大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#134 阪神・阪急HDは私鉄連合を目指せ!

2006年10月13日

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阪急阪神HDが発足
阪急HDと阪神電鉄の経営統合
今後は、具体的統合策を模索


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●阪急+阪神になっても、業界地図に再編の兆しはない


1日、阪急ホールディングスと阪神電気鉄道が経営統合し、
阪急阪神ホールディングスが発足しました。


同日、臨時取締役会で、社長に阪急HDの角和夫社長などの
役員人事を正式決定したとのことです。


阪急HDと阪神の合併は、
世間をにぎわせた村上ファンドの事件をきっかけとし、
戦後初の大手私鉄同士の再編ということもあって、
非常に大きなニュースとして取り上げられています。


しかし、単に合併したままの今の状態では、
世間で騒ぎたてるほど大きな話ではないと私は見ています。
なぜなら、阪急阪神ホールディングスが誕生しても、
鉄道・百貨店・旅行のそれぞれの業界勢力図を揺るがす
ような大きな影響力にはならないからです。


大手私鉄の2005年度の売上高を見てみると、
第1位:東急13,885億円、第2位:近鉄9,484億円、
そして
第3位:阪急・阪神HD7,993億円、第4位:名鉄7,402億円
となっています。


業界第3位に位置しているといっても、
東急には遠く及ばず、名鉄と同じくらいの規模になった
というくらいで、実は大して大きな規模ではないというのが
分かるでしょう。


百貨店業界では、
2005年度の売上高で4,948億円の業界6位になります。
こちらの規模も、業界上位の
高島屋(1位:1兆311億円)、三越(2位:8,420億円)、
大丸(3位:8225億円)、伊勢丹(4位:7,600億円)は
遥か遠く、丸井(5位:5,615億円)にも及ばない程度に
なっています。


女性アパレルでは
東の伊勢丹、西の阪急と呼ばれるほどですが、
結局のところ、阪急・阪神HDになっても、
駅ビルなどで好調を続ける高島屋の一人勝ちの構図に
変化はなしといったところでしょう。


最後に旅行業界。この業界は、
売上高(旅行取扱高)1兆3,325億円を誇るJTBが
ダントツ状態になっています。
阪急+阪神は4,094億円で、近畿日本ツーリスト
(2位:4,871億円)、日本旅行(3位:4,742億円)に
続く状態です。JTBダントツの業界地図に全く
変化なしというのは明らかでしょう。


阪急・阪神HDが関わる3つの業界のどこを見ても、
業界再編ほどのインパクトを与えるところはなく、
ちょっとしたレベルになりましたといったところです。


ですから、
世間で騒がれるほど、現状では大きな話ではありません。
私としては、ゆっくりと時間をかけて
業界地図を塗り替えるくらいの今後の活躍を
期待したいと思います。



●JR西日本をにらんだ、関西オール連合の実現こそ、
 次のステップ


今後の活躍に期待する一例としてあげるならば、
私は鉄道業界におけるJR西日本との競合関係に
注目したいと思います。


先ほど見たように、「阪急+阪神」というだけでは
関西私鉄の業界地図を塗り替えるには至りません。


さらに言うと、私鉄という枠組みの中でしか
モノを見ていないと、いつまで経っても、
西日本の鉄道業界を再編する答えには辿りつけない
だろうと私は見ています。


JR西日本アーバンネットワーク
(JR西日本の大阪近郊の路線群の総称)を含めてみると、
阪急+阪神の売上高0.8兆円に対して、JR西日本は1.2兆円に
なり、営業キロ数では、阪急+阪神の192kmに対し、
JR西日本は610kmという関係になっています。


これでは、今後いくら阪急+阪神ががんばったところで
たかが知れています。


このJR西日本に対抗していくためには、
関西私鉄5社(阪急、阪神、近鉄、京阪、南海)が
まとまって、関西オール連合を作っていくべきだと
私は思います。


関西私鉄5社がまとまると、
売上高2.3兆円、営業キロ数1,023kmになり、
JR西日本にも十分対抗できるレベルになるでしょう。


ここまでの規模になって初めて、
現状を大きく越えるような、顧客の利便性を追求した
様々なサービスを実現することが可能になるだろうと
思います。


例えば、ポイント・サービスも共通化することで
利便性は飛躍的に向上するでしょう。


あるいは、地域カードを出して、
各地域の商流に飛び込んだ新しいサービスを
企画していくことも可能になってくるのではないでしょうか。


現状は、ようやく経営統合の話がまとまったばかり
という段階だと思いますが、ぜひ「阪急+阪神」という
枠に捉われた戦略のままで終わらないようにして
欲しいと思います。


単に「阪急+阪神」で終わってしまったのでは、
村上ファンド事件の反作用として合併しただけという
結果になってしまうのではないかと思います。


角社長には、「阪急+阪神」の次のステップとして、
関西私鉄5社連合によるサービスの拡充まで目を向けて、
今後の戦略を練ってもらいたいと願っています。


企業が合併した結果として、
単に業界内順位の変動だけに目を向けていても、
本質は見えてこないでしょう。


業界全体にどのようなインパクトを与えるのか?
具体的なサービスとしてどのような変革がもたらされる
のか?など、広い視野を持って判断して戦略を練ることが
重要だと思います。


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