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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON450「新貿易統計と円相場~新たな視点を持って実態を把握する」

2013年1月25日


 新貿易統計

 新たな貿易統計を発表

 円相場

 「円安で困る産業もある」


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 ▼ 付加価値に基づく貿易統計は非常に重要な指標

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 経済協力開発機構(OECD)と世界貿易機関(WTO)は16日、

 新しい貿易統計を公表しました。


 複数国に生産拠点が分散する国際分業の浸透を踏まえ、

 付加価値の流れを追うことで通商関係の全体像を把握できるものです。


 それによると、日本の輸出先は米国が最大で、輸出総額に基づいた

 これまでの統計で最大だった中国を上回りました。


 今後も従来の統計も発表されますが、この新たな貿易統計は

 非常に重要な指標だと思います。


 なぜなら、多国籍企業が増えた今の時代において、

 より貿易の「実態」に即した統計だからです。


 これまでの統計だと、日本から中国へ60の部品を輸出し、

 中国がその部品を使って米国へ100の輸出をしていた場合、

 中国から米国への輸出は「100」と計算していました。


 今回の新しい貿易統計では、中国の米国への輸出は

 「(100-60で)40」になります。


 これは、中国における付加価値を示しています。


 そして、日本から米国への輸出として「60」と計算されます。


 多国籍企業が増えてくると、「最終的な顧客は誰か?」

 という点が複雑になってきます。


 日本で作られている部品が(中国を経由して)最終的に

 米国で使われている、という意識が弱くなってしまいます。


 ここを明確にしてくれる統計だと思います。


 米国は中国からの輸出額の大きさに過剰に反応していますが、

 この統計を見ると実際には「日本のものを買っている」

 ということが明らかになるかも知れません。


 もしかすると、再び日本バッシングが起こる可能性もあるでしょう。


 新しい統計に基づく日本の輸出先で見ると、

 米国19.3%、中国14.6%、韓国4.3%となっています。


 中国は相変わらず日本にとって重要な輸出先だと言えます。


 また、台湾や韓国は対日赤字が大きいと不満を述べていますが、

 この統計だとそれほど極端な数値にはなっていません。


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 ▼ 円安歓迎ではなく、新しい見解を持つべき

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 自民党の石破幹事長は16日、円相場について

 「1ドル100円がいいという産業もあるが、円安になって困る産業もある」

 との認識を示しました。


 これを受けて外国為替市場が円高に振れたことについて、菅官房長官は

 「発言は全く意図的ではない。市場は過度に反応し過ぎではないか」

 と政府と石破氏の認識は共通であると強調しました。


 石破氏の発言は正しい認識だと私も思います。


 安倍首相の経済政策「アベノミクス」の心理的な効果として、

 ドル・ユーロ・ポンドのいずれも円安に大きく振れていますが、

 これが諸手を上げて賛成すべきかといえば、そうではないでしょう。


 貿易統計を見ると分かる通り、日本は少し輸入が大きくなって

 貿易赤字になっていますが、ほぼ輸出と輸入は均衡しています。


 全体から見て均衡しているということは、

 為替に対しては中立だということです。


 これまで過度の円高で苦労した企業が多いので、

 円安になってホッとしている企業が多いというのは事実だと思いますが、

 円安になれば「困る人が半分、喜ぶ人が半分」なのです。


 一般庶民の立場からすれば、輸入品の食品やアパレルの値段が

 上がるので困る人の方が多いでしょう。


 マスコミの「円安万歳」という風潮は、行過ぎても困るものです。


 特にアベノミクスの効果によって円安が一気に進んでしまうと、

 1ドル130円、140円となってハイパーインフレになる危険性があります。


 こうした事態も念頭において警戒するべきだと思います。


 日本の実態として、円高を歓迎する輸出企業も

 比較的少なくなってきています。


 海外に生産基地を移している企業も増えてきています。


 一昔前の常識のまま、ワンパターンに「円安」を

 歓迎するべきではありません。


 いまだにトレーダーの認識は古いままなので、株式市場は

 円安になると株高に動いていますが、

 今後は新しい見解を持つ必要があると私は思います。


 現時点で見ると、1ドル90円ぐらいが良いレベルではないでしょうか。


 ここから大きくズレてくると、困る産業が出てくると思います。

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