大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON422「整備新幹線と大阪市政 ~経済成長の本質を考える」

2012年7月13日


整備新幹線
北海道、北陸、九州の整備新幹線着工を認可
大阪市政改革
市政改革最終案を発表


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▼ 新幹線網の整備は、将来への贈り物
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国土交通省は先月29日、未着工となっている北海道新幹線の新函館―札幌間
など3区間の着工を正式に認可しました。


色々と批判もあるようですが、私はこの決定は非常に良いことだと思います。


鉄道や道路というのは、国の骨格であり、中途半端なところでストップ
すると全く意味がありません。


世界に誇れる日本の新幹線として、北は北海道から南の鹿児島、
西の長崎まで一気通貫で整備するべきだと思います。


新幹線網を整備する際、震災によって東海道が使えなくなる場合を想定し、
バックアップの路線も準備するべきでしょう。


具体的には、長野から敦賀、金沢へとつながる路線です。


国家のリスク管理上、バックアップ路線を整備することは非常に重要だと
思います。


ここまで整備するのに、約3兆円の費用がかかると試算されています。


3兆円が高すぎるという議論もあるようですが、私はそうは思いません。


例えば、中小企業等金融円滑化法(モラトリアム法)という悪法を
思い起こしてください。


同法により、2012年3月末現在で79兆円を超える中小企業向け融資額が
貸し付け条件の変更(返済期間の延長等)を受けていますが、
そのなかには経営健全化が難しいと指摘されている企業への貸し出しも
少なくないと指摘されています。


つまり、一時的に経営不振企業を延命させるだけの対処療法にしか
なっていないのです。


しかし鉄道網の整備は、将来に向けて子孫に残せるものですから、
有益な「投資」だと思います。


明治時代の日本人が鉄道網を整備してくれたから、いま日本は世界一の
鉄道王国と呼べる状況になっているのです。


これから100年~200年の将来に対して、今の世代からの贈り物として
ぜひ残してあげたいと思います。


そう考えれば、3兆円など安いものでしょう。
寄付金を募るという形で募集しても良いと思います。


場当たり的にモラトリアム法などにお金を使うのではなく、
将来のためにお金を使って欲しいと思います。


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▼ 財政削減計画は見事。さらには、経済のパイを大きくする施策を
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大阪市は先月27日、今年度から3年間で取り組む市政改革プランの
最終案を発表しました。


市議会の要望などに配慮して事業リストラや補助金カットを抑えた結果、
当初案に比べ、事業の見直しに伴う財政削減の効果額は約150億円減少し、
399億円となったとのことです。


また市内で生活保護を受給する全約11万8千世帯に対し、親族など民法上の
扶養義務者の勤務先や収入を任意で聞き取り調査すると発表しました。


橋下市長が就任して、わずか半年間で、これだけの削減案をまとめたのは
見事だと思います。


大阪府知事としての経験も大いに活かした結果でしょう。


土地売却などによる歳入確保、人件費の削減、契約の見直し、事業リストラ
など、これからの3年間で約1500億円を削減できるプランになっています。


今後、これを実現するために議会で修羅場を迎えると思いますが、
何が何でも実行することです。


7月に解散することなく、ぜひやり抜いてもらいたいと思います。


財政削減計画は見事ですが、一方で橋下市長には「関電問題」という
アキレス腱があります。


大阪市は関西電力の約9%の株式を保有しています。


元々2年前には約2兆円だった関電の時価総額は、震災後に一気に
落ち込みました。


橋下市長が就任したときには、時価総額は約1兆円でしたから、
その時点で大阪市は約900億円の資産を保有していました。


その後、橋下市長による原発リスクの訴えや原発停止の提言などもあって、
関電の時価総額はさらに下がり、大阪市保有分の現時点で
資産額は827億円まで下落しています。


橋下市長が就任以来のピーク時1127億円から、約300億円減少したことに
なります。


1年間で500億円の削減プランを提示する一方では、関電の
保有資産は300億円減少させてしまっているのです。


このまま橋下市長の提言に従えば、関電の時価総額はゼロになります。
その場合、約900億円を失うことになります。


これを大阪市民にどのように説明できるのか?という点が、
橋下市長にとっては苦しいところだと思います。


また生活保護費が上昇する一方で、大阪市の市税収入は減り続けています。


まるで疫病のように生活保護は日本全国に広がっています。
日本全体が「西成区化」しつつあると感じます。
 
大阪市も生活保護Gメンを派遣するなど実態調査に乗り出していますが、
もっと有効な方法を講じないと根本的な解決は見込めないかも知れません。


私は以前から「日本全体が夕張市化」していると述べてきましたが、
生活保護費などが上昇する一方で税収が減少している大阪市も、
完全に「夕張化」のパターンです。


ここで大切なのは、「削減プラン」だけでなく
「経済のパイを大きくする」施策を打つことです。


わずか半年で、あれだけの財政削減計画をまとめたことは
賞賛に値しますが、さらに将来を見据えて、どれだけ経済のパイを
大きくできるのか?ということに、ぜひ橋下市長には
チャレンジしてもらいたいと思います。


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