大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON341「実態経済から目をそらす民主党の奇策~国民は現実を直視せよ」

2010年12月10日

 超低金利融資制度
 貸付金額が倍増
 鉱工業生産
 10月の鉱工業生産指数 前月比1.8%減
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 ▼ 成長分野だからと言って融資しても、焦げ付くのは必至
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 日本銀行は先月30日、成長分野の企業に融資をした民間金融機関
 に対して、超低金利で資金を貸し付ける制度の2回目の実績を発表
 しました。


 貸付金額は1回目(9月実施)の4625億円から倍増の9983億円、
 貸し付ける金融機関数も47から106に増えました。これについて、
 日銀は「成長企業への融資拡大の呼び水を狙った効果が徐々に出て
 いる」としています。


 次の2点において、これは全く意味のない議論だと私は思っています。
 ・融資について日銀が関わることが正しいのかどうか分からない
 ・成長分野への貸付というが、結局貸出先は個々の企業になっている


 もし私が「悪意」を持っていたら、日銀が言うところの「成長分野」
 において会社を設立するでしょう。あるいは、その分野の会社を買って
 くることを考えます。


 そして「成長分野の企業ですから、お金を貸してください」と言うわけ
 です。何らまともな審査を受けることもなく、超低金利でお金を借りる
 ことが出来てしまいます。


 企業に融資をするべきか否かというのは、その企業の様々な「経営指標」
 を分析し、かつ企業で働く「人」にも目を向けて総合的に判断するべき
 ことです。それこそ「バンカー」の役割だと私は思います。


 融資に値するかどうかを判断する「企業を見る目」を持たず、
「成長分野」に属してさえいれば企業は伸びるはずだと、本当に
そう思っているのでしょうか?


 現状では「環境」「エネルギー」といった「成長分野」というだけで
 盲目的に資金を貸し付けていますが、これではいずれ焦げ付くのは
 目に見えています。


 その上、超低金利ゆえに「金利も取れず、元本返済もない」となった
 ら目も当てられない状況になるでしょう。


 このままでは昨年12月に施行された中小・零細企業の借金返済を
 猶予するとした「中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)」と同様
 の運命を辿ることになると思います。


 亀井静香元金融相がゴリ押しで通したモラトリアム法は、2011年
 3月31日までの時限立法です。来年3月の終わりには、焦げ付いて
 回収できないものが山ほど出てくることは間違いありません。


 現状、本当は倒産しているべき企業であっても、どんどん「輸血」
 してくれるために倒産できないだけであって、実態はほとんどが
 焦げ付いていると見て良いと思います。


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 ▼ 日本経済の実態を正しく認識し、再スタートを
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 経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数は91.1と、
 前月比1.8%低下しました。前月を下回るのは5カ月連続で、
 エコカー補助金の終了に伴う自動車の減産が指数を押し下げた
 とのことです。


 エコカー補助金の終了で自動車が減産する一方で、家電エコポイント
 効果によって液晶テレビなどは出荷増になっています。


 私に言わせれば、こうした現象は全て「民主党の揺さぶり」に過ぎず、
 経済の実態を反映したものではないと思います。


 エコカー補助金にしても家電エコポイントにしても、そうした
 キャンペーンが終了すれば一気に落ち込んでしまいます。
 こうしたことにお金を使うのは愚の骨頂だと私は思っています。


 日本人が欲しい物を買って、その上で「本当に」足りないものは何か?
 という「経済の実態」を見つめるべきです。そして、その実態が厳しい
 ものであっても、それを受け入れるところから日本は再スタートする
 必要があると私は思います。


 対症療法によって問題を先送りにして、厳しい「実態」から目をそらす
 というのは民主党による一連の経済対策の特徴です。


 エコカー補助金やエコポイント効果のせいで、本当のところどのくらい
 日本経済が上向いているのか?それとも逆なのか?ということが見えに
 くくなっています。


 「実態」をあやふやにして問題を先送りにしているだけだと私は思い
 ます。


 そして、それは昨年亀井氏が推し進めた「モラトリアム法」も、今回
 の日銀による「超低金利融資制度」も同様です。本当は倒産するはず
 の企業の「実態」を曖昧にして、問題を先送りしたのです。


 本来、銀行が判断するべき「企業への融資判断」を金融庁の
 “マニュアル行政”が奪いとり、あまつさえ日銀が言う「成長分野」
 に融資した民間金融機関であれば超低金利で貸し付けるとは、
 私に言わせれば問題外の政策です。


 一時的に問題を先送りにするのはいい加減にして、日本経済の実態を
 直視し、本当に解決すべき問題に取り組んでもらいたいと強く願って
 います。


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