大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON387「福島第一原発事故から何を学ぶか~事故発生の本質的問題とは」

2011年11月4日

 福島第1原発事故に関する報告書
 原発の「設計指針」「設計思想」に誤り


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 ▼福島原発事故から見える、原発の「設計指針」「設計思想」の誤り
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 細野豪志原発事故担当相は28日、チームH2O(大前研一総括責任者)が
 まとめた東京電力福島第1原子力発電所事故の検証結果や、
 再発防止策に関する報告書を受け取りました。


 報告書では「どんな事が起きても過酷事故は起こさないという設計思想や
 指針がなかった。天災ではなく人災だ」と指摘。
 原発の再稼働に向けた教訓として「いかなる状況でも電源と原子炉の冷却
 源を確保する」ことを求めました。


 マスコミの記事では「人災」という点でまとめられてしまいましたが、
 この記事を読む限りでは私が発表したかった真意は伝わらないのでは
 ないかと懸念してしまいます。


 私は「人災」のみを強調したつもりはなく、むしろそれよりも原発に対する
 「設計指針」「設計思想」そのものに誤りがあったことが重要であり、
 それゆえにこの問題は日本だけでなく、世界中の原子炉に影響を与えると
 考えています。


 今回記者発表をしていて感じたことの1つは、記者の人たちの原発に
 対する知識が少なすぎるということです。だから原発の「設計指針」
 「設計思想」と言われても、ピンと来ていない人がほとんどだったと
 思います。


 日本ほど原発の「設計指針」がおかしなことになっている国が
 どれほどあるかは分かりませんが、少なくとも「設計思想」は
 世界中の原子炉に共通なはずです。


 ですから、私としては今後、「原子炉工学入門」として今回の事故に
 至った理由、そして設計思想そのものに原因があった点は詳しく解説し、
 後学に活かしていくべきだと考えています。


 マスコミで取り上げられる機会の多い「ストレステスト」ではなく、
 設計思想にまでさかのぼって大いに反省するべきです。


 記者の人たちには、原子炉がどのよう考え方に基づいて設計されているのか?
 を理解してもらって、その上で今後の日本の原発のあるべき姿、今回の事故を
 どのように活かすのか?ということなどを記事にしてもらいたいと強く感じます。


 また今回のプロジェクトを担当してみてあらためて感じたのは、
 政府とマスコミは意図的に情報を隠蔽し、「大本営発表」的な情報操作をして
 いたのではないかということです。


 今回のプロジェクトでは政府に許可をもらい事故の際の情報を開示してもらい、
 それを整理し分析した結果を発表しました。


 調べ始めてすぐに色々なことが分かって来ました。
 例えば、政府は2ヶ月経っても認めようとしませんでしたが、
 「3月11日津波が襲ったすぐ後で、福島第1原発の1号炉がメルトダウンしていた」
 というのはすぐに分かりました。


 政府やマスコミの人たちの中で、どこまでの人が知っていたのかは分かり
 ませんが、一部の人たちが知っていたのは間違いないでしょう。
 今回、私が記者発表させてもらって、この点について述べたのに、
 聞いていた記者の人たちはそれほど驚く様子はありませんでした。


 「以前」から知っていたから今さら聞いて驚くことではないということでしょうか?
 思わずそんな風に勘ぐりたくなります。


 原発事故、放射能の飛散、様々なことについて新聞も知っていたはず
 なのに伝えていないのではないか?戦前、戦中と同じ「大本営発表」体質に
 陥ってしまったのではないか?そういう疑念を強くせざるを得ないと、
 今は感じています。



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 ▼なぜ、(報酬を貰わず)ボランタリーな立場で関わったのか?
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 今回のプロジェクトは、民間の中立的な立場からのセカンドオピニオンを
 取りまとめるために発足しました。


 細野原発事故収束・再発防止担当大臣から依頼を受け、まず私は3ヶ月でこの
 プロジェクトを完了させると決めました。
 そのくらい短期間でまとめなければ、日本の原子炉は来年の3月~5月で
 ほとんどが停止を余儀なくされ、大変な事態になると考えたからです。


 そして、今回私は納税者の立場として「ボランタリー」の立場で
 このプロジェクトに取り組むということ、情報へのアクセス許可など
 必要なものを仲介してもらいたいという意向を伝えてプロジェクトを
 スタートさせました。


 報酬をもらわず、ボランタリーな立場で取り組んだのは、
 「客観的な視点」から取りまとめること、場合によっては
 「政府や産業界の思惑・意向に反する」ものになっても遂行したいと
 思ったからです。


 やはり、この方針は正しかったと感じます。
 もし私が細野大臣から報酬を受け取っていたら、プロジェクトの報告内容
 について穿った見方をする人も出てくるでしょう。


 報酬をもらっているのだから多少なりとも「誰かの期待」に沿ったものに
 なっているはずだと言う人もいたかも知れません。


 今回のプロジェクトの報告内容は、どこかの誰かの「変な意図」は
 全く含まれていません。プロジェクトが発足する前に私自身が推論で
 述べていた内容を否定する事実も一部出てきましたが、
 勿論それも掲載しています。


 報告内容の全容は細野大臣に許可を取り、BBTのホームページ上から
 PDFファイルでダウンロードできるようになっています。
 この機会にぜひ目を通してもらいたいと思います。


 このプロジェクトでは、福島原発事故について「ハードウェア」の側面から
 徹底的に分析するというのが役割でした。そもそも何が原因で事故が発生
 してしまったのか?再発を防止するためにはどうすればいいのか?
 この点について、かつて炉心設計者であった学者の大前研一として
 まとめ上げました。


 逆に言うと、「人的な側面」については言及していません。
 原発事故の実態について政府は知っていたのか?
 マスコミは知っていたのか?
 誰かの指示で隠蔽工作があったのかどうか?
 あるいは、冷温停止の対応にミスはなかったのか?
 放射能の飛散についての政府の対応は正しかったのか?
 このような点には一切触れていません。
 この点については、政府の事故調査委員会がその役割を担っていると考えています。


 また事故そのものの発生原因だけでなく、冷温停止ができた5号炉・6号炉と
 その他では何が違っていたのか?という「差」について徹底的に分析し、
 壊れた部分だけを見ていても分からない事実を浮かび上がらせようと
 しているのも、今回のプロジェクトのアプローチとして特長的な点かも
 知れません。


 先程も述べたように細野大臣の許可も得て、報告内容は完全に公開されています。
 世界のどこからでも入手可能です。
 聞くところによると、フランス大使館など翻訳能力のある大使館はいち早く
 翻訳を開始して、本国へ送付する準備を進めているそうです。


 私としては日本政府からIAEAに持参してもらいたいとも思っていますが、
 もし政府がやらなくても私が今回のレポートを英訳するか、
 あるいは英語で解説する動画を撮影して、YouTubeにアップロードしてしまえば
 事足ります。


「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」全186ページの報告書PDFファイル
→ http://pr.bbt757.com/pdf/interimrepo_111028.pdf


「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」約2時間の 解説映像(YouTube)
→ http://www.youtube.com/watch?v=Fbnh31jS2hk


 繰り返しとなりますが、全て誰にでも見てもらえるようになっていますので、
 ぜひ一度目を通してもらいたいと思います。


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