大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON371「原発再稼働~福島の反省を踏まえたストレステストを国際機関と共同実施せよ」

2011年7月15日

原発ストレステスト
国の方針転換で
原発立地県から批判
EU型テストを全原発で実施
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 ▼ 福島には当てはまらない、EU型ストレステスト
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 原発の安全宣言を撤回した菅総理の方針転換に、原発の立地地域から批判が
 強まっています。


 7日に都内で開かれた全国知事会では、全ての原発を対象に実施するストレ
 ステストについて、説明がないと不満が相次ぎました。


 民主党の岡田幹事長は8日、止まっている原発の再稼動とは別の話と述べ、
 テストが再稼動の前提としている菅総理に異を唱えています。


 現状、これだけ方針が乱れてしまうと、何が正しいのか分からなくなってし
 まいます。


 私は、一番間違っていたのは原子力安全・保安院だと思っています。福島の
 現状をちらっと見ただけで、ディーゼルエンジンを高いところに設置したり、
 非常用の電源車を高台に置いたり、さらには、水素爆発を防ぐ為に天井に穴
 を空けるドリルを置いたりといった施策を提言しています。


 もし、緊急事態に電気ドリルで穴をあけようとしたら、逆に、そのドリルの
 火花で水素爆発が起きてしまいます。この考えは非常に浅いと言わざるを得
 ません。


 その意見を真に受けて、それら全ての基準を満たした玄海原発の安全宣言を
 海江田経済産業相が出してしまいました。保安院の上司だからと、その報告
 を鵜呑みにしてしまった訳です。私に言わせれば、保安院にも海江田経済産
 業相にも問題があるでしょう。


 その後、菅総理がEUを参考にした原発ストレステストの実施を突然言い出
 しました。


 しかし、これは非常にお粗末な考えです。EUのストレステストは、福島と
 はまったく別のもので、その内容はコンピュータシミュレーションが多く、
 事故が起こる「前」の段階を想定しているものです。主に、飛行機などの
 耐久テストに近いものです。


 一方、福島原発の反省は全く異なるもので、例えば外部電源が水没した際に
 どうするのかといった、今まで原子力関係者が一度も経験したことが無いよ
 うな事象がほとんどです。


 今の保安院が考えているような安易な事象や、EU型のストレステストとは
 違う状況です。菅総理には、その点を十分に理解していただきたいものです。


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 ▼ 福島の反省から、新しい基準を確立しIAEAに提言を
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 私が以前から言っているのが、新しい基準の作成と、IAEAへの提言です。
 まず3ヵ月くらいの時間をかけて、福島第一原発の教訓を活かした新しい
 国際的なストレステストの項目を作成します。


 そして、次の3ヵ月でIAEAにそれらを提示し、共同のチームを作ってもらい、
 その意見を反映させます。更にその後の3ヶ月で必要な対策と設備投資を
 実施していきます。


 そうすることで、一年以内に原発を再稼働に持ち込むことが可能になるはず
 です。このスピード感で進めなければ、来年の3月には、日本の全ての原発
 が止まってしまいます。それだけは避けなければなりません。


 今回の議論では、ストレステストを必ず実施しないと再稼働はできないとあ
 ります。枝野官房長官と海江田経済産業相、そして細野原発担当相が集まって
 合意する案では、なんと簡易版のテストAと、その後に作成するテストBの
 二つが存在するのです。


 よく考えてみてください。テストBがある限り、簡易版のテストAを受ける
 だけで安全性が証明できると言っても、誰も信じてはくれないでしょう。
 これはいけません。


 今回の福島の反省を踏まえ、再発防止策を策定していき、かつ、そこに無い
 ものでEUのテストにある必要な項目を盛り込んでいきます。


 そうして、国民に全部説明していくというプロセスがないと、十分な理解を
 得ることは難しいと私は思います。


 海江田経済産業相が玄海原発は大丈夫と言ったことは、無責任だったと思い
 ます。そして、大臣が大丈夫と言ったから安心だと言った知事や町長も軽率
 だったかもしれません。


 ただし、一番悪いのは、すべてをひっくり返してしまった菅総理だと思いま
 す。今までの法律では、保安院が許可を出せば原発は稼働できました。


 それを、ストレステストを必須条件にしたのは、少々強引だったと言わざる
 を得ません。


 そもそも、保安院がOKといった浜岡原発を菅総理の独断で止めてしまった
 事は、法律違反です。


 しかもその際に、静岡県の浜岡原発は首都圏に近いから、と不用意に発言し
 てしまったのです。玄海原発のような田舎だったら何が起こってもいいのか
 と、佐賀県の古川知事は非常に憤ったのではないでしょうか。


 正しいか正しくないかといえば、ストレステストの実施は必要だと思います。
 ただし、菅総理は今回のストレステストの実施や浜岡・玄海原発の問題に関
 して、海江田経済産業相と十分に相談して実施すべきだったと思います。
 心情的には、いきなり梯子を外された海江田経済産業相には同情します。


 菅総理は枝野官房長官、海江田経済産業相ときちんと内閣で閣議決定し、進
 めるべきでした。私は、そのプロセスを踏んでいないという点に、非常に大
 きな瑕疵があったのではないかと感じています。


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