大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON328「日本で愚直にものづくり?~今こそ発想転換、稼ぐための新しい仕組みを考える時」

2010年9月10日

 中国自動車市場 中国自動車大手の投資計画抑制へ
トヨタ自動車 拡大路線からの転換を強調
三菱自動車 海外売上高比率が過去最高を更新
 -------------------------------------------------------------
 ▼ 中国の自動車産業はもっと集約されるべき、30社は多すぎる
 -------------------------------------------------------------


 中国政府は4日、中国国内の自動車大手30社の増産計画を合計すると
 2015年末の自動車生産能力が3100万台以上に達すると明らかにしました。


  一部が輸出に回る可能性はあるものの、計画通りに工場建設が進めば
 供給能力は国内需要に対して4割以上も過剰となる見込みとのことです。


 米国でさえ1600万台~2000万台というレベルですから、この中国の
 3000万台という数字は大きすぎます。


 おそらく約1000万台は余分でしょうし、また自動車大手30社という
 企業数も過剰だと思います。


 米国もかつては数十社の自動車会社がありましたが、最終的には3社
 に集約していきました。日本では米国ほどの集約が進まず、国内に
 9社の自動車メーカーがあります。


 日本の9社でも多すぎると言われ続けてきたことを考えても、中国の
 30社というのは飛び抜けています。


 これまで中国は「国産優遇」ゆえの「輸入抑制」を推し進めてきました。
 その結果、明らかな「作り過ぎ」の状態になっていると私は思います。


 こうした傾向は鉄鋼産業においても見ることができます。中国の粗鋼
 生産量は約6億トンで世界のトップシェアですが、この6億トンのうち
 1億トンほどは余分ではないかと私は見ています。


 鉄鋼でも自動車でも、中国都合の国内優遇施策ゆえに大量に生産された
 「余り」が、輸出に振り向けられることがあるとしたら、とんでもなく
 迷惑な事態を招くでしょう。


 約1000万台の「余った自動車」が中国から輸出されれば、世界中の自動車
 メーカーには相当の悪影響になると思います。


 インドは中国と同様、大きな成長市場ですが、スズキ1社で50%のシェアを
 占めています。いくら中国が成長市場だとしても、30社という数はさすがに
 多すぎます。


 世界へ悪影響を及ぼす前に、市場を集約させる方向へ動いてもらいたいと
 私は思っています。


 -------------------------------------------------------------
 ▼ ものづくりの発想だけではメーカーは生き残れない
 -------------------------------------------------------------


 トヨタ自動車の豊田章男社長は3日、「規模の追求だけの成長でなく、
 いい車づくりを目指す」と述べ、拡大路線から転換する姿勢を明らか
 にしました。


 また急速な円高には「状況は大変厳しい」との認識を示す一方、「日本
 でのものづくりにこだわる」と強調したとのことです。


 このトヨタの方針は、今のトヨタにとっては良くないのではないかと
 私は感じました。


 「日本にこだわる」「拡大路線から転換する」という方針が、トヨタ
 自身の体質を大きく狂わせてしまう可能性があるというのが理由の
 1点目です。


 そしてもう1つには、今のトヨタには「そんな綺麗事を言う余裕はない」
 と思います。


 まず、インドや中国では物凄い勢いで伸びている企業が沢山あります。
 彼らを相手にするには死力を尽くしてシェアを奪いに行く姿勢が必要
 だと私は思います。


 また国内企業に目を向けても、スズキ・日産・三菱自動車などは世界
 に向けての動きを見せています。スズキはおおよそ「日本で150万台」
 に加えて「インドでも150万台」の体制を作り上げ、さらには中国や
 ハンガリーでも販売数を伸ばしてきています。


 日産はマーチの生産をタイや中国に移して、逆輸入する形で日本市場
 へ送り込む動きを見せています。


 その結果、日産のマーチは90万円代で販売できる体制になっています。
 実際に今後マーチが日本市場でどのくらい販売できるかは分かりません。


 しかし「世界最適地で作って、一番良い市場に持ってくる」という
 日本にこだわらない体制は、いずれにせよ評価に値すると私は思い
 ます。トヨタはこうした動きを見せていません。


 もしマーチの販売が成功したなら、トヨタにとっては相当なダメージ
 になると思います。綺麗事を言って日本でのものづくりにこだわって
 いる間に、日産との戦略の差が大きく広がってしまう可能性は大いに
 あると思います。


 そして、「世界最適地で作って、一番良い市場に持ってくる」という
 日本にこだわらない体制で見事に成功しているのは三菱自動車です。


 三菱自動車は2011年3月期の海外売上高比率が83%前後と過去最高
 を更新する見込みです。


※「三菱自動車の地域別売上高」チャートを見る
 


 地域別の売上高を見ると、日本・米国での調子は低迷していますが、
 一方で欧州(ロシアを含む)・アジアその他の地域で大きく伸びている
 ことが分かります。


 国内では様々な問題が噴出してしまった三菱自動車ですが、海外で
 見事に花を咲かせています。


 まだまだ道路が未整備で、ガタガタの道が多い国はたくさんあります。
 そうした国では三菱自動車のランサーやパジェロは非常に需要がある
 はずです。


 こうした状況を踏まえて、「日本でのものづくり」「日本の製造業」が
 生き残るためにはどうすればいいのかという議論があります。しかし、
 私はもはや問題の次元が違うと感じています。


 世界の潮流を見ていると、新しいコンセプトを考え出した企業が圧倒的
 な主導権を握る一方、製造を担当する企業はベテラン企業でなくても
 良い状況になりつつあります。


 自動車メーカーではなく、家電メーカーでも自動車を製造できる時代
 になってきているということです。


 北京のモーターショーでEVカーを発表したIAT(阿爾特中国汽車技術
 有限公司)を見ても、その傾向は明らかだと言えるでしょう。


 今後、あらゆる日本のメーカーは「ものづくり」という発想だけに
 こだわってしまうと敗北してしまうでしょう。


 メーカーが生き残る道は、米アップルのように「コンセプトや仕掛け
 まで含めて」実行する力を身に付けることだと私は思います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点