大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON404「欧州財政と経済~本当の経済成長を考える」

2012年3月9日

 欧州財政
 ギリシャ追加支援を正式決定へ
 欧州経済
 2012年成長率マイナス0.3%


 -------------------------------------------------------------
 ▼緊縮だけではなく、新しい産業を起こすことが求められている
 -------------------------------------------------------------


 欧州連合(EU)は1日のユーロ圏財務相会合で、ギリシャ向け
 第2次金融支援(追加支援)を協議しました。
  
 ギリシャ国債を保有する民間債権者の相当程度が債務減免に
 協力することなどを条件に、融資を実行する手順を確認。
 
 早ければ12日の次回会合で支援などの実行を正式に決める
 見通しとなりました。一方、ギリシャが日本の投資家向けに発行した
 円建て外債(サムライ債)がギリシャ政府の提案する債務減免の
 対象外となることが、2月29日明らかになりました。
 
 これにより、約1100億円のサムライ債を保有する国内の個人や
 機関投資家は従来通り、元利払いを受けられるとのことです。


 今回は正直に言って、意外な形での決着となりました。
 欧州のトップが決定したところによると、金融機関はおよそ53.5%の
 債務減免に協力することになりそうです。


 


 また個人が保有していたギリシャ国債は減免の対象外になると
 予想していましたが、こちらも対象になるとのことです。
 
 個人でギリシャ国債を保有している大部分の人は、
 ギリシャ国債が下落したとき「個人は減免対象外になるだろう」と
 高をくくって「一儲けしてやろう」と思った人たちですから、
 自業自得でしょう。


 債務全体のなかでは比較的小さく、削減の手続きが煩雑とのことで、
 サムライ債は対象外になりました。日本の投資家にとっては
 ありがたい話です。
 
 ただし、償還できるのかは疑問も残りますので、完全に安心しては
 いけないでしょう。


 これでギリシャ問題は解決したわけではありませんし、
 さらに追加支援は必要となります。
 
 またスペイン、ポルトガルの動向には注意が必要です。
 
 ユーロも小康状態になり、ひとまず安心して良いという状況だと
 思いますが、最悪の事態を脱したものの津波と同様、
 第2波、第3波があることが予想されますから、
 まだまだ本当に安心はできません。


 今後の欧州経済の回復に向けて、面白い記事が
 Bloomberg Businessweek誌(2012.2.27-2012.3.4)
 に掲載されていました。


 経済危機に対するドイツのメルケル首相やフランスのサルコジ大統領の
 対応策の基本は、とにかく緊縮予算を組むことにありますが、
 アイルランドなどの例を見ても、実際には「緊縮」だけでは
 回復はできず、「成長戦略」に取り組む必要があるのではないか、
 欧州はそういうフェーズに突入しているのではないか、と示唆しています。


 イタリアのモンティ首相は、イタリアにも「新しい産業が必要だ」
 と取り組み始めていて、これまで「教わる立場」だった
 モンティ首相が、今度はメルケル首相やサルコジ大統領に
 「教える立場」に変わるのではないかと述べています。


 私はこの意見は一理あると思います。


 日本でも同様の問題があり、
 切り詰めるだけではなく、新しい産業を起こす必要があると
 感じています。


 米国は放っておいてもシリコンバレーなどを中心に
 新しい産業が起こってくるのですが、米国以外の国の場合、
 国家が緊縮という方向性を打ち出すと、国全体が暗いムードに
 なって新しい産業を起こすという動きが鈍くなってしまうのです。
 これは大きな問題だと思います。


 欧州連合(EU)の欧州委員会が23日発表したところによると、
 ユーロ圏の2012年の実質経済成長率がマイナス0.3%になるとのこと
 ですが、これも必然的な流れだと言えると思います。


 欧州各国の予想実質経済成長率を見ても、ギリシャ、スペイン、
 ポルトガルなどは平均のマイナス0.3%を大きく下回っており、
 緊縮だけでは将来に希望が持てず、それだけでは経済は
 回復しづらいのが分かります。



 -------------------------------------------------------------
 ▼もう1つのキーは、移民
 -------------------------------------------------------------


 経済が回復するための、もう1つのキーとなるのが「移民」です。
 既存の人間だけでは、どうしても新しいエネルギーが足らない
 という面があり、ある程度の数の移民が必要なのです。


 もちろん、移民の数が多すぎると国内で賄うのが大変ですし、
 既存の人たちの雇用が奪われてしまうのでバランスは必要です。


 では実際のところ、欧州ではこの十数年でどのくらい移民が
 増えているでしょうか?以下が各国の移民増加率です。


 スペインでは700%、フランス30%、ドイツ27%、
 スウェーデン・ノルウェー86%、
 フィンランド82%となっています。


 安い労働力の確保、場合によっては新技術の開発といった面もあり、
 移民(外国人)が増えるのは成長戦略に欠かせません。
 
 2050年まで現在の経済を維持するためには、
 ドイツでは移民を1100万人、イタリアでさえ900万人が必要だと
 試算されています。


 私が以前から計算しているところでは、日本の場合、
 年間39万人程度の移民を10年ほど受け入れ続ける必要があります。
 少子高齢化の社会ですから、じっとしていれば
 衰退国になるのは明らかです。
 
 これを反転させるためには、子供の数を増やすことです。


 フランスなどは国として子供の数が増えるよう制度を
 作っていますが、このやり方はコストが高くなります。
 コストが安く、即効性があるのは移民の受入れです。
 
 日本では数年前から外国人看護師候補者の受け入れが
 始まっていますが、資格取得が難しく、実際に看護師として
 働ける人は限られており、全くお話になりません。


 国家としてどのような成長戦略を描くのか?
 そして、そのために必要なことは何かを見極めて、
 新しい産業を起こすために、少子高齢化の問題を解決するために、
 やるべきことを実践して欲しいと感じます。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点