大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON437「中国経済と日中関係~鈍る経済成長と政治の揺らぎを考える」

2012年10月26日

 中国経済 7-9月期のGDP成長率7.4%

 中国情勢 薄煕来事件が暴く中国の腐敗度

 日中関係 野田首相、石原都知事の尖閣めぐる会談に言及

  

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 ▼ 経済成長に魔法なし、中国経済も鈍化の一途。

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 中国国家統計局が18日に発表した7-9月期のGDP成長率は

 前年同期比7.4%増加となりました。


 7四半期連続の鈍化ですが、同日発表された9月の工業生産と小売売上高は

 いずれも前月の伸びを上回ったほか、追加景気対策への緊急性は低下したと

 見られています。


 短期的な視点で見ていると中国経済の状況を把握しづらいのですが、

 長い目で見ると落ち込んできているのは明白です。


 中国のGDP成長率は、2010年には12%台、2011年に9%台、

 そして今回7%台を記録しました。


 中国政府は8%台を死守したいという意向を示していましたが、結局、

 相当の景気刺激策を実行したにも関わらず7%台に落ち込んでしまいました。


 中国にしても経済成長に「魔法」はなく、もうかつての高成長率の時代が

 終わったということでしょう。


 今後も成長率は低下していくと思いますが、順調に4%、3%と軟着陸

 できれば御の字だと思います。


 ただし、その場合にもこれまでの経済成長に乗り遅れた人たちの

 不満が残ってしまうでしょう。


 すでに豊かになった人は問題ないのですが、これから豊かになろうとしている

 人たちが、いま中国には7億人いると言われています。



 彼らからすれば、経済成長が止まり、自分たちが見過ごされてしまうのは

 許せないと感じると思います。


 いまでも中国はGDP成長率で7.4%伸びているわけですが、

 実際、鉄鋼業界などに見る市場の縮小ぶりは相当なものです。


 数字で見るよりも、実態はかなり厳しい状況になりつつあると感じます。


 そのような状況において、中国の政治も揺らいでいます。

 

 5日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、「薄煕来事件が暴く中国の腐敗度」

 と題する記事を掲載しました。


 また9日付のダイヤモンド・オンラインは、

 「どうも、中国の政治・経済の様子がおかしい」とする記事を掲載。


 政権交代に絡む権力闘争や地方政府の反発などを背景に、

 中国の一党独裁体制が揺らいでいると指摘しています。


 また経済減速への舵取りや格差に対する民衆の不満に対処できるのか、

 欧米の専門家も測りかねていると紹介しています。


 11月19日の党大会で、次の10年を担う政権が発足する予定ですが、

 未だに中国の政界は読めない状況です。


 上海閥と中国共産主義青年団出身者の争いも続いているようですし、

 胡錦濤と習近平も一枚岩ではないと報じられています。


 外から見ると粛々と政権交代が行われているように見えますが、

 まだまだサプライズがある可能性もあると私は見ています。


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 ▼ 日中関係は、理不尽な領域まで悪化してしまった

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 民主党の前原国家戦略担当相は12日、8月に行われた野田首相と

 石原東京都知事の会談について、

 

 「首相は国として尖閣諸島を所有しないで、東京都に渡したら

 大変なことになると判断した」


 と述べ、首相の尖閣諸島国有化の最終決断は、石原都知事の対中強硬姿勢が

 理由だったとの姿勢を示しました。


 またそのような中、台湾の「国家交響楽団」が予定する中国公演で、

 同楽団の3人の日本人団員だけが中国当局から受け入れを

 拒まれていることが明らかになりました。

 

 野田首相としては、東京都に尖閣諸島を購入されてしまうと、

 日本政府と中国との密約を反故にすることになってしまうので、


 それを避けたかったということでしょう。中国との関係を悪化させない

 ために「国」が購入するという選択肢をとったわけですが、

 それを上手に中国側に伝えられず、結果として中国の怒りを

 買ってしまったというわけです。


 前原氏の発言に対して石原都知事は「お粗末」だと評しているようですが、

 私に言わせれば石原都知事も同様です。


 もし私が野田首相の立場だったら、石原都知事を一喝したと思います。


 石原都知事は「戦争も辞さない」と発言したとのことですが、

 厳密な解釈を抜きにしても、そもそも「警視庁」しか持っていない

 東京都知事の立場で首相に対して何を言っているのか、ということです。


 どうやって「戦争」をするつもりなのか、私には滑稽にすら思えます。


 むしろ中国の軍部のほうが、尖閣諸島用の軍備を進め、

 「本当に」戦争も辞さない状態です。


 野田首相にしても、そんな石原都知事の発言に慌ててしまった

 というのは情けない限りです。


 今年は日中国交正常化40周年でしたが、日中関係はそれどころではない

 レベルにまで冷え込んでしまいました。


 台湾の「国家交響楽団」の日本人だけが入国を拒否されたというのは、

 異常事態だと思います。


 本来ならば日本人はビザなしで中国に入国できるはずですから、

 中国側には入国拒否をする正当な理由は全くありません。


 そのような「理不尽な領域」まで日中関係が悪化してしまったという

 ことだと思います。

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