大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON399「日本の財政~全てを明らかにし、新たな視点・切り口による対応を」

2012年2月3日

 2012年度予算案 国の総予算 228兆7659億円
 貿易収支 2011年貿易収支 2兆4927億円赤字
 国富 国全体の正味資産 3036兆2000億円


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 ▼特別会計を予算化して丸裸にすべし
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 財務省は24日、12年度予算案の一般会計と特別会計を合わせた国の
 総予算が11年度当初予算比8兆4904億円増の228兆7659億円になった
 と明らかにしました。


 国家の歳入が75兆円ほどしかないのに、よくぞここまでの予算を組む
 ものだと思ってしまいます。しかも恐ろしいのは、特別会計という
 国会の審議が十分なされていないとの指摘をしばしば受けていることです。


 一般会計及び特別会計の決算純計の推移を見ると、自民党政権の末期
 には減ってきていたものが民主党政権になり、再び増加傾向にあります。


 民主党は特別会計を削ったと主張していますが、結果としては
 歳入を大きく上回る予算を組んでしまっているので、
 ほとんど意味が無いと私は思います。


 日本の国民負担率を租税負担率でみれば25%程度と発表されていますが、
 失業保険、健康保険、年金などの特別会計も含めて見ると、
 実質的には40%程度に達しています。


 この部分を裸にして通常通り「予算化」しなければ
 巨大な赤字の本当の原因が見えてこないでしょう。


 特別会計にしても赤字が続き見通しがたたなくなれば、結局は税金で補填
 するほか手段はなく、この点については一般会計と何ら変わりません。


 特別会計という隠し財源化の制度を壊さないと、いつの日か税金を
 大幅にアップせざるを得ない時が来てしまうでしょう。
 それが怖いのです。



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 ▼日本の貿易赤字転落をどう見るべきか?
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 財務省が25日に発表した2011年貿易統計速報によると、貿易収支は
 2兆4927億円の赤字となりました。
 これを受けて、米ウォール・ストリート・ジャーナル誌は、
 「日本の輸出大国時代の終わり」という記事を掲載しています。


 私にしてみれば、何を今さら驚いているのか?というところです。
 この危険性について私はずっと以前から指摘してきました。


 私が寄稿した記事「赤字転落!貿易立国・日本の非常事態」が
 現在PRESIDENT Onlineに掲載されていますが、
 こちらは2009年に執筆した記事をそのまま再掲載しているようです。


 「大前研一 日本のカラクリ」:プレジデントオンライン
 → http://president.jp/articles/-/418


 日本の貿易赤字というのは今になって突然状況が激変した結果
 ではなく、「構造的な問題」としてなるべくしてなったものだと
 認識するべきだと私は思います。


 東日本大震災の影響を指摘する人もいますが、確かに貿易赤字に転落
 するスピードを早めることにはつながったかも知れません。
 しかし、震災がなかったら赤字に転落することもなく、
 今後も「貿易黒字」をずっと維持できる見込みだったか?というと
 それは違うと思います。


 日本の貿易収支と所得収支の推移を見ると、投資収益が伸びて
 いる反面、この10年で貿易収支が赤字に転落しているのが見て取れます。
 では、貿易収支の赤字転落は日本にとってどれほどの影響力を持つと
 考えるべきでしょうか?


 まず第1に言えるのは、「かなり心配な事態」に発展する可能性がある
 ということです。貿易収支が黒字だったおかげで、かつての米国のように
 三つ子の赤字を抱えるといった事態に陥ることもなく、何とか国家の富が
 海外に流出するのを防ぐことができていました。


 今後、円高が反転する可能性もありますし、このまま貿易収支が赤字
 という状況が続けば、日本の成長戦略をどのように描いていくのか?
 どのように予算にしていくのか?非常に厳しい事態になると思います。


 一方で、「それほど心配しなくても大丈夫」という見方もあり得ます。


 この貿易赤字の背景には、日本企業が中国などの海外で生産を行い
 そのまま米国などに輸出しているため、結果として
 「日本という国を通過していないだけ」という可能性があるからです。


 実は、これは米国が貿易赤字になっていた原因と同じです。
 米国企業が製造拠点を海外に移し、そこで生産したものを
 米国が「輸入」し、また日本などの外国に米国を経由することなく
 そのまま「輸出」していたので赤字が膨らんでいたのです。


 かつて私はこの点を指摘して、日米間に貿易不均衡などは存在せず、
 日本は「米国(企業)が生産したものを大量に購入している」と
 説明しましたが、記憶にあるかぎりライシャワー氏を除いて誰にも
 理解してもらえませんでした。


 この状況を受けて日本としては、今保有しているお金を大切にすること
 を考えるべきでしょう。


 貿易黒字で溜め込んだ100兆円ほどの米ドルが一気に目減りすることが
 ないように気をつけて欲しいと思います。


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 ▼今こそ、資産課税が必要だ
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 内閣府が25日発表した2010年度の国民経済計算によると、
 10年末の土地などの資産から負債を差し引いた国全体の正味資産(国富)は
 前年比1.2%減の3036兆2000億円となりました。


 この3000兆円という数字は、ぜひ記憶しておいて欲しいと思います。
 国の資産には、「金融資産」「土地などの非生産の有形資産」
 「在庫や工場などの生産資産」という3つがあり、正味3000兆円になります。


 私がずっと主張してきている「資産課税」は、この3000兆円部分に
 課税するという考え方です。


 正確に言えば、工場が生産に利用している在庫などは対象外とするので、
 3000兆円弱が課税対象となります。
 家計資産だけを見ても1000兆円を超える金融資産があり、
 さらに土地もあります。


 こうした部分に、わずか1%の課税をするだけで3000兆円を課税対象とすれば、
 30兆円の収入になる試算です。少々資産が目減りしたとはいっても、
 未だに3000兆円の潤沢な資産があるのですからこれを利用しない手は
 ありません。


 私は様々な本や記事で、資産課税について説明してきました。
 ぜひ、これを実現させて欲しいと思います。


 日本経済の厳しい状況に際して、「一度、日本経済はクラッシュさせて」
 しまった方が手っ取り早いのではないか?という意見を耳にすることが
 あります。


 しかし、私はこの意見には反対です。というのは、
 日本は一度クラッシュしたら立ち上がれないからです。


 日本の場合、「クラッシュ=日本国債の暴落(ソブリン危機)」
 を意味します。


 この日本国債のほとんどは、日本国民が保有しています。
 ゆえに、日本経済がクラッシュしたときには国民が金融機関に預けている
 1400兆円のお金が吹っ飛ぶのです。


 今ギリシャ経済が破綻し、ギリシャの国債を保有していた欧州の銀行が
 大変な事態に見舞われていますが、「日本国民」が同じ状況に陥るのです。


 「そのような事態になったほうがいい」という人の気持ちが
 私には理解できません。
 果たして日本国民はそのとき生き残っていけるでしょうか?
 かつて戦時国債がデフォルトしたときにはハイパーインフレが起こって
 物価が100倍くらいに跳ね上がり、国民の生活は大変でした。


 そういう事態を想定し準備できている人はどれほどいるでしょうか?
 おそらく100人に1人もいないのではないでしょうか。
 手っ取り早いから「一度、日本をクラッシュさせてしまえ」などというのは、
 決して起こしてはいけない事態だと私は思います。


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