大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON379「野田新内閣発足~リーダー必須の思考力で国難を乗り越えよう。」

2011年9月9日

 野田新首相
 野田佳彦氏が第95代首相に
 決選投票で海江田氏を逆転


 -------------------------------------------------------------
 ▼野田内閣の人事は、それなりに評価できる
 -------------------------------------------------------------


 先月29日、民主党代表選の投開票が行われ、決選投票で野田佳彦氏が
 215票を獲得。30日、第95代の新首相が誕生しました。


 2日には野田内閣の閣僚名簿が発表され、玄葉国家戦略担当相が
 外務相に横滑りし、民主党の安住前国対委員長が財務相に就任しましたが、
 国内外からは経験がないことなどを危惧する声も上がっています。


 野田新首相の誕生は、私にとっては想定した通りでした。
 決選投票になれば、小沢氏の支持を受けた海江田氏の票は伸び悩むのは
 必然だったと思います。
 結果を見ると、小沢氏の勢力を大きく抑え込んだ完勝だと言えるでしょう。


 小沢氏側としては、最初の投票で過半数を獲得したかったところでしょう。
 実際のところ、前原氏がいなければ、票が割れることなく小沢氏側が過半数を
 獲得するという結果にもなり得たと思います。


 その意味で野田新首相としては、前原氏に感謝の念を感じているでしょう。
 民主党の党3役、政策調査会長に前原氏を任命したのも頷けます。


 私もこの結果で良かったと感じています。もし前原氏が手を挙げず、
 小沢氏の傀儡である海江田氏が過半数を獲得していたら、
 「結局、今まで民主党は何をやってきたのか?」という話になっていたでしょう。


 おそらく前原氏も、この点を自覚していたと思います。
 ゆえに最初の投票で野田新首相が、自分よりもかなり多くの票を獲得して
 2位になったことを受けてアッサリと自分の票を預け、
 小沢氏側に対する大きなブロックの役割を果たしました。


 今回の閣僚人事の評判はあまり良くないようですが、私はそれほど
 悪いものとは思っていません。党3役の幹事長に小沢氏に近い輿石氏を、
 政調会長代行に自民党と対話ができる仙谷氏を任命するなど、
 小沢氏と対立し自民党からは叩かれまくるばかりだった菅政権に比べると、
 もう少し落ち着いて仕事を進めることができると思います。


 あまりにも喧嘩腰の人事を組んでも結局物事は前に進みませんか
 今回の人事はそれなりに評価できると感じています。


 また野田新首相自身について財務省の操り人形などと揶揄されているようですが、
 財政改革が必須である今の日本経済の状態を考えれば、
 適任と言えなくもありません。
 5人の候補者の中でも、落ち着き方は良かったと私は見ています。


 ただし時間不足の組閣だったため、事前の「身体検査」は十分とは
 言えないでしょう。おそらく閣僚のなかから、何人かは脱落すると思います。
 現時点で最も有力なのは、防衛相に就任した一川氏です。


 一川防衛相は2日、
 「安全保障に関しては素人だが、 これが本当のシビリアンコントロール(文民統制)だ」
 と述べたとのことです。元防衛相の石破茂自民党政調会長は、
 「そのひと言だけで解任に値する。任命した野田佳彦首相の見識も問われる」と
 批判したとのことですが、概ね私も同感です。


 これほど不勉強な人が防衛相を務めるべきではありません。
 日本の防衛省には議論すべき課題、考えるべき重要な問題があります。
 とても一川防衛相がその任に担えるとは思えません。



 -------------------------------------------------------------
 ▼野田新首相に求められるリーダーとしての能力とは?
 -------------------------------------------------------------


 FNNの世論調査によると、野田内閣の支持率は59.9%で、政権交代後の
 鳩山内閣発足時の68.7%には及ばないものの、菅政権発足時を上回り、
 好スタートを切っています。これをどのくらい維持できるかが、
 野田新首相の腕の見せ所でしょう。問題は山積です。


 野田新首相の1つの問題としては、「戦争責任」問題があります。
 私は個人的に野田新首相にはこの件についてアドバイスをしていますが、
 ちょっとでも誤った発言をすれば、日中・日韓の関係性は乱れてしまいますから、
 日本のリーダーとして慎重な姿勢を見せる必要があると思います。


 国家のリーダーであれ、企業のリーダーであれ、
 私が思う「リーダーに求められる資質」を挙げるとすれば、
 次のような要素になります。


 ・まず自分自身で考える
 ・しかし、自分の知識が不足していたときには
 ・誰か知っている人を探し、質問する
 ・その意見を参考に、自ら検証し、考える


 どんなに能力が高い人でも、100%自分が正しいということはあり得ませんし、
 何から何まで自分が知っているということは出来ません。ですから、
 自分自身の知識や考えを補い、検証していくということが重要です。


 二人の意見を並べれば180度違う意見になるかもしれません。
 しかし、それが三人になれば120度に、4人になれば90度に、
 様々な人の意見を聞いていると段々と多面的に理解できるようになります。


 そうした理解を踏まえて、自分が信じる道、国家や企業が進むべき方向を決め、
 ゴールに至るまでのスピードを決定する、というのがリーダーの役割だと
 私は思っています。


 単に命令するだけの指導力があっても、リーダーとしては不充分です。


 例えば野田新首相の場合で言えば、「戦争責任」について重要な発言を
 ポロッと言ってしまう前に、「本当に自分の考えで良いのか?」を
 チェックできるかどうか、それが重要だと思います。


 極端な言い方をすれば、中国に友人がいて
 「私は中国に対して、こういうことを述べたいのだが、どうだろうか?」
 と事前にチェックできれば良いのです。


 そのような交友関係やネットワークがないと、何から何まで一人で
 考えて決断しなくてはいけなくなります。それでは菅前首相の二の舞です。


 自分とは異なる意見に耳を傾け、複数の意見から全く別の新しい意見を
 導き出せる能力が求められています。


 それは、私が言う「論理思考」そのものです。
 これは練習によって身に付ける能力です。日本の指導者として要求される
 必須の能力の1つだと私は確信しています。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点