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〔大前研一「ニュースの視点」〕#145 成人年齢・移民政策から見る《教育改革の重要性を再確認》

2007年1月12日

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成人年齢
現行の20歳から18歳に引き下げ検討
国際的に主流の18歳にあわせるべきと判断
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●成人年齢の引き下げは、義務教育とセットでなければ意味がない


 政府は法律で定める「成人年齢」を現行の20歳から18歳に
 引き下げる方向で検討に入りました。


 国際的に主流の18歳に合わせるべきと判断したとのことですが、
 本音は憲法改正に伴う国民投票の年齢を18歳へ変更した
 矛盾を解消しようとしたのでしょう。


 もちろん成人年齢を変更するとなると、
 各種法律の内容も細々と修正する必要がでてきます。


  ※「成人年齢引き下げに関連する主な法律」チャートを見る
「成人年齢引き下げに関連する主な法律」チャート


 しかし、もっと本質的に重要なのは次の2点の改革を進める
 ことだと私は20年来主張してきました。


 それは、「義務教育」を改革し、
 そして「成人としての誓約(儀式)」を整備することです。


 18歳=成人とするところの定義を、社会人として立派にやって
 いけるだけのスキルと人格を持つ人と考えれば、
 当然だろうと思います。


 具体的には、義務教育を「6年&6年」の12年制にします。
 そして、その教育の中には、現在大学教育の一般教養課程の
 内容も盛り込むのです。


 成人として、社会の中で立派にやっていくのですから、
 一般教養は義務教育に含めるべきだと思います。


 大学はより専門的な教育を受けたい人のためという役割に
 変わることになります。


 そして、この義務教育を修了した者には、立派な社会人として
 の誓約をさせて、その上で選挙権を付与すればいいでしょう。


 同時に、1人の社会人としてのICカードを発行し、
 これに運転免許証やパスポートなどの役割も含めてしまえば
 効率的です。


 おそらく、現在の政府は、今回の成人年齢の引き下げに関して、
 ここまで考慮していないでしょう。


 なぜなら、そもそものきっかけが憲法改正のための
 国民投票との矛盾を解消するためという、おかしな切っ掛けに
 なってしまっているからです。


 「成人年齢18歳」という施策は、義務教育とセットで運用して、
 そして成人としての儀式として整備しなければ、ほとんど
 具体的な変化はなく、意味がないものになってしまうと
 私は思います。


●教育を含めた移民政策を、今すぐに準備し始めるべき


 今後の日本を考えたとき、この教育改革という観点は
 非常に重要だと私は考えています。


 1つには先に述べたように、義務教育を見直し、
 日本国民への教育そのものを抜本的に変革させる必要が
 あるからです。


 そして、もう1つには、将来日本が受け入れるべき、
 多くの移民に対する教育制度を確立していかなければ
 ならないからです。


 先日、厚生労働省による推計で2006年の出生率が前年を
 上回ったというニュースが流れたので、日本の少子高齢化に
 歯止めがかかったと誤解している人がいるかもしれませんが、
 これは大きな間違いです。


※「合計特殊出生率の推移」チャートを見る
「合計特殊出生率の推移」チャート


※「出生数及び死亡数の推移」チャートを見る
「出生数及び死亡数の推移」チャート


 2006年の出生率が高くなったのは、第2次ベビーブーマー
 だった人たちの婚期が、従来と比べて5年ほど遅くなったため、
 一時的に増えているに過ぎません。


 第3次ベビーブームはなかったのですから、間違いなく、
 この出生率の上昇というのは数年で終わってしまいます。


 現状の水準から計算すると、2055年には15歳~65歳という
 働く年齢層の人口は、46%減るという将来推計がでています。
 (国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口2006年
 12月推計」)


※「自然増減数の推移」チャートを見る
「自然増減数の推移」チャート


※「年齢別女性人口と出生数の分布」チャートを見る
「年齢別女性人口と出生数の分布」チャート


 これだけ劇的に減少するとなると、もはや
 「生めよ、増やせよ」という施策では全く歯が立ちません。
 移民を受け入れていく以外に道はないでしょう。


 では、一体どのくらいの移民を受け入れることになるかと
 いうと、50年後には人口の約20%を移民に頼らなければ
 ならないというのが日本の現状なのです。


 当然、それだけ多くの移民を受け入れるためには、
 彼らのための教育体制を整備することも必須でしょう。


 公民教育、言葉の教育、そして日本に住むための実務的な
 意味での教育を施さなければならないからです。


 そして、こういった移民への教育制度も含めた、
 しっかりとした移民政策は、今すぐアグレッシブに
 どんどん準備を始めるべきだと私は思います。


 想定されている移民の数が多いということもありますが、
 移民政策の準備が遅れてしまうと日本という国家自体の危機に
 関わるだろうと思うからです。


 というのは、移民政策を含めた少子化への対応が遅れれば
 遅れるほど、老齢人口の割合が多くなっていく社会の中で
 国民の不安は広がっていくでしょう。


 若者は高い税率に嫌気が指し、子供を生みたいと思わなくなる
 だろうと思います。


 つまり、今の試算以上のスピードで出生率は低下し、
 どんどん日本に住みたいと思う人は少なくなる可能性が
 高いのです。


 このような事態が進んだときに私が一番危惧しているのは、
 若者が少なくなって老人を介護し、税金を払う人間が少なく
 なるという事態に加えて、軍隊、警察、消防などの
 厳しい職業に就く人が居なくなってしまうということです。


 皮肉なことに日本という国は貯蓄率が世界一という国です。


 お金は有り余っていて、軍隊、警察は機能していない国。
 そんな太った豚のような国に成り下がってしまったら、
 侵略してくれと言っているのと同じではないでしょうか。


 現在、政府は毎年900人ずつ移民を受け入れるといっていますが、
 私に言わせればこんな程度の進め方では全く話になりません。


 今の試算でも、毎年数十万人規模の移民を受け入れる準備を
 しなくてはなりません。


 人口分布などというのは、将来像が明確に見えているのです
 から、それに対して先手先手で手を打っていくのが
 当たり前です。


 政府にはぐずぐずしないで、迅速な対処をして日本の未来を
 守ってもらいたいと強く願っています。


                                   以上


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