大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON454「ベネズエラ情勢とオバマ政権の政策~システムを機能させる条件」

2013年2月22日


 ベネズエラ情勢

 チャベス大統領の写真公表

 米オバマ大統領

 中間層底上げで経済再生


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 ▼ 民主主義の弱点と独裁体制の利点

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 ベネズエラ情報省は15日、キューバでがん治療中のチャベス大統領の

 写真を公表しました。


 チャベス氏は昨年末にがんが再発し、1月に予定されていた4期目の

 就任式を欠席していました。


 重篤状態と報じられ職務復帰が危ぶまれていましたが、

 写真の公表により支持者や政敵に回復ぶりをアピールする狙いがある

 とみられています。


 しかし、写真を見る限りとても大統領職を果たせるとは

 思えませんから、ベネズエラは後継者を決める必要があるでしょう。


 ベネズエラが独裁国家か否かは意見が別れるところでしょうが、

 近年、一般的に独裁体制と言われる国が民主化した事例を見ていると、

 私は次のように感じてしまいます。


 すなわち、「民主化した国家よりも、独裁体制のほうが安定していた」

 ということです。


 民主主義を否定するつもりはありません。


 しかし、現実的には「ギリシャの教訓」からも分かるように、

 民主主義は「啓発された市民」を前提に成立するものです。


 スイスのように数百年にわたって自らを磨き続け、村レベルから

 統治について試行錯誤しているような国であれば、民主主義は

 非常に有効でしょう。


 翻って日本をみてみると、今の日本のマスコミ、

 政治家を前提とした場合、選挙をしても国が良くなっていないのは

 明らかです。


 では独裁者に全面的に賛成するか?と言えば、そうではありません。


 しかし「Benevolent Dictatorship(善意ある独裁)」であれば、

 結果的に効率の良い国家運営ができるというのも事実です。


 例えば、シンガポールのリー・クアンユー氏は良い例です。


 さらに言えば、サダム・フセインやムバラクは善意ある独裁者では

 ありませんでしたが、彼らの時代のほうが国家は安定していた

 というのは、皮肉な事実だと思います。


 イラクもエジプトも市民は今よりも落ち着いていました。


 特にイラクは、当時は海外からの旅行も可能でしたが、

 今は全く不可能な状況です。


 近年のリビア、エジプト、イラクの事例を見ると、

 民主主義的な解決策が、かえって部族間の対立を深め、多数民族の

 横暴を招いていると言えます。


 これは歴史的に見ても同じことが言えます。


 ギリシャ最大の教訓である

 「民主主義は啓発された市民でなければ維持できない」ということを、

 今あらためて認識すべきだと思います。


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 ▼ オバマ大統領はもっと世界視野で。日本は移民政策の検討を。

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 オバマ米大統領は12日の一般教書演説で経済政策に大きな比重を置き、

 中間所得層の底上げで米国経済の再生を目指す決意を示しました。


 「数カ月以内に移民制度を改革する包括法案を通してくれれば、

 ただちに署名する」と述べ、増加する不法移民に市民権獲得への道を

 開くと言われる法案について、議会に協力を求めました。


 2期目を迎えた米オバマ大統領の動きを見ていると、

 非常に「ドメスティック」だと感じます。


 1期目は「核なき世界を実現する」というテーマを筆頭に、

 世界中を幸せにするという大きなビジョンを掲げていました。


 チェコのプラハで行われた演説など、聞いているだけで興奮する

 ほどのものでした。


 しかし今回の一般教書演説を見ると、銃規制の問題、

 移民政策の問題など、どこに目を向けても基本的に

 「ドメスティック」な話題ばかりです。


 米国内で低収入層であるヒスパニックの人口が南部を中心に

 増加傾向にあり、5000万人を突破したと言われています。


 そんな中、最低賃金の問題が話題になっていますが、世界一の

 経済大国である米国の大統領が「最低賃金9ドルまでの引き上げ」

 を提案しなければならないのは、情けない話です。


 一般教書演説の中で唯一目新しいのは、環太平洋経済連携協定(TPP)

 と欧州連合(EU)との貿易・投資協定くらいです。


 私に言わせれば3期目はないのだから、もっと世界全体を見据えた

 大胆な政策を実施してほしいと思います。


 移民政策の問題については日本にとって他人事ではありません。


 シンガポールやオーストラリアが移民政策で成功しているのに対し、

 日本は未だ手を付けておらず、人口減少への対策が遅れている状況です。


 移民の受け入れに対し、石原慎太郎氏などは

 「日本中、新大久保になっていいのか?」と反論していますが、

 私はそうは思いません。


 無論、無計画に受け入れれば、そういう危険性はあるでしょう。


 大切なのは、「日本に来てほしいのは、こういう人だ」という

 ターゲットを明確にすることです。


 例えば、シンガポールは移民の受け入れに際し、学歴に加えて、

 金融ディーラー、ITエキスパート、バイオ研究者など、

 自国に不足しているスキルや将来必要な資格を保有することを

 条件にしていました。


 労働人口が年々減り続けていますから、日本でも長期的には

 「優秀な人材」を「移民として」受け入れていかなければ

 ならないでしょう。


 少なくとも、全面的に拒絶するのではなく、移民受け入れの

 試行錯誤くらいは始めるべきだと思います。

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