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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON438「ソフトバンクのM&Aと今後の課題~買収後の黒字化戦略を考える」

2012年11月2日

 ソフトバンクがM&A加速

 イー・アクセスと経営統合

  

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 ▼ ソフトバンクとスプリント・ネクステルが合併しても、状況は厳しい

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 ソフトバンクとイー・アクセスは1日、両社の経営統合とソフトバンクモバイル

 とイー・アクセスのLTE回線の相互乗入れを発表しました。


 またソフトバンクは15日、米携帯電話会社大手スプリント・ネクステルを

 買収すると発表。


 買収総額は1兆5709億円にのぼる見通しとのことです。

 イー・アクセスとの経営統合は、帯域のカバーを狙っているのでしょう。


 テザリングへの対応を含め、NTTドコモとKDDIに遅れを取らないよう

 意識を強めていると感じます。


 一方でスプリント・ネクステルの買収については、その「真意」を

 図りかねるというのが率直な感想です。


 ソフトバンクの発表によると、スプリント・ネクステルを買収することで

 契約者数は9000万人に達し、NTTドコモの6000万人を超えるということです。


 しかし日米という異なる国の契約者数を足し合わせても、

 単純には比較できないので意味がないと思います。


  またスプリント・ネクステルの契約件数は米国では3位の携帯電話会社ですが、

 AT&T(1位)とベライゾン(2位)との差が大きく開いています。


 契約者数はかろうじて約2倍の差で収まっていますが、

 売上高では約3倍~4倍、時価総額では約10倍の違いがあります。


 さらには、AT&Tとベライゾンが約2000億円~3500億円もの安定した利益を

 出しているのに対し、スプリント・ネクステルは赤字です。


 最近では契約者数も減少傾向で、基本的にかなり「苦しい状況にある会社」

 と言わざるをえないと思います。


 日本の3位であるソフトバンクが、米国3位とは言いつつも苦しい状況にある

 スプリント・ネクステルを買収しても、1位や2位との差は大きく、

 収益的にも上手くいくのかどうか私には疑問です。


 3位同士が手を組んでみたが

 「結局、日本でも米国でも(どこでも)利益は出なかった」

 という事態に陥る可能性も大いにあると思います。


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 ▼ ソフトバンクは、スプリント・ネクステルを黒字化できるか?

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 スプリント・ネクステルを買収した後、どのように活用できるでしょうか?


 世界共通のシステムにすることで、スプリント・ネクステルのプログラムを

 日本でも使えるようにできれば、海外に出かけた時もローミング不要で

 自動的にスプリント・ネクステルの回線に切り替わる、

 ということが可能になるでしょう。


 ただし、かつて同じようなことをボーダフォンも試みていましたが、

 基本的には国内インフラが重要であり、実現しても重要な意味を持たない

 施策だと言えます。


 ソフトバンクの孫社長のことですから、何か狙いがあるのでしょう。

 

 ドイツテレコムでも黒字化できなかったスプリント・ネクステルを、

 ソフトバンクがどのように黒字にさせるのかお手並拝見したいと思います。


 ソフトバンクはボーダフォン買収に際して抱えた2兆5000億円の

 有利子負債の完済を目指し順調に負債を減らしてきていましたが、

 今回の買収で再び2兆円を超える有利子負債を抱えることになります。


 国内のNTTドコモ、KDDIとの争いが泥仕合の様相を呈してきて、

 再びここで大きな負債を抱えることで、ある種の「緊張感」を

 孫社長が求めているのではないかと私は感じてしまいます。


 フリーキャッシュフローもマイナスで、多額の有利子負債を抱えた

 スプリント・ネクステルという赤字会社を買収し、AT&Tやベライゾンという

 圧倒的な巨人に対して、ソフトバンクがどのような戦略に打って出るのか、

 今後注目したいと思います。

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