大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#135 富裕層の資産運用の実態を知る

2006年10月20日

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 日本・富裕層人口
 141万人とアジアでダントツ首位
 日本、アジアの富裕層の59.3%を占める
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●欧米のプライベート・バンクが日本で失敗する理由とは?


10日、三菱UFJメリルリンチPB証券は、
日本の富裕層人口が アジア8市場(日中韓印香台・シン
ガポール・インドネシア)の中で首位・141万人に
達すると発表しました。
(※ここで言う富裕層とは、純金融資産の保有額が100万ドル
(約1億2000万円)以上の個人ということになります)


しかし、人数こそ首位のものの、日本の伸び率は
8市場の中で最も低水準で、また1人当りの平均保有資産は
270万ドル(約3億2000万円)で、
こちらも8市場中、7番目という状況です。


首位の香港が530万ドル、2位の中国が500万ドルですから、
日本の場合には富裕層と言っても、
小金持ちが大勢いる状態と言ってもいいかも知れません。


小金持ちが多い日本で特徴的なのは、
これらの富裕層の資産を運用するために
プライベート・バンクが提供しようとする専門的な
投資商品が諸外国のようには売れていないということです。


例えば、アメリカでは、クリントン政権以降の
この十数年で、富裕層の人数が急増しました。


これを受けて、多くのプライベート・バンクは、
富裕層=100万ドルではなく、500万ドルや中には
1,000万ドル以上に水準を切り上げることで、
より富裕層を絞り込んでグレードの高い専門的な
サービスを提供しようとしています。


ところが、このプライベート・バンキングの戦略は、
日本では全く成功していません。


日本では富裕層であっても、リスク性のある投資商品を
全く持たず、単に郵貯に貯金しているだけという人がいます。


そして、欧米のいずれのプライベート・バンクも、
プライベート・バンキング市場では適切に
日本の富裕層にアプローチできず、
成功できないまま撤退してきました。


これは、欧米のプライベート・バンクが
日本の国民性や保有資産の現状に合ったサービスを
提供せず、一様に100万ドル以上の富裕層に向けて、


欧米と同じようなテーラーメイド型の専門的な投資商品を
提供しようとしているからだと私は思っています。


まさに、欧米人が日本人を理解できていない
証拠とも言えるでしょう。



●日本の富裕層に合った
プライベート・バンキング・サービスとは何か?


では、日本人を理解した、
日本の現状に即したサービスを展開するには、
どのような戦略を考えればよいでしょうか?


先ほど見たように、日本の特徴は2つあります。


1つは、小金持ちが多いということ。


もう1つは、リスク性のある投資商品に対して
積極的ではなく、専門的な投資商品は求めない国民性
であるということでしょう。


この2つの特徴に見合うサービスを考えればいいわけ
ですが、さらに、もう1つ決定的な補足事実があります。


それは、保有資産額を100万ドルという水準から
少し切り下げて、50万ドル(約5,000万円)にすると、
爆発的に対象人口が増えるということです。


ここから導かれる結論は、
欧米で100万ドルから水準を上げて、
500万ドル・1,000万ドル以上の富裕層向けの
サービスを展開している方向性とは、全くの逆に
行くべきだということです。


つまり、日本においては、
保有資産額の水準を50万ドルまで下げて、
より簡易的な投資商品を提供するサービスの展開を
考えるべきだと私は思っています。


保有資産の水準を50万ドルまで下げると
人数が多くなりすぎて、これまで
プライベート・バンキングで提供していた
テーラーメイド型の専門的なサービスを展開する
ことは不可能でしょう。


しかし、それでいいのです。
私から言わせれば、テーラーメイド型のサービスを
提供しようとするプライベート・バンキング自体が、
日本においてはナンセンスですし、受け入れられない
形態なのです。


投資に臆病な日本人の国民性を考えれば、
テーラーメイド型の専門的なサービスを展開しようと
するのではなく、イージーオーダーで購入できる、
より簡単なサービスが適していると私は思います。


ゼロからその個人の資産状況に合わせて設計していく
投資商品ではなく、
こちらは「AとBとCを○%ずつ」、
あちらは「AとDとEを○%ずつ」といった
パッケージ化した商品で十分ではないでしょうか。


重要なのは、アッパーミドルの層に向けて、「マス」で
売れる商品を持ち込んでいく戦略をとることでしょう。


今後の展開を考えても、
アッパーミドル層のセグメントは年々広がっていくので、
チャンスはどんどん広がっていくだろうと思います。


どのようなサービスでも、
その国の国民性や地域性を考慮するべきでしょう。


特に今回のプライベート・バンキングというサービスで
言うと、日本人の投資に関する国民性に特筆すべきものが
あるのは、世界のどの国もわかっていることでしょう。


それなのに、日本にあったサービスを展開できないのは、
「プライベート・バンク」という言葉に
捉われすぎているのではないでしょうか。


言葉などに惑わされることなく、
ニーズにあったサービスを展開して欲しいものだと思います。


                         以上


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