大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON340「緊迫する南北情勢と各国の立場の相違~複数のソースを見ずに正確な理解はできない 」

2010年12月3日

 南北情勢
北朝鮮が大延坪島周辺海域を砲撃
韓国軍兵士2人、民間人2人死亡
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 ▼ 日本の報道には表れない、韓国と北朝鮮の実態
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韓国国防省は23日、北朝鮮軍が韓国の大延坪島やその周辺海域を
 断続的に砲撃したと発表しました。


 24日までに韓国軍兵士2人が死亡、民間人の死者も2人が確認され、
 多くの家屋が損壊しました。


 そのような中28日、12月1日までの予定で米韓合同軍事演習が韓国
 西方の韓国黄海で始まりました。北朝鮮は軍事的対抗策も辞さない
 構えを見せており、朝鮮半島は緊張状態が続いています。


 今回のニュースについて、日本の報道だけを見ていると北朝鮮や中国
 の事態を巡る認識を正しく理解できない恐れがあります。


 韓国と北朝鮮の間には朝鮮戦争以降、絶え間なく様々な問題が発生し
 ています。


 軍事境界線とされる38度線にしても海上については確定していない
 ため、韓国の主張する北方限界線を北朝鮮側は公式に認めていません。


 北朝鮮側の主張によると今回の「事の発端」は次のようになります。
  ・韓国が境界線付近で「実弾」による演習を実施した
  ・「実弾」による演習を北朝鮮側は禁止していた
 ・ゆえに、北朝鮮としては「対抗手段」を取らざるを得なかった


 日本の報道では「一方的に」北朝鮮が侵略したというものがほとんど
 です。北朝鮮は「狂人国家」であり、何をするのか理解できない
 「危険な国家」という前提に立っているのでしょう。しかし中国に
 おける報道などは全く違います。


 中国の新聞「CHINA DAILY」では「Two Koreas exchange fire」
 という見出しになっています。北朝鮮が一方的に攻撃したという
 ものではなく、「双方」が砲撃を交わしたという認識です。


 中国にとっては、韓国と北朝鮮がお互いに戦火を交えているという
 理解をしているということが分かります。


 現在の中国について「中立」的な姿勢を見せていると感じている人も
 多いようですが、私は、「未来がないことは分かっているのだから、
 今“北=北朝鮮”を無理にいじめても意味が無いと思っているだけ」
 だと感じています。


 ゆえに、お互いに刺激せず仲良くやって欲しいというのが中国の本音
 でしょう。


 その南北問題の解決に向けて中国は「重大な発表がある」と言って
 いましたが、何のことはない「6カ国協議」の再開を提案しただけ
 でした。


 私に言わせれば、「何を今さら」というところです。10年以上やって
 いますが、大した効果はありません。


 これは議長たる中国が「議長としての役割」を果たしていないからで、
 中国に責任があると私は思います。


 このような提案をするのであれば、もう少し中国が真面目に問題に
 取り組まなければ意味が無いでしょう。


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 ▼ 北朝鮮が再び攻撃をすれば、
韓国は総反撃する以外にオプションはない
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 また今回の問題については、米韓演習が行われていたことが少々問題
 を複雑にしています。


 次の米韓演習のイメージでは横須賀を母港とする空母ジョージ・
 ワシントンが韓国の黄海に出かけていく予定とのことですが、
 この点について中国は「自分たちの海に来てくれるな」という
 不快感を示しています。


 本来、中国には北朝鮮をなだめる調整役を担ってもらいたいところ
 ですが、中国自体も反発を覚えているのでそれが難しくなっています。


 また以前の中国と北朝鮮が「他国には言えない関係性を持っていた」
 ことも影響していると私は見ています。中国は北朝鮮を通じて武器の
 輸出をしていたのではないかと言われています。


 この辺りの事情を北朝鮮側に洗いざらい公開すると言われると、
 せっかく先進国の仲間入りを果たし過去を清算したいと思っている
 中国には大きな痛手となります。


 ゆえに中国としても、バッサリと北朝鮮を切り捨てるのが難しいの
 ではないかと思います。


 この状況下で「追い込まれた」のは韓国のイ・ミョンバク大統領です。
 中国による「6カ国協議」の提案も今の韓国にして見れば気軽に
 応じることはできないはずです。


 再び北朝鮮が攻撃をしてきたら「物理的に完璧にやり返す」必要が
 あると私は思います。


 もしもイ・ミョンバク大統領が「日和見」を決め込めば、即失脚に
 追い込まれることになるでしょう。


 今年の3月に発生した黄海上の南北朝鮮の境界に近い場所で韓国海軍
 の哨戒艇が沈没した事件について、北朝鮮は関与を否定しました。


 韓国は国連に助けを求めましたが、中国やロシアのサボタージュも
 あり、結局「泣き寝入り」する結果になりました。


 ゆえに今のイ・ミョンバク大統領には「国連」というオプションも
 ないはずです。


 北朝鮮がもう1度攻撃をしてきたら、今度は本格的に「ミサイル攻撃」
 をやり返す以外に選択肢はない状態だと思います。


 北朝鮮には韓国のソウルに狙いを定めている短距離ミサイルが
 約2000発準備されていると言われています。


 もし本格的にミサイル攻撃をするとなれば、これらが火を噴く事に
 なるでしょう。そうなれば、本当に南北戦争の勃発です。今まさに
 一触即発といった状況が続いています。


 韓国に唯一オプションがあるとすれば、米国の参戦です。もし米韓
 演習が行われている間に北朝鮮との戦争に発展すれば、韓国だけで
 なく米国も一緒に参戦することになるだろうと私は見ています。


 北朝鮮が韓国にミサイル攻撃を仕掛けたら、それを理由として米国は
 金正日総書記に狙いを定め、平壌を攻撃すると思います。この時、
 中国が北朝鮮側に参戦してしまうと朝鮮戦争の二の舞になりますが、
 その可能性は低いでしょう。


 中国が参戦するとすれば、韓国を攻撃対象とする理由はありませんから、
 必然的に米国を相手にすることになります。すなわち、「中国の参戦=
 米中戦争」です。これは大変な事態です。


 万一中国が参戦をするにしても、それを覚悟するまでには「ある程度
 の時間」を必要とするでしょう。


 米国の思惑としては、もし中国の参戦があるとしても「そのタイムラグ」
 を利用し、中国が参戦してくる前に金正日以下の主要勢力を排除して
 一気に決着をつけるつもりではないかと私は思います。結果として、
 中国は手を出せないことになります。


 ですから、もし再び北朝鮮が韓国に手を出してしまったら、米国は
 容赦なく動きを見せるでしょう。今後の朝鮮半島の動向と米国に
 ついて注意して見ていきたいと思います。


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