大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON362「『津波プレイン』で復興へ~スイスのように国民の自立を促す政策が必要だ」

2011年5月13日

復興財政
 被災者二重ローンで
 救済措置を検討
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 ▼納税者の二重支払いはおかしい
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 2011年度の第1次補正予算が、2日成立しました。菅総理は被災した
 漁業や農業の事業者が新たなローンを抱える二重ローンについて負担
 軽減を進める姿勢を示していましたが、歳入の裏付けとなる赤字国債
 発行法案の成立の見通しが立たず、このままの状態が続けば夏にも
 財源が枯渇する恐れがあるとのことです。


 予算が成立したのは喜ばしいことですが、財源のめどが立ってないと
 いう点が問題です。


 財務省は財源として「消費税」を利用することに乗り気ではありません。
 消費税は、年金や福祉予算のために使いたいからです。


 ゆえにストレートに赤字国債を発行するか、あるいは所得税や法人税
 を引き上げることで対処したいという意向だと思います。


 家を立てたばかりで被災をしてしまい、二重ローンを抱えることに
 なった人たちをどのように救済するのか?というのは非常に大きな
 課題です。


 津波保険も存在はしていましたが、ほとんど加入者はいなかったそう
 です。


 実際のところ、保険に加入していたところで今回の規模では保険会社
 としても普通に対応できたのか分かりません。


 いずれにせよ、津波によって家や車を失った人たちの生活を復興させ
 なければならず、これは相当に大変な道のりが予想されます。


 そこで私が提案しているのが「津波プレイン」という考え方です。
 政府は「低い土地」に関して、津波に襲われたら水没する危険性が
 ある土地と指定し、一方で「高い土地」に関しては責任を持って
 新しいコミュニティを創り上げます。


 低い土地の価格は必然的に下落してしまいますが、ここに土地を持って
 いた人には諦めてもらうしかありません。


 しかし、代わりに保有していた資産レベルに見合うものを高い土地の
 中に無料で作ってあげれば良いのです。


 今政府は「低い土地」についても買い上げる動きを見せていますが、
 これは止めるべきだと思います。


 「低い土地」を買い上げ「高い土地」も開発する、その全てを国が
 負担するということは納税者が「二重」に支払うことを意味します。
 納税者の負担に歯止めがかからない事態は避けるべきです。


 かつて大阪の伊丹空港の建設が決定した後に土地を購入した人にも
 騒音対策費を渡していましたが、全く同じ問題です。こんなことは
 海外では考えられません。


 この点にさえ注意していれば、「正しい情報開示を行い、そのリスクを
 承知した上で自己責任を取ってもらう」というコンセプトは広く適用
 できる考え方だと思います。


 私は「液状化プレイン」「山滑りプレイン」「洪水プレイン」なども
 作るべきだと考えています。


 おそらく液状化プレインなどを作ると、それ自体で「早く液状化の
 土地を改善して欲しい」という行政に対するプレッシャーとしても
 機能すると思います。この点を見ても、実現させる価値は大いにある
 でしょう。


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 ▼ 日本復興にあたって、スイスは研究する価値がある
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 これから日本の復興を考えていく際、スイスという国は研究に値する
 と私は思っています。


 日本に負けず劣らず資源が少ない国なのに、世界のトップ企業が数多く
 存在している国です。海外の成功事例として、日本にとっては参考に
 したいところです。


 スイスは、国が小さい上に周囲を大きな国で囲まれているという特徴
 があります。国土の点から見るとオーストリアなど今は比較的小さい
 国ですが、かつてはオーストリア=ハンガリー帝国という巨大国家と
 して君臨していました。


 そのような環境の中で、スイスはいつでも自分たちが征服されるかも
 しれないという恐怖を抱え、そして緊張感を持ち続けたのだと思います。
 国民皆兵制度にも、こうした歴史的な背景が影響しているのでしょう。


 国民性を見ると、まず非常に「国際的」です。スイスの中では、それ
 ぞれの地域で主要言語として、フランス語、ドイツ語、イタリア語に
 加え英語も話されています。


 多国籍企業も多く、海外に勤務している国民も多数います。この点、
 英語も話せずにドメスティックに過ぎる日本人とは正反対だと言える
 かも知れません。


 また直接民主主義ということもあって、驚くほどに「議論」をする
 国民性を持っています。私は学生の頃ルームメイトにスイス人がいま
 したが、彼らの議論に向かってくる姿勢は全く日本人と違っていて
 驚きました。


 そのスイス人の友人とは未だに交友関係がありますが、今でも会えば
 議論になります。一緒に散歩に出掛けても、散歩の間に議論をけしか
 けてくるほどです。昔を懐かしむ話をする余裕などまるでありません。


 これがスイス人としての標準で、街の中でも平気で議論しますし、
 政治経済の事柄に限らず様々なテーマを扱います。


 日本人の国民性とは相当に違いますので、一朝一夕にスイス人のよう
 なメンタリティを身に付けることは難しいかもしれません。そして、
 もちろんスイスの全てが成功事例という訳でもありません。


 しかしそれでも、研究する価値は十分にあると私は思っています。
 日本がこれから復興の道を歩んでいくにあたって、スイスという小国
 がどのように発展してきたのか、それを学びとしてもらいたいと思い
 ます。


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