大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#146 「教育改革」それぞれの役割と責任

2007年1月19日

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ゆとり教育の見直し明記へ
公立校の授業時間1割増やす
社会人教員採用、5年で10倍の500人へ
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●職業教師ではなく、社会全体で教育の担い手になるべき


12日、政府の教育再生会議は、
「公立校の授業時間を現状より1割増やす」との提言を盛り込む
方向で調整に入りました。


また、公立校の社会人の教員採用を5年後を目処に約10倍の
年間500人程度に引き上げる目標を設定したとのことです。


教育改革に着手すべきというのは、私も賛成するところですが、
このような政府の教育問題についての姿勢を見ていると、
全く本質が分かっていないと感じます。


私に言わせれば、今回の教育再生会議の提言は、
そもそも構造的に間違いだと思います。


それは、職業教師としての教員では、
もはや現代の日本において教育を担える立場にないという
前提が理解されていないからです。


一方で、教育を受ける子供たちはといえば、
インターネットなどを通じて、かつてからは考えられない
くらい社会の実態に接する機会があります。


ここに、職業教師としての教員と子供たちとの関係性に、
明らかな乖離が生じてしまいます。


だから、いくら職業教師を増やしても実際的な意味での
教育としての意味はほとんどないと私は思います。


むしろ、安定的な教師という職業に安住し、さらに教育が
腐敗するのを助長してしまうのではないかと危惧しています。


では、誰が教育を担えばいいのか?
どのような教育を行えばいいのか?


私は、社会全体が「面」として教育に参加し、
各論としての教育を展開するべきだと思います。


わざわざ、教員などにする必要がなく、社会人がそのまま
教育に参加し、自らの社会経験を踏まえた上で、
子供たちに伝えられることがあるはずだと思うのです。


例えば、5人の子育てを経験した母親が、子育てについて
話をするのもいいでしょうし、消防士の人がたばこによる
火事の実情を話してもいいでしょう。


あるいは、弁護士が借金をすることの問題について語っても
いいでしょう。


さらに言えば、教育改正の音頭をとる安倍首相も自らが、
教育の現場に赴いて授業をやればいいのです。


それをコンテンツとしてネット配信することができれば、
非常に効果は高いだろうと思います。


このようにすると、今のような役人が書いた原稿を
ただ読み上げたようなものでは、コンテンツとしての価値が
ないことが明らかになりますから、一石二鳥かもしれません。


職業教師と子供たちとの構造的な問題に着眼せず、
総論ばかりを論じていても、教育改正の問題は一向に解決へと
向かわないだろうと私は強く感じます。



●心の教育問題も、総論で論じてはダメ。
         家庭で価値観を、学校で事例を教えるべき


いじめ問題や家族間での陰惨な事件のニュースが
後を絶たない現状に対して、「心の教育」の重要性を
論じる人がいます。


心の教育そのものが悪いとは思いませんが、
ここでも同じように学校教育の中で総論ばかり論じていても、
全く意味がないと私は思います。


例えば、学校で倫理観の重要性を説き、二宮尊徳のことを
教えても、ほとんど効果は望めないと思います。


このような教育はこれまでも「道徳」の授業として
行われてきましたが、結局のところ、とってつけたような
教育のため、子供たちの心には届かなかったのでは
ないかと思います。


この問題は、家族や友人関係という小さなコミュニティが
崩壊していることが根本的な原因でしょう。


だから、まず家庭から教育を始めなければなりません。
家庭の中で基本的な価値観をきちんと教えるのです。
特に、私が重要だと感じているのは「責任」という
価値観です。


家族の中の自分の責任、友人間での自分の責任、
会社の中での自分の責任。


こういった責任をしっかりと果たすという価値観について、
家庭の中から教育するべきだと思います。


その上で、学校教育の中で、価値観に基づいた
社会人としての具体的な経験を、事例として子供たちに
伝えていけばいいでしょう。


「かつての学校で知り合った友人たちの人間関係は
 どのようなものになったのか」


「社会に出てから友人がいない人がどのような苦労をして
 いるのか」


このようなことを具体的に伝えていけば、子供たち側も、
今の友人関係をより大切にするようになるでしょうし、
あるいは、旅先などで積極的に他人と係わり合いになるような
行動に変わるかもしれません。


心のケアだ、心理学的にどうだ、といった抽象的な総論は
無意味です。


家庭の中で基本的な価値観を伝え、学校ではその事例を
具体的に伝えながら、実際の生活の中でどのような影響が
あるのかを教育していかなくてはならないと私は思います。


今回の教育再生会議だけではありませんが、
総論ばかりを論じて、結局は効果がほとんどないことに
時間と労力を費やしてしまうのは、政府・役人の非常に
良くない体質でしょう。


前回も述べたように、特に教育体制の整備は今後の
日本にとって非常に重要な課題です。


政府には早急に体質改善をしたうえで、
効果のある教育制度の整備に着手してもらいたいと思います。


                                 以上


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