大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON345「多極化する世界経済の動向~台頭する新興国と多額の債務を背負う先進国の構造」

2011年1月17日

世界経済
 終わりに近づく西側の覇権
 インド市場
 インド、ロシア首脳 次世代戦闘機の共同開発で合意
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 ▼ 中国経済を軟着陸させることは不可能に近い
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 先月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「新たな均衡に向かう
 世界 終わりに近づく西側の覇権」と題する記事を掲載しました。
 これは台頭する新興国と多額の債務を背負う先進国の構造を指摘した
 ものです。


 そのような中、中国の国営紙チャイナデイリーは中国の著名な経済学者
 で中国人民銀行(中央銀行)の元通貨政策委員である余永定氏の寄稿
 を掲載しました。


 同氏は現在の中国経済について、「中国の成長モデルは持続不可能であり、
 緊急の経済・政治改革を断行しない限り、中国は突然の減速に見舞われる」
 として警鐘を鳴らしています。


 従来あまり見ることができなかった論調で、年頭にふさわしい内容だと
 私は感じました。


 余永定氏という中国の元高官が、現在の中国経済のモデルを否定して
 います。


 「中国の成長モデルは持続不可能」という指摘は、論理的に考えれば
 当たり前であり誰でもそう思っていることですが、未だに中国の中では
 広く支持されている意見ではありません。


 一部の識者の人が将来を憂い、警鐘を鳴らしているというのが実態
 でしょう。


 対する中国共産党の幹部は、これ以上経済運営が難しくなっては困る
 ということで、何とかして「軟着陸(ソフトランディング)」させたい
 と必死になっています。


 このような動きはバブル経済時の日本の大蔵省の反応と全く同じです。
 私が日本経済の危険性について指摘していると、当時の大蔵省の役人
 が私のところに来て「大蔵省が軟着陸させてみせるから、発言は控え
 てくれ」と依頼されたことがあります。結果は誰もが知っていると
 おり、見事にバブル崩壊が起こりました。


 今の中国もかつての日本と同様で、権力者・為政者が考えることは
 同じなのでしょう。しかしどんなに取り繕ってみても真実は1つしか
 ありません。


 大蔵省の役人が日本経済を軟着陸させることなどできなかったように、
 中国共産党の役人にしてもそれは不可能でしょう。そんな「魔法」の
 ような方法があると言うなら、ぜひ教えてもらいたいところです。


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 ▼ 世界全体は多極化する方向性へ
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 また「終わりに近づく西側の覇権」とありますが、正確に言えば米国
 の覇権が終焉し、一部欧州に移りつつあるというところだと私は感じ
 ています。


 ただし欧州も完全に米国に代わって覇権を確立できているわけではなく、
 その間に新興国が台頭してきています。今後、世界全体が5~20の
 覇権群に別れていく可能性もあるでしょう。


 2015年までの主要国・地域の名目GDPの推移予想によると、
 約20兆ドルで(中国を除く)新興国全体とEUが並び、
 それに米国が続く形になる見通しです。
 中国は約10兆ドルで日本のおよそ2倍になるとの予測です。


※「主要国・地域の名目GDP」(チャートを見る)
 → 


 細かい数値予測よりも、全体的に世界が多極化していくという方向性
 を認識することが重要でしょう。「多極化した世界観」を持つことは
 今後の世界経済を見ていく上で必須だと私は思っています。


 このような中で世界経済に占める重要性を増してきているのが
 「インド」です。


 ロシアのメドベージェフ大統領は先月21日、インドのシン首相と
 会談し、次世代戦闘機の共同開発で基本合意しています。


 インドは機体の購入を含め総額300億ドル(約2兆5000億円)を
 投資するとしていますが、米国・英国・中国の首脳も昨年揃って
 インドを訪れており、インド市場をめぐる争奪戦は今後さらに
 激しくなりそうです。


 インドは、ソ連邦時代から現ロシアとの関係は深く、逆に中国との
 関係はそれほど良くありませんでした。このロシアのメドベージェフ
 大統領によるインドとの交渉は、中国への対抗策としてかつてのよう
 な友好的な関係を築こうという狙いでしょう。


 軍事面でも協力関係を築く足がかりとして、戦闘機の共同を開発として
 ロシアが主力開発を担い、インドがそれを買うという構図です。
 メドベージェフ大統領は約2.5兆円の商談をまとめたことになります。


 今、インドには世界中からラブコールが届いています。世界各国、
 特にドルキャリー取引により米国からの資金が殺到している状況です。


 このまま放っておけば、インドは必ずハイパーインフレを引き起こす
 と思います。そうならないように、何とかインフレを押さえ込みながら
 必死で経済発展に転換していこうと進めている状況です。


 これからの世界経済を見ていくにあたっては、世界全体が多極化して
 いくという流れをぜひ意識してみて欲しいと思います。


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