大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON377「GDPの成長と日本人の余暇~全体の数字の裏にある変化を見抜き、先を読む」

2011年8月26日

 国内GDP
 4-6月期のGDP 前期比0.3%減
 レジャー市場
 2010年の余暇市場 67兆9750億円
 国内旅行動向
 平均宿泊旅行数 年2.51回


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  ▼本当に日本のGDPはプラス成長なのか?
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 内閣府が15日発表した2011年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の
 影響を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算で1.3%減となったことが
 分かりました。マイナス成長は3期連続で東日本大震災によるサプライチェーンの
 寸断で自動車などの輸出が大幅に落ち込んだことなどが響いたと見られます。


 民間調査機関15社が発表したGDPの予測によると、全社が2011年度後半から
 2012年度にかけてプラス成長を見込むとのことですが、3期連続での落ち込み
 という事実からすると随分と怪しい気配を感じます。


 日本の実質GDPの推移を見ると、年率換算の成長率がここに来て大きく下落
 している様子がわかります。また、実額ベースの推移ではリーマン・ショック以降
 40兆円以上落ち込み、それが回復基調にあったものの、東日本大震災で
 再び落ち込んでしまいました。


 現在の日本のGDPは520兆円~540兆円です。円高ドル安のため、ドル換算にすると
 日本のGDPが伸びているように見えます。ゆえに海外から見ると、
 日本の成長率は悪くないという判断になりますが、日本国内にいる我々から
 見ると「成長している」とは感じられません。


 項目別のGDP実質成長率では、民間最終消費支出も設備投資も横バイで、
 輸出が大きく落ち込んでいます。本来なら復興需要によって設備投資が
 伸びることも期待したいところですが、輸出の落ち込みが全体の足を引っ張って
 いる形でしょう。


 多少回復の兆しは見え始めていますが、輸出の乱高下が激しい様子が見て取れます。


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  ▼落ち込む余暇関連市場。日本の観光市場の将来は?
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 日本生産性本部が3日に発表した「レジャー白書2011」によると、
 2010年の余暇関連市場は09年比2.1%減の67兆9750億円だったことがわかりました。
 前年実績を下回るのは8年連続。景気低迷で消費者の節約志向が根強く、
 パチンコなどの娯楽部門が大きく落ち込んだことなどが主な要因とのことです。


 余暇関連市場という場合、普通は「レジャー」「バケーション」が主たる要素に
 なりますが、日本の場合には数字を大きく見せるために、「パチンコ」「ゲーム」
 も含めた数字になっています。


 特にパチンコは、日本の余暇関連市場の最大構成要素になっていて、
 パチンコ市場の落ち込みが余暇関連市場全体に大きく影響しています。
 2000年には85兆円規模だった余暇関連市場も、段々と下がってきてついに70兆円を
 割り込み、67兆円になってしまいました。


 そして、この傾向が反転する兆しはありません。かつて30兆円を誇っていた
 パチンコ市場は、かなりユーザーに飽きられてきたように感じます。
 加えて、新しい若い世代の人はそもそもパチンコをやらない傾向が強いので、
 反転する見込みは低いと私は判断しています。


 また、余暇関連市場に含まれる「観光消費額」も減少の兆しが見えていて、
 厳しい状況にあります。観光庁がまとめた2010年の国内の旅行・観光消費動向調査
 によると、日本人1人当たりの平均宿泊旅行数は年2.51回で、前年の2.72回から
 減少。また日帰り旅行の平均回数も2.49回と前年の2.77回から減少するなど、
 所得環境がなお厳しいことから、旅行を手控える動きが目立った結果となりました。


 最近の日本では未婚・一人暮らしが多いため、かつてのようなファミリー需要が
 見込めず、しかも宿泊といっても多くの場合、1泊2日ですから消費額が伸びる要因
 がありません。2006年には30兆円を超えていた観光消費額も、25兆円を割り込む
 勢いで落ち込んでいます。


 キャンペーンを展開するなど観光庁は旅行需要を喚起させようと必死ですが、
 せっかく旅行に行くとなっても、残念なことに日本の場合には高齢者の観光客が
 多いため、「お金を使わない動き」になっていてなかなか市場が活性化して
 いません。


 先日、私は外国人の友人と日本で山登りをしましたが、欧米では山で出会う人の
 殆どは若者なのに、日本では高齢者ばかりでした。
 「日本の高齢者は元気ですね」とその友人が驚いていました。


 ただ、少し変化の兆しも見え始めています。これまでの観光プランは
 ほとんど1泊2日がメインでしたが、節電対策ということも手伝って、
 7日間・8日間という長期滞在プランを提示する旅館や民宿が出てきています。


 例えば、長野県では簡易民宿が「空いている部屋」を活用し、食事などは
 必要なら自分で手配してください、その代わり一週間くらい泊まれます、
 というような長期宿泊プランを用意し始めています。
 もしかすると、これは村おこしのトレンドになるかもしれません。


 イタリア人はドイツの観光客に1ヶ月家を貸して、その間に自分たちは
 ポルトガルに旅行に出かけたりしますが、日本でもこの傾向が発展すれば
 同じようなことが起こる可能性もあると思います。


 今現在、海抜1000メートル~1500メートルのやや涼しい地域で、
 このような一週間滞在プランが少しずつ出てきています。
 日本の旅行・観光のトレンドが変わり始めたように私は感じています。


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