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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON388「ギリシャに始まる欧州財政危機~今後迎える局面と各国の思惑」

2011年11月11日

 ギリシャ情勢
 与野党反対で国民投票撤回
 欧州財政
 欧州危機拡大阻止へ協調


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 ▼衆愚政治に陥ったギリシャの現状と今後
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 ギリシャのパパンドレウ首相は3日、緊急閣議を開き、12月4日に予定していた
 国民投票を撤回する意向を明らかにしました。
 ギリシャがユーロ圏に残るかどうかを争点に欧州連合(EU)などからの
 追加支援策の同意を得る考えでしたが、与野党から反対を受けて方針を
 取り下げました。


 そうした中、最大野党の新民主主義党のサマラス党首が与野党の大連立による
 「臨時救国内閣」の設立を提案したことを受け、英BBC放送は、
 首相が辞任し新政権に道を譲る方針を固めたもようだと報じています。


 私もこのBBC放送を聴きました。パパンドレウ首相としては、
 「ギリシャにはユーロ脱退という選択肢はあり得ない」
 「そうなったらギリシャは終わりだ」と感じていて、
 11月6日時点では、ほぼ辞任で気持ちが固まっていると私も感じました。


 ただ問題なのは、パパンドレウ首相が辞任したところで有力な後継者が
 いないことです。ギリシャはこれまでもずっと経済的に不安定な状態が
 続いてきていて、せっかくEUに加盟するにあたってマーストリヒト条約に
 沿った形で国の経済力をドレスアップしたのに、また元の木阿弥になって
 しまいました。


 ギリシャという国にはこういう歴史的な背景があるので、パパンドレウ首相が
 国民投票に打って出たことに対して、欧州各国は敏感に反応したのです。


 実際ギリシャ国民のアンケート結果では、
 「財政再建への要求と併せたギリシャへの支援策に反対と」と答えた人が
 約6割にのぼると聞きます。欧州各国にとって非常にリスクは大きいと
 言わざるをえないでしょう。


 故に欧州は必死になって、大連立・救国内閣という形でギリシャを救済する道
 を模索する動きを見せています。


 前回の欧州首脳会談の際、ギリシャの国債の50%元本減免で合意しています。
 欧州は認めたくない気持ちがあるのだと思いますが、普通に考えれば
 この行為自体ですでにギリシャは「デフォルトした」とみなすべきでしょう。


 実際、ギリシャ10年債利回りは30%を超えており、この点を見てもすでに
 デフォルトしています。


 また50%の元本が減免されましたが、残り50%も支払われるかどうかは
 わかりません。かつてアルゼンチンがデフォルトした際には最終的に
 30%だけ返済されました。ギリシャの場合、残りの50%を支払うことも難しいと
 懸念している専門家もいます。


 歴史的にはギリシャは民主主義を生み出した国であり、同時に世界で最初に
 「衆愚政治」に陥った国でもあります。


 ついにその衆愚政治が治療できないところまで来てしまったということでしょう。
 日本も他人のことを笑う余裕はありませんが、今後ギリシャに何が起こるのかは
 予断を許さない状況だと思います。


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 ▼日本がEFSFを通じて資金提供を継続するのはアリだ
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 フランスのカンヌで開催されていた20カ国・地域首脳会議は4日、首脳宣言を
 まとめ閉幕した。宣言では欧州の財政危機が世界に広がらないようG20が協調
 することで一致。


 しかし各国のメディアは厳しい論調で、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は
 「G20はほとんど何も提示せず、閉幕した」と指摘しています。


 確かに私も見ていて、仏サルコジ大統領などが一生懸命な様子でしたが、
 結果として何を残したのかはよく分からないと感じました。


 一方で、フランスのラガルド前経済・財政・産業相が新しい専務理事に就任し、
 新しい体制が始動したIMFの動きには非常に感心しました。


 今欧州が懸念していることは、ギリシャからの財政危機が広がっていくことです。
 そこで今回、IMFはイタリアを実質的に管理下におき、四半期ごとに厳しい査定を
 実施することを決定しました。


 もしギリシャに続いてイタリアがデフォルト状態になってしまったら、
 相当大きな影響が出てきます。イタリア経済はギリシャとは比べものにならない
 大きさですから、たとえ30%の元本減免でも大変な事態になります。


 今回、IMFはそれを避けるための一手をいち早く打ってきたということです。


 CNNのニュースで、ラガルド専務理事がインタビューに応えているのを見ましたが、
 今自分たちが果たすべき役割は何なのか、なぜイタリアを監視するのかという点など、
 ひとつひとつの受け答えが非常に論理的であり、素晴らしいと思いました。
 新しいスターが一人誕生した瞬間だったのではないでしょうか。


 またこのような欧州の経済危機を受けて、日本では野田首相が
 欧州金融安定ファシリティ(EFSF)債の購入を引き続き検討していくと見解を
 発表しています。欧州救済をめぐって主要国ではそれぞれに思惑を抱いています。


 米国は中国の影響力が大きくなることを懸念している一方、逆に中国としては
 IMFでの権限拡大を主張してくると思います。


 中国は他にも、市場経済国としての認定、人権、国内問題への欧州からの批判
 の抑制なども求めてくると見られています。


 日本としては、円高に対する協力関係を求めたいところでしょう。
 今日本は中国よりも多額の資金を提供しています。
 このまま野田首相が言うようにEFSFの購入を継続していくのも1つの策だと思います。
 日本は赤字国債を大量に抱えていますが、手持ちの資金は豊富だからです。


 欧州主要国の10年債利回りの推移を見ても、イタリアが6%を、スペインが5%を
 超えてきていて、いつ火がつくとも知れず危険な状態です。


 イタリア、スペイン、そして欧州がどのような局面を迎えるのか、
 それを睨んで世界の国がどんな動きを見せるのか、
 今後も注目していく必要があるでしょう。


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