大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON425「政府事故調査委員会とエネルギー政策 ~原因の発見方法を考える」

2012年8月3日

  原子力事故調査
  最終報告書で危機対策の練り直し促し
  エネルギー政策
  再生可能エネルギー拡大目標に経済界が反発


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 ▼ 福島第一原発事故の本当の原因を分かっていない
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 東京電力福島第1原子力発電所事故の原因などを調べてきた政府の事故調査・
 検証委員会は23日、最終報告書をまとめ、野田首相に提出しました。


 被害が拡大した根源的な問題として「東電も国も安全神話にとらわれていた」
 と指摘。危機対策の練り直しを促したとのことです。


 一方、事故の直接原因は地震ではなく津波だったとの見方を示し、
 国会の事故調査委員会と判断が分かれました。


 私は政府と国会の双方のレポートに目を通しましたが、
 率直に言ってどちらも役に立たない報告書だと感じています。


 黒川氏がまとめた国会の事故調査委員会のレポートに関しては
 以前私の見解を発表しました。
 http://www.lt-empower.com/koblog/viewpoint/1999.php


 今回の政府・事故調査委員会がまとめたレポートの問題点は、
 原因が山のようにたくさん記述されていることです。


 事故の物理的な「原因は1つ」であって、それが時間経過と共に組織的に
 弱い部分などに広がっていくだけです。


 まず、「原因の原因は何か?」という点を突き詰めて、
 1つに絞られていなければ意味が無いでしょう。


 敢えてこのレポートから「原因の原因」を読み解くと、
 「津波」ということになるのでしょうが、これも大きな間違いだと思います。


 福島第一原発と同じように津波に襲われた、福島第二原発も東海第二原発も
 生き残っているからです。


 生き残れなかった福島第一原発との違いはどこにあったのか?と言うと、
 「外部電源」が残っていたかどうかです。


 福島第一原発は、地震によって外部電源が全て落ちてしまったところに
 津波が襲ってきて非常用電源装置も破壊したために、手に負えない
 事態になってしまったのです。


 福島第二原発や東海第二原発のように外部電源が生きていれば、
 津波によって非常用電源装置が破壊されても、
 何とか持ちこたえることができたはずです。


 このような基本的な事実関係をおさえられていないのは非常に残念です。
 政府と国会のどちらのレポートも、結局のところ原発再稼働問題に
 対して何ら役に立つ内容にはなっていないと思います。


 また原発再稼働・建設への懸念として、「活断層」がある地域に原発を
 置くのは危険が高いという議論がありますが、
 私は少し違う見解を持っています。


 もちろん、活断層があっても何も心配する必要はないとは言いませんが、
 基本的に活断層があっても原発建設を中止する理由にはならないと思います。


 なぜなら、活断層が原因で大地震が起きて「外部電源」が破壊されたとしても、
 「原子炉そのもの」は緊急停止しているからです。


 直下で新潟中越地震が発生しても緊急停止した柏崎刈羽原発は
 その代表的な事例です。


 東日本大地震の反省を活かせば、地震によって外部電源が
 破壊されないようにしつつ、発電所内に風力でも太陽光でも何でも良いので、
 原理の異なる原子炉以外の発電所があればバックアップになるでしょう。


 活断層があるから危険というロジックで言えば、日本はどこでも危険です。


 もう少し事実関係を明確にして議論すべきだと思います。
 
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 ▼ 再生可能エネルギーへの依存度20%~30%は、現実的に無理
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 政府は、2030年の原発依存度を「0%」「15%」「20~25%」とする三つの案を
 元に再生可能エネルギーへの依存度を、現在の10%から35%へ引き上げる
 目標を示しました。


 これについて経団連は、「いずれも問題が多い」との意見書を発表。


 日本商工会議所とともに再生可能エネルギーの目標を容認しない
 構えを示しました。


 かつて旧通産省はこの類の問題に非常に強みを持っていました。


 当時は「国民に意見を聞く」などということはあり得ませんでした。


 10年~20年後の日本における産業界の姿を見据え、
 見事に5カ年計画などを策定し、実行していました。


 エネルギー危機の後、原子力行政を推進し、ブルネイやインドネシアの開発に
 乗り出し、石油調達の目処もつけつつ、同時に社会の省エネ化も図りました。


 今の政府には青写真を描く力がないために、取り敢えず原発依存度を
 「0%~25%」と言っておけば国民が飛びついてくれると思っているのでしょう。


 そして、原子力を削ると温室効果ガスの排出量が削減できないため、
 無理やり再生可能エネルギーの割合を高く見積もっている印象があります。


 今回の政府の提案には大きく2つの問題があると私は思っています。


 1つには、将来原子炉がどのくらい残っているかは現時点で予測不能であり、
 情報不足の中で今決断するのは無謀だということです。


 東芝・米ウエスチングハウス連合の新型炉である「AP1000」は、
 仮に福島第一原発と同じ状況になっても最後まで自力で冷却できるという
 設計です。


 このようなものが実証されてくると、20年後には再び原子炉の安全性が
 確保される可能性もあるでしょう。


 もう1つには、再生可能エネルギーの割合を20%~35%にするということは、
 現実的に運用不可能だということです。


 風力発電、太陽光発電の平均稼働率は約20%ですから、
 その割合を全体の20%にするということは「能力的には100%」の
 設備が必要になります。


 ということは、もし「ものすごく風が強く吹き、太陽が照りつける状態」
 になったら、「風力発電と太陽光発電だけで100%の電気を作ってしまう」
 ということになります。


 この時、電気をどう処理するつもりでしょうか?


 電気が余るからと言って、急に原子炉を止めることはできませんし、
 火力発電にしても停止するのに1日くらいはかかります。


 また火力発電を停止しても、すぐに風がやみ太陽が顔を出さなくなったら、
 やっぱりもう1度稼働させろ、ということになってしまいます。


 稼働率に80%も振れ幅があると、そのバッファーをどう処理するのか?
 という点は大きな問題になるのです。


 電池や揚水発電所を利用してもキャパシティオーバーです。


 再生可能エネルギーは3%~5%程度であれば扱いやすいものですが、
 現実として20%~35%依存するというのはあり得ません。


 政府も役所も、この程度の単純なことが理解できていないのだとすると、
 相当問題だと思います。もう1度、頭を冷やして考えて欲しいところです。


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