大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON327 戦略不在の日本~他国の”戦略的な”通商交渉、観光振興、徴兵制度から学べること

2010年9月3日

レアアース 希少金属の輸出制限めぐり議論
東アジア観光 日中韓観光相会合で共同声明採択
ドイツ成人義務 ドイツ連立与党内で制度存廃論が争点
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 ▼ レアメタル確保は騒ぐほど大きな問題ではない
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日中両政府の経済閣僚が集まる「日中ハイレベル経済対話」が28日、
 北京で開かれました。


 ハイブリッド車(HV)や省エネ家電の部品生産に使われる「レアアース
 (希土類)」の 輸出枠を中国が大幅に削減した問題で、日本側は「世界
 全体に大きな影響がある」などとして削減の再考を求めましたが、
 中国側は採掘に伴う環境問題などを理由に応じず「ゼロ回答」に終わり
 ました。


 ここでの問題は「日本の対応に戦略が全くないこと」だと私は思います。
 直嶋正行経済産業相にしても岡田克也外務大臣にしても、ただ「頼む
 だけ」だからあっさりと断られてしまうのです。


 この点、非常に上手だと感心するのが台湾のやり方です。台湾の場合には、
 例えば中国に合弁事業を持ちかけます。


 そして台湾でモーターなどの製作を担当し、そうした部品を作るにあたって
 「レアメタルが必要なので下さい」と頼んでいます。


 一方的に「どうか下さい」と頼むのではなく、商談と絡めつつ調達すると
 いう方法です。


 日本のように政府レベルだけで物事を進めようとして、政治家が「お願
 いします」と出かけても、中国政府にしても現場のことはよく分かって
 いませんから断られてしまうのです。


 ただ仮に中国からのレアメタルの調達が困難だとしても、それほどパニック
 になる必要はないと私は判断しています。確かにレアメタルの生産量は
 中国が世界の97%を占めていて圧倒的にトップです。


 しかし埋蔵量に目を向けると、


 中国36.4%
 CIS諸国19.2%
 米国13.1%
 豪州5.5%
 インド3.1%


 となっていて中国以外の選択肢があることが分かります。


※「レアアースの生産・埋蔵国のシェア」チャートを見る


 また、実は日本もかなりの量のレアメタルを「埋蔵」していると見る
 こともできます。


 それは都市鉱山と呼ばれているような既存製品に利用されているレアメ
 タルです。


 極論すれば、秋葉原にあるレアメタルの量は世界に匹敵するのではない
 かと言われるほどです。


 例えば来年地上デジタル放送に切り替わることで真空管方式のテレビは
 不要になりますが、テレビにはイットリウムが大量に使用されています。


 こうしたものを回収し、再利用する手立てを考えれば、日本国内だけで
 も相当量のレアメタルが補えるはずです。全く別の手段として、
 レアメタルを使わずにプラスチックで代用する方法を考えることも
 できるでしょう。


 こうした状況を踏まえて、中国あるいはその他の産出国に対してアプローチ
 を考えていくべきです。


 焦って戦略も戦術もないままに、ただ「譲って下さい」と頼んでいる
日本の大臣の姿は惨めだと言わざるを得ません。私はこの問題が大きく
なってしまう可能性は低いと思います。


 台湾で同じテーマで議論したときには、殆どの台湾人は「商談と絡めて
 行けば何の問題もなく調達できる」と答えていましたが、同感です。
 日本も台湾に歩調をあわせていけば良いと私は思っています。


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 ▼ 観光業の振興にも戦略が必要
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 中国で開かれた日中韓観光相会合が、23日共同声明を採択し、
 閉幕しました。


 声明には3カ国を相互に訪問する旅行者の数を2015年に2600万人に
 拡大する目標などが盛り込まれました。前原誠司国土交通相は「経済
 効果はもちろん、3カ国の平和共存や絆の強化にもつながる」との
 見解を示したとのことです。


 観光業というのは自動車産業を凌ぐ世界で最も大きな産業であり、
 ここを軽視するべきではありません。いかに外国人が訪問したときに、
 お金を落としたくなる施設を作るかを真剣に考えるべきだと思います。


 日本は「安全・安心」という点で優位性があり、富士山など魅力のある
 場所も抱えていますが、魅力のあるモノが少ないと私は思います。
 今こそ、それを作る絶好のタイミングです。


 今年の中国から日本への訪問者数は、昨年から倍増して200万人を超え
 ると思います。しかし日本はそのための準備が全く出来ていません。
 なぜここに戦略的な考え方を持ち込めていないのか、非常に残念です。


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 ▼ 「徴兵制度」から考える「あるべき国民像」
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 日本が国家としての戦略を持つと考えたとき、私は予てから「徴兵制度」
 の導入を検討するべきだと述べてきました。


 ドイツの連立与党内で成人男性に6カ月間の高齢者介護などの社会福祉
 活動を義務付けている制度を存続させるかどうかが争点に浮上しています。


 徴兵制度のあるドイツでは連邦軍での勤務を拒否した場合は、その代替
 措置として社会福祉活動に携わる必要がありますが、独政府が徴兵制を
 凍結する検討に着手したため、福祉国家を支える社会奉仕活動も揺ら
 いでいるとのことです。日本でもこのような議論を積極的に展開して
 欲しいと私は思います。


 「徴兵制度」を導入する目的は「ピストルを撃つ方法を学ぶ」という
 ことばかりではなく、厳しい環境の中で半年間苦労に耐える経験を積む
 ことにあると思います。


 例えば、世界一豊かな国と言われるスイスにも徴兵制度があります。
 永世中立を守るための措置であると同時に、訓練の一環としてスイスに
 ある険しい山に登ることによって「苦労に耐える」経験を積ませています。


 また「徴兵拒否の代替活動」や「徴兵免除の条件」をどのように定める
 かによって、国家としての戦略を反映させることができます。


 ドイツのように「徴兵拒否」の代替として社会福祉活動に携わらせるの
 も1つの選択肢でしょう。あるいは、台湾のように「徴兵免除」の条件
 として工学部の大学院生と定めることもできます。


 台湾がエンジニアリングに強くなり、チャイワンと呼ばれるまでになった
 のは、徴兵制度の仕組みの影響が強いと私は思います。


 そんな台湾の学生に対して、ファーストフードのアルバイト三昧でまとも
 に大学で勉強もしていません、というような日本の学生が敵うはずが
 ありません。


 「日本という国をどのような国にしたいのか」という全体戦略が欠如し
 たままでは、日本は今後さらに世界から取り残されてしまうことになる
 と私は危惧しています。このように「戦略」の不在が随所に見られるのが
 日本の現状なのです。


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