大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON337「迫りくる国債危機~パフォーマンスではなく法律の次元から国の会計をチェックせよ」

2010年11月12日

 日本国債
失われた20年よりもひどい苦境待ち受ける日本
会計検査院
国の不適切経理 1兆7000億円
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 ▼ フィナンシャル・タイムズも、ようやく気づいた日本経済の危険度
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4日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は日本国債への投資について、
 潜在的なリスクが高まっていると指摘しました。


 これは年金基金や銀行などの国債運用に変化が出始めていることや、
 2015年までに国内の民間貯蓄が不足し財政赤字を埋められなくなる
 との見方を紹介したものです。


 利回りが急上昇した場合、「失われた20年がさらにひどい事態に発展
 する」と警告しています。


 失われた20年よりもさらにひどい事態に発展するとは、
 フィナンシャル・タイムズもよくぞ言ったものだと思います。


 私はこの問題を10年以上前から指摘していますから、
 このフィナンシャル・タイムズの姿勢は大歓迎です。


 敢えて言えば、フィナンシャル・タイムズがもう少し早く気づいて
 くれていたら、今のような事態は避けられたかもしれないと残念に
 思います。


 今回のフィナンシャル・タイムズの記事では、金融機関のアナリスト
 の見解なども織り交ぜながら、相当細かい点まで言及しています。


 日本の家計貯蓄率はリーマン・ショック以降、一層下落を続け、
 ついに消費大国の米国を下回る水準になってしまいました
 (2009年ベースで日本2.3%・米国4.3%)。


 さすがに2%台の貯蓄率では今の日本政府の無駄遣いをファイナンス
 することは不可能でしょう。


 そうなってくると、進む道は2つです。1つは「外国から借りる」と
 いう道です。この場合、利回りを高く設定する必要がありますが、
 それだけで日本国債はひっくり返ってしまうでしょう。


 もう1つは、「誰も日本国債を買わない」という道です。国債を引き
 受ける人がいなくなってしまえば、無駄遣いを続けてきた日本の財政
 は、間違いなく立ち行かない状況になってしまいます。


 私は10年以上も前からこのような予測をして警鐘を鳴らしてきました。
 特別に難しいことではなく、論理的に考えれば当たり前の帰結です。


 それにも関わらず、日本政府もマスコミも未だにこの事態を理解して
 いないことが大きな問題だと強く感じます。


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 ▼ 政治家と会計検査院が一体化して実現できること
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 会計検査院は国の2009年度の報告書をまとめ、菅首相に提出しました。
 それによると、経理処理が不適切と指摘したのは986件、金額ベース
 ではおよそ1兆7000億円と過去最高を更新しました。


 会計検査院が指摘した省庁別不適切経理の額などを見ても、今回の
 会計検査院による作業は実に的確で「プロの仕事」だと感じます。


 ※ 「会計検査院が指摘した省庁別不適切経理の額」(チャートを見る)
 ⇒ 


 国土交通省については、国鉄の処理の結果、溜め込んでいた
 約1兆2000億円を国庫に納めるべきと指摘しています。


 次いで、金融庁、厚生労働相、農林水産省なども1000億円規模の
 不適切経理について指摘されています。ぜひ、ここで判明した資金を
 国債の償還に充ててもらいたいところです。


 このような厳しく的確な指摘を、蓮舫行政刷新相にも見習ってもらい
 たいと私は思います。


 おそらく蓮舫行政刷新相が主張している数千億円規模の予算削減も、
 数年後に実施状況を見れば、数十億円しか削減されていないという
 結果になるでしょう。


 強制力もないですし、結局のところ、選挙パフォーマンスとしての
 意味合いが強いと私は思います。


 そんな選挙目当ての事業仕分けはやめて、例えば、政治家と会計検査院
 が一緒に取り組むという方向性を検討してほしいと思います。


 会計検査院だけに任せるのも私は賛成しません。というのは、
 会計検査院は役人の立場として法律上適切に処理されているかどうか
 は判断できますが、「法律そのもの」については手を出せないからです。


 そもそも必要性がないと感じつつも、法律で定められているために
 仕方なく実行されていることがあります。


 これについて、法律そのものを見て必要性があるのか、仕分けするべき
 かどうかを判断するのは「立法」の立場ですから、政治家が担当しなくては
 いけません。


 逆に言えば、政治家はこの点に役割を絞って、
 「法律をこのように変えるべきだ」
 という主張をしてくれる方がよほど分かりやすいと思います。


 今、枝野幹事長代理や蓮舫行政刷新相が実行している事業仕分けは、
 私に言わせれば「財務省の手のひらの上で踊っている」に過ぎません。


 シナリオを描いているのは財務省であり、彼らの思惑が事業仕分けの
 対象にもかなり反映されていると私は感じます。財務省のシナリオ
 通りなら心配ないと思う人もいるかも知れません。


 しかし、日本という国にこれだけの借金を作ってきた責任の一端は
 財務省にもあります。盲目的に財務省の言いなりになるべきではない
 と私は思います。政治家が本当に予算付けが必要なものを峻別する
 ことが重要です。


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