 特に、税制では所得税率を83%から40%下げたのは素晴らしい。


 金融政策では、シティを世界金融の中心にするということもしました。


 ウィンブルドン化を伴う施策でしたが、この一連の改革がなければ、

 今のイギリスはトップクラスの国から脱落していたかもしれません。


 彼女がいなければ、あのまま衰退が続き、活力も全くなく、

 金融業も発展しなかっただろうと思います。


 ちなみに、現在、英景気の3番底が懸念されています。


 カナダ中銀のカーニー総裁をイングランド銀行の総裁へするという

 抜擢人事も発表しています。


 成長率も右肩下がりで失業率もサッチャー時代の20%弱より

 低いですが、8%台と上昇し、景気はあまり良くありません。


 ですが、EU諸国と異なり共通通貨を使っていないので、

 通貨調整できるので楽な面はあると思います。


 私は、イギリス人だけではなく、世界は彼女のような政治家の

 英知に感謝するべきだと思っています。


 特に、レーガンとサッチャーは非常に相性が良く、

 小さな政府を掲げ、お互いに徹底的な規制撤廃を行っていきました。


 日本はサッチャー革命の入り口にもきておらず、サッチャー革命の

 前のイギリスと同じ状況です。


 大きな政府へとひたすら向かっています。


 おそらく、サッチャー改革のなんたるかを、日本の政治家で

 わかっている人はいないと思います。


 日本の政治家がサッチャーのことを理解するのは

 まず無理だと思います。


 少なくとも、10年勉強しないと駄目だと思います。

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