大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON378「アメリカ景気対策~日本の二の轍を踏む現状では長期低迷は避けられない。」

2011年9月2日

 米景気
 長期低迷「深刻に受け止め」
 FRBバーナンキ議長


 -------------------------------------------------------------
 ▼米国経済は長期低迷のサイクルに入りつつある
 -------------------------------------------------------------


 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は26日ジャクソンホールでの講演で、
 米国経済の低迷が長引いていることについて
 「深刻に受け止めている」とした上で、来月のFOMCで追加緩和策を
 協議する考えを明らかにしました。


 このバーナンキFRB議長の発言内容について、私は良くないと感じています。
 「具体的に、こうした対策をしているから大丈夫」と言えるべきであり、
 「深刻に受けている」としか言えないようでは、日本の失われた20年と
 同じ道を歩みつつあることを認めているのも同然だと思います。


 これから米国経済は2番底を迎え、長期低迷に入り、回復が難しいという
 ことです。


 このようなことになる危険性について私は10年ほど前から、ずっと警鐘を
 鳴らし続けてきました。リーマン・ショック以降の米国政府による経済政策
 についても、全く効果的ではなく、行き着く先は銀行が3つくらいに淘汰
 されていくという日本がたどった道を後追いしているだけだと指摘してきました。


 今になってバーナンキFRB議長はようやく、この事実を認めはじめたという
 ところでしょうか。


 米国経済が長期低迷のサイクルに入っていることは、実質GDPの成長率の
 推移を見ても明らかです。乱高下を繰り返しているように見えますが、
 長期的に見ると右肩下がりの状況に陥っています。


 また米国経済にとってもう1つの大きな不安要因は、住宅価格が回復して
 いないということです。住宅価格指数(SPケース・シラーインデックス)の
 推移を見ると、2000年を100としたとき、一時期は200を超える価格まで
 上昇したものの、リーマン・ショック以降価格は下落しました。


 その後、米国政府はあらゆる施策を講じて住宅価格の上昇を促しましたが、
 現在のところ150のラインで低迷したままです。


 バブル崩壊後の日本に比べれば、それでもマシとは言えるかも知れませんが、
 やはりこの状況が続く限り米国民の財布の紐がゆるくなるのは難しいと思います。


 今の値段のままだと、5,6年前に住宅を購入した人たちは現在の価格より
 高い値段で購入していますから、実質的に債務超過です。ネバダ州で6割、
 アリゾナ州で5割、カリフォルニア州で3割の住宅が、抱えた借金のほうが
 住宅価格を上回るという、実質的な債務超過状態にあると試算されています。


 -------------------------------------------------------------
 ▼米国景気回復のためには、ゼロ金利ではなく、金利を上げるべき
 -------------------------------------------------------------


 バーナンキFRB議長は、「力強い長期的な成長のために必要な経済政策の大半は、
 中央銀行の管轄外だ」として、中央銀行の外側に米国経済を立て直す主役を
 求める発言をしたとのことですが、私に言わせればバーナンキFRB議長の政策が
 時代遅れのために対応できていないのだと思います。


 結局のところ、バーナンキFRB議長の政策はオバマ大統領と同様、「ばら撒き」で
 経済を刺激するというものです。ところがどれだけ「ばら撒き」をしてみても
 一向に景気は回復する兆しを見せず、自分の知っている経済学ではお手上げだと
 言っているのです。


 そうなると米国企業は自力で何とかしなければならない状況になります。
 だから、米国企業としては「米国外」に目を向けて頑張っているのです。
 P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソンを始め、米国企業は世界の中で繁栄している
 場所を見つけ、どんどん国外に出て勝負をしています。


 政府に税金を高くすると言われても、国外に出てしまえば関係ありませんから、
 この点でも米国外に行くメリットは十分にあると言えるでしょう。


 このような背景もあって、米国は「GDPの下降」という最大の問題を解決できない
 ままでいるのです。


 ではどうすればいいのか?というと、もう1度「米国には投資する価値がある」と
 思ってもらえるようにすることです。具体的には、金利を高くして世界中から
 お金が集まってくるように仕向ければ良いのです。


 民主党の政策は「政府が中心になって景気回復を」というものですが、
 オバマプランで膨大な出費をして対策をしましたが、失敗に終わったのは
 明らかです。今は打つ手がなく、米国内には閉塞感が漂っています。
 これを反転させる必要があるのです。


 かつてのクリントン元大統領とアル・ゴア元副大統領の時代は、1つの参考に
 なると思います。米国の魅力を存分に世界に伝え、世界中からお金を集める
 ことに成功しました。その方法はまるで共和党に近いとさえ感じました。


 「国が大変な状況にある」と言ってゼロ金利にしてしまうから、
 「ドルキャリーによって国外にお金が出ていく」という状況を生み出して
 しまうのです。


 正解は逆です。金利を5%くらいに高く設定すれば、それだけでお金が
 集まってくるはずです。
 これは日本についても全く同じことが言えます。
 米国も日本と同じドツボにはまっています。


 確かに金利を高くしてしまったら、ただでさえ赤字を抱えている企業は大変だという
 議論はあるでしょうが、私に言わせれば「それで潰れる企業は潰れなさい」
 ということです。


 それが資本主義の原理です。実際には業績のよい企業は、多少金利を高く
 したところで問題ありませんし、お金が集まってくれば新しい企業が生まれる
 下地にもなるはずです。


 日本は企業を倒産させる勇気がなかったためにゼロ金利を続け、長期低迷に陥って
 しまいました。私はずっと言い続けてきましたが、無理矢理救済しようとするから
 おかしなことになるのです。


 バーナンキFRB議長のやり方では、米国は自らの繁栄がどんどん手からこぼれて遠くに
 逃げてしまっている、という事実に早く気づいてもらいたいと私は思っています。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点