大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON331「長妻前厚労相へのアドバイス~凄まじいスピードで変わる世界地図と、歴史軸を理解せよ」

2010年10月1日

 長妻前厚労相
 改造内閣で厚労相退任
 経済ブレーンは雇用優先主義者
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 ▼ 長妻氏には、来る時に備え、2つのことを勉強して欲しい
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 長妻昭前厚生労働相は22日の退任記者会見で、厚労省について
 「隠蔽体質、無駄遣い、天下り体質があり、世間の期待に比べて動き
 がワンテンポずれていた」と評価しました。


 その上で「かなり追及したので、厚労省にとって『天敵』の位置づけ
 だったのでは」と振り返りました。


 最新の日経ビジネス誌の記事でも、最も評判の悪い大臣の一人として、
 長妻前厚生労働相の名前が挙がっていました。


 私は彼に電話をしてみましたが、「改革を全うできずにまだ心残りが
 ある」「日経ビジネス誌の記事は読みました」と述べていました。


 


 私は長妻氏に「まだ機会があるから、その時に備えるように」とアド
 バイスを送りました。


 厚生労働省というのは大きすぎるため、将来的には「労働省」と
 「厚生省」に別れる可能性が高いと私は見ています。


 そうなった折に「厚生省を担えるのは長妻しかいない」と周りから
 声を掛けられるような人になるべきだと、長妻氏に説明しました。


 そしてまとまった時間を確保できる立場になったのだから、これを
 機会に「2つのこと」について勉強しなさいとも話しました。


 1つは「歴史」です。歴史を勉強し、時間軸の中で理解しなければ
 正しく対処できない問題は数多くあります。今、世間を騒がせている
 尖閣諸島の問題などもその代表的な例でしょう。


 もう1つは「世界地図」です。世界の情勢は凄まじいスピードで変化
 を遂げていて、世界地図は一昔前とガラリと変わってしまいました。
 この点について理解している日本の政治家は極めて少ないと感じます。


 長妻氏にはこのタイミングを活かして、ぜひ次につなげてもらいたい
 ところです。長妻氏は「真面目すぎる」側面があり、官僚と上手に
 折り合いをつけていた前原氏などと比べると官僚からの「受け」は
 良くなかったと思います。


 しかしここで気をつけて欲しいのは、だからと言って「長妻氏はダメ
 なヤツだ」と国民が盲目的に判断してしまうのは良くないということ
 です。


 概してマスコミの論調も長妻氏を非難する傾向が強くなっていますが、
 これは長妻氏の政治家としての力量とは無関係に報道機関の企業体質
 に依るところも大きいと私は思います。


 大臣には必ず「ぶら下がり記者」がいますが、両者の間には
 「ぶら下がった人」が出世すれば記者たちも出世するという関係性が
 あります。


 ゆえに、前任者との違いを全面に出してアピールしたい新大臣、そし
 て前任者を否定して新大臣を持ち上げる記者という構図になりがちな
 のです。


 例えば、小沢一郎元幹事長の周りからはぶら下がりの記者がいなく
 なりますので、当分の間は「静か」な状況が続くと思います。


 国民としてはこうした報道機関のスタッフ・記者と政治家の関係を
 知った上でニュースを読み解くように心がけるべきでしょう。報道
 内容をそのまま鵜呑みにしてしまうと大きな勘違いをしてしまいます。


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 ▼ 雇用を目的指標にするなど、先行きが思いやられる
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 政府は22日、内閣府の要職に菅直人首相のブレーンとしても知られる
 人物を採用しました。不況期は政府が雇用をつくることで経済成長
 すべきだと主張してきた人です。


 率直に言えば、このような人物を首相のアドバイザーとして採用する
 こと自体「恐ろしい」と私は思います。


 私は何度も述べてきましたが、「雇用」は遅行指標であって、目的指標
 にしてもダメなのです。雇用創出を目的にして成功した国を私は未だ
 かつて知りません。


 市川房枝氏の選挙スタッフであった菅首相としては、発想が近い人を
 求めたというところでしょう。雇用を目的にしても、税金を使うこと
 でしか実現できませんから、絶対に上手くいきません。


 そうではなく、始めに手をつけるべきは「徹底した規制緩和、規制の
 撤廃」です。誰しもが自分のお金を使ってでも「新しいことをやろう」
 「新しいことをやってみたい」と思う状況を創りださなければ始まら
 ないのです。そうでなければ、新しい産業も企業も起こり得ません。


 「雇用はどうしても景気の回復に対して遅れるもの」という常識さえ
 わきまえず、この期に及んで「政府が雇用をつくることで経済成長
 すべき」と助言する人間を首相のアドバイザーに選任するなど、
 先行きは暗いと言わざるを得ないと私は感じています。


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