大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON389「独仏の経済にも陰り~日本に迫る新たな危機を排除せよ」

2011年11月18日


 フランス財政 財政赤字削減策を発表
 ドイツ経済 9月の鉱工業生産指数前月比2.7%低下
 IMF ラガルド専務理事 自見金融相と会談


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 ▼厳しい見通しの欧州経済。ドイツ経済にも変化の兆しか!?
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 フランスのフィヨン首相は7日、追加的な財政赤字削減策を発表しました。
 年金改革や増税などを実行し、2012年予算で70億ユーロ(約7500億円)の
 赤字削減などを打ち出した施策となっています。


 米格付け会社S&Pが10日、フランス国債の格付け引き下げを知らせるメールを
 「誤送信」したことで一時市場は混乱しました。


 ギリシャ・イタリアにつづき、フランスまでも危ないのかと感じた人は
 大勢いたと思います。さすがに、本当にフランスにまで波及してしまうと、
 欧州全体に経済危機が広がってしまうので、今週はかなり緊張が走った
 瞬間でした。


 公式発表では「誤送信」としていますが、そもそもS&Pが利用しない原稿を
 準備しているはずはないので、市場のパニックを見てS&Pが慌てて対処した
 という可能性も否定できないと思います。


 今回の「誤送信」はともかくとして、欧州全体が厳しい状況にあることは
 変わりありません。欧州主要国の経済予測を見ると、来年は今年よりも
 厳しい見込みです。


 実質経済成長率では、頼みの綱であるドイツも2.9%から0.8%へ下落の
 見通しですし、対GDP比財政赤字では、フランス(5.3%)とスペイン(5.9%)が
 マーストリヒト条約の基準である3%を超えると予想されています。


 対GDP比債務残高はさらに厳しく、ドイツ・フランス・スペイン・イタリアの
 いずれの国も、マーストリヒト条約の基準値である60%を守れないという状況です。


 欧州の中で唯一、ドイツ経済だけはその強さを示してきましたが、
 その状況にも変化の兆しが見え始めています。


 ドイツ政府が7日発表したところによると、9月の同国鉱工業生産指数は
 前月比2.7%低下しました。未だ第2四半期を1.7%上回っていますが、
 第3四半期終盤に生産の勢いが急激に失速したことが示されました。


 元々調子が良くないスペイン、ポルトガルに加えて、ギリシャ、イタリア、
 ここに来てフランスまで?という他の欧州諸国の経済状況の悪化により、
 EU圏内での取引が多いドイツ経済に影響が出てきているのかも知れません。


 本当にドイツ経済全体も急激に減速してしまったのかどうかは、
 あと1~2ヶ月様子を見てみないと分かりませんが、9月にギリシャの
 経済問題が浮上してきてから、ドイツ経済の指標の中で急激な落ち込みを
 見せ始めているものがあります。


 「ドイツ経済が強い」ということに疑いの余地はありませんが、
 数カ月前に言われていたように「欧州諸国の中でドイツだけは高い空を
 飛んでいて安全だ」という状況ではなくなってきていると感じます。


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 ▼IMFのラガルド専務理事には要注意
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 自見金融相は11日、来日中の国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事と
 金融庁内で会談し、欧州の財政危機など現下の経済情勢について意見を
 交換しました。


 金融相は会談後に「世界の金融情勢が不安定になっているが、
 ラガルド氏なら解決できる」と期待を示しましたが、具体的な支援要請の有無
 については明言を避けました。


 IMFのラガルド専務理事は非常に優秀な人物です。だからこそ、日本の大臣が
 ラガルド専務理事に会うときには「要注意」して欲しいと思います。


 というのは、ラガルド専務理事の頭の中に「欧州ばかりではなく、
 日本だって危険な状況にある」という思い想いがあって、万一そうした趣旨
 の発言があれば、今のラガルド専務理事の影響力からすると日本経済が
 大打撃を受ける可能性があるからです。


 今現在、ラガルド専務理事が日本に対してどのような想いを抱いているかは
 明確ではありませんが、歴史的に見て「欧州中心主義のIMF」
 「米国中心主義の世界銀行」という構図から考えれば、IMFの代表として
 「欧州ばかり火の粉を被る状況を何とかしたい」という意識が働く可能性は
 大いにあると思います。


 その時、ラガルド専務理事と相対する日本の代表である金融大臣などが、
 「与し易い相手」と思われてしまったら、日本へ矛先を向ける危険性が
 あるでしょう。


 ラガルド専務理事は四半期に一度イタリアにIMFの審査を受けさせるよう
 納得させ、あのイタリアのベルルスコーニ氏元首相を退任に追い込んだほどの
 人物です。


 また、欧州財政の立て直しにあたって、欧州金融監督制度(ESFSF)は
 実質的な組織や仕掛けを持たないので、ブラジルや中国などはIMFを活用
 すべきではないかと考えはじめています。こうした流れを見ても、
 益々、IMFのラガルド専務理事の影響力は大きくなっていると見るべきです。


 日本経済も厳しい状況ですから、危機感を持つのは当然です。
 私自身、何年も警鐘を鳴らしてきました。


 しかし外国に対しては、日本の金融大臣などが「日本経済には問題がある。
 しかしイタリアとは違い、国民が国債を購入している。日本経済は大丈夫だ」
 と主張するべきしょう。


 そうしないと、例えば単純に「対GDP比の債務残高」を比べて、
 「120%のイタリアよりも200%の日本の方が問題だ」などとラガルド専務理事に
 発言されてしまったら、日本は困った立場に立たされることになります。


 ラガルド専務理事は相当なやり手です。日本の金融大臣が気を引き締めても
 対峙できるかどうか、という相手でしょう。あまつさえ気を緩めていたら、
 あっという間に隙をつかれてしまうことになると思います。


 それは日本経済、日本国民全員にとって由々しき事態を招くことになります。
 そのような事態に陥らないよう対処してもらいたいと思います。


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