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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON338「デフレ脱却時期は2012年度中!?~具体策なしの「評論家大臣」はいらない」

2010年11月19日

 デフレ経済
デフレ脱却は「2012年度中」
海江田経済財政相
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 ▼大臣は「経済予測をする」のではなく、「具体的な政策」を述べよ
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海江田万里経済財政相は9日、デフレ脱却目標の時期について
 「2012年度中」との目標を示しました。


 また「新成長戦略で11年度中に消費者物価上昇率をプラスにする
 ことを掲げている。それが1年以上続けばデフレ脱却だ」との見解を
 示しています。


 消費者物価指数の推移を見ると、07年~08年にかけて上昇していた
 数値が08年半ばをピークとして大きく下がっており、今年に入って
 からその勢いは加速しているのが分かります。


 この現状を踏まえて、上記のような発言ができるとはよほど「勇気」
 があるのだろうと言いたくなります。


※「消費者物価指数の推移」(チャートを見る)
→ 


 そもそも私に言わせれば、経済財政相という立場にある人が何を言って
 いるのかと思います。


 経済評論家ならば「評論するだけ」でも良いでしょうが、自分が大臣
 の立場にあるのだから「具体的な政策」について述べるべきです。


 「大きな痛みは伴うかもしれないけれども、デフレ脱却のために
 私は来年このような政策を実施します」と言えなければ、大臣として
 の意味がないと私は思います。


 毎年、年末が近づいてくると来年の景気見通しについて、様々な識者
 が見解を発表しています。


 私も毎年いくつかの雑誌社からインタビューを受けます。景気はいつ
 回復するか?来年の景気見通しはどうか?という質問を受けて、私が
 「来年は厳しい」という回答をすると大抵のインタビュアーは驚いた
 表情を見せます。


 なぜなら、私と同じようなインタビューを受けるほとんどの人は
 「来年の前半は厳しいが、後半には回復する」という回答をしている
 からです。この15年間、彼らはずっと同じことを言い続けています。


 翻って今回の海江田経済財政相の発言を見てみると、その真意を理解
 できます。


 すなわち、「来年の後半には景気回復する」と言うことにすら自信が
 持てないため、「再来年の2012年までに」と発言しているのだと私は
 見ています。


 具体的に自分は何をするのかを述べる立場にある人が、それを言わず
 して経済評論家のごとく予測しているだけでも不合格です。


 加えて、その予測内容が他の経済評論家よりもさらにお粗末で、予測
 を外した際の言い訳とも言える予想をしているとは、全く目も当てら
 れない状況だと思います。


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 ▼ 大蔵官僚の過剰な自信が、バブル崩壊を未然に防ぐ機会を見逃した
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 先日、NHKで「862兆円 借金はこうして膨らんだ」という番組が
 放送され、元大蔵官僚の証言録が開示されていたそうです。私は番組
 の宣伝を見たことはありますが、番組そのものは見ていません。


 ただ90年代当時、私は直接大蔵省の役人と喧々諤々の議論をしてい
 ましたから、「何が起きていたのか」は理解しています。


 借金大国日本への歩みが始まったのは、さらにはるか昔の田中角栄氏
 が大蔵大臣だったころに遡ります。


 田中角栄氏が大蔵大臣になって、「予算を守るのではなく、どんどん
 国債を発行して使え」という方針が打ち出されました。


 「均衡ある国土の発展」という考え方のもと「ばら撒きによって政治
 を固める手法」が広がりました。


 この時の変化について当時の大蔵官僚の一人から「まるで空の色が
 変わったようだ」と聞いたことがあります。


 それまでは歳入の額を全て把握し、それを踏まえた上で歳出の計画を
 立てるのが大蔵省の仕事でした。ところが、突然「歳入は関係ない、
 どんどん使え!」と言われ、最初はかなり戸惑ったそうです。


 NHKの番組内で紹介されている元大蔵官僚の一人のコメントを見ま
 したが、「無責任極まりない」と私は言いたくなりました。


 借金大国の道を突き進んでいた90年代初頭、私は大蔵官僚の人たち
 に「このままでは日本経済は大変な事態になる」「銀行が100行くら
 い破綻するかもしれない」と警告しました。


 「日経平均株価も1万円を下回る」「東京の地価は10分の1以下に
 なる」という計算をして資料を見せて説明しました。


 しかし、それに対して大蔵官僚は「軟着陸させてみせる」から大丈夫
 だという見解でした。


 ところが、結果は誰もが知っているように失敗に終わりました。NHK
 の番組で紹介されていた元大蔵官僚のコメントでは「赤字国債を発行
 して、コントロールが効かなくなった」「その時になって、経済とは
 こういうものかと分かった」という趣旨のことを述べていました。


 私が資料を見せて説明したときには「軟着陸させてみせるから、大前
 さん黙っていてくれ」と言っていたのに、3年後には「あの時の資料
 をもう1度見せてくれないか」と言ってくる始末です。


 悪意があったとは思いませんし、良心的な人たちだったとは思います。
 しかし、「自分たちがやれば何とかなるはずだ」という“自信過剰”
 だったのは間違いないでしょう。その点では第2次世界大戦時の軍部
 と同様だと私は思います。


 NHKが番組を作るのは自由ですが、「あなたが黙っていてくれれば、
 何とか上手くやる」と言われた身としては、文句の1つも言いたくな
 ります。


 当時、「事前に気づく機会・チャンス」はあったのに、それを見逃して
 いたという事実をしっかりと認識してもらいたいと思います。


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