大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON423「原発事故調査と自然エネルギー ~現象の分析方法を考える」

2012年7月20日

 原発事故調査 原発事故は「人災」
 電力規制改革 改革基本方針を決定
 自然エネルギー 風力発電の買い取り枠満杯寸前


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 ▼ 国会事故調査委員会の報告は、3面記事レベル
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 東京電力福島第一原発事故を検証する国会事故調査委員会は5日、
 最終報告書を決定し、衆参両院議長に提出しました。


 東電や規制当局が地震、津波対策を先送りしたことを「事故の根源的原因」
 と指摘し、「自然災害でなく人災」と断定したとのことです。


 私も昨年10月「福島第一原発事故から何を学ぶか」というレポートを公表し、
 天災ではなく「人災」であったと結論づけましたが、
 今回の国会事故調査委員会の報告書には全く同意できません。


 私は事故当時の原子炉の状況についてもできる限り詳細に調査し、
 その上で「交流電源の長期的な損失を前提にしていなくていい」という
 原子力安全委員会の姿勢そのものに問題があったと指摘しました。


 しかし、今回の国会事故調査委員会は「原子炉」の分析は行なっていません。
 原子炉内部に入れなかったため、1000人から「聞き取り調査」を
 したとのことですが、それでは3面記事と同じレベルで全くお話になりません。


 結局、原子炉の分析をおろそかしにして、「表で人々が何をやっていのか?」
 という部分にだけ注目して無理やり結論を出している、と私は感じます。


 今回の最終報告書では「外部電源」については全く指摘がありませんでした。
 もし彼らの最終報告書に記載されている内容を全てカバーできていても、
 「外部電源」の問題が発生していたら全く同じように事故は発生する
 ことになると思います。


 国会事故調査委員会・委員長の黒川氏曰く、今回の事故は


 「規制当局と業界の力関係が逆転してしまった、日本特有の
 "メイドインジャパン"の事故である」


 とのことですが、これも的を射ていません。


 規制当局が業界の圧力に屈するという現象は、むしろ日本よりも
 欧米のほうが多く見られます。


 リーマン・ショックを引き起こした米国の金融業界など典型的な事例です。


 黒川氏は「日本人は全員反省するべきだ」と主張していましたが、
 単に黒川氏が海外の事情に無知なだけで、全くの見当違いだと
 言わざるを得ないでしょう。


 そして、今回の国会事故調査委員会の報告書に関してもう1つ指摘して
 おきたいのは、そもそも報告書の「目的」は何なのか?を明確にして
 欲しいということです。


 今回の報告書を読んだところで、安全になるとも思えないですし、
 「人災だ!」と言われても、現実的に「何をすればいいのか?」
 という点が全く伝わってきません。


 厳しい言い方をすれば、ほとんど「余計なお世話」に過ぎない
 報告だったと思います。


 これから政府「事故調査・検証委員会」による発表が予定されていますが、
 国会事故調査委員会とは違って、どのような発表をしてくれるのか
 期待したいと思います。


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 ▼ 再生可能エネルギーの利用について、もっと深く議論すべき
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 経済産業省の電力システム改革専門委員会は13日、
 改革の基本方針を決めました。


 電力会社が一体で手がけている発電と送配電の事業を分ける
 「発送電分離」では2つの方式を示し、導入に反対してきた電力業界も
 容認に転じたとのこと。
 
 電力の小売りは家庭向けを含めて全面自由化し、料金規制も撤廃して
 消費者の選択肢を広げる狙いということですが、
 これでは上手くいかないでしょう。


 電力会社9社が資産を持ち寄って高圧送電網を作り、そこが一括して
 買い上げるという仕掛けにするべきだと思います。


 話題の「再生可能エネルギー」の取り扱いについて、
 もう少し深く議論してからレポートをまとめて欲しかったと感じます。


 例えば、次のような問題が容易に想像できます。
 
 ・完全に自由化すると再生可能エネルギーの買取価格が高くなるので、
  消費者にとってメリットはなく、敢えて利用するという人は極めて
  少なくなる。


 ・夜間電力を安くする(通常価格の4分の1程度)方法も、原子力発電が
  なくては実現できない。


 ・ゆえに、夜間に充電する電気自動車も実現できないということになる。
 
 ・だからと言って、火力発電で二酸化炭素などを排出しながら電気を作り、
  それを電気自動車に利用して「クリーンエネルギー」などと言えば、
  おかしな話になる。


 またすでに表面化している問題としては、
 「自然エネルギーの固定価格買い取り制度」が挙げられます。
 
 この制度では電力会社が買い取る予定の風力発電が買い取り枠の7割に
 達しており、しばらくして埋まってしまうことがわかったそうです。
 
 安易に買取価格を20年間も保証してしまったため、
 収拾がつかなくなった状態です。


 消費税増税であれだけもめたのに、「20年間の固定買取価格」という
 「大きな決断」にも関わらず、こちらについてはあっさりと
 決まってしまいました。


 政府は2020年~2030年にかけて、再生可能エネルギーによる発電を全体の
 20%にというスローガンを掲げていますが、これは相当厳しい条件です。


 というのは、風力発電・太陽光発電は稼働率が約20%程度しかないからです。


 日本全体の発電量の20%をカバーするためには、極論すると設備としては
 「日本全体の発電量100%」に相当するものが必要となってしまいます。
 
 「固定価格買い取り制度」によって、盆と正月が一緒に来たように
 業界は賑わっています。
 
 しかし、明らかに20年固定価格の買取という条件は過剰であり、
 筋が良くない業者も暗躍しつつあります。
 
 私はこれが日本経済を歪める結果になるのではないかと危惧しています。


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