大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON325「不明高齢者と年金不正受給~恥ずべき日本人のモラル崩壊」

2010年8月20日

 高齢者問題
行方不明女性に50年間遺族手当て
国民年金
09年度保険料納付率59.98%


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 ▼ 世界に対して恥ずかしい日本国民のモラルの低さ
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113歳で都内最高齢とされ、所在が分からなくなっている杉並区の女性
 に対し、東京都から公務員の遺族に支給される「遺族扶助料」と呼ばれ
 る手当が、先月まで約50年間にわたって本人名義の口座に支払われて
 いたことが明らかになりました。


 また、朝日新聞社の調べで行方がわからない100歳以上のお年寄りは、
 12日現在全国で計279人にのぼることが分かりました。


 100歳以上ではなく、例えば、国民年金を受給できる65歳以上の年齢
 まで遡ってもう1度調べ直すべきだと私は思います。


 残念なことですが、100歳以上に限らなくても、今回と同様のケースが
 見つかってしまう可能性は高いでしょう。


 それにしてもこれほど不愉快なニュースもありません。遺族が死亡を
 報告せずに数十年にわたって年金を受け取り続けるとは、日本人は
 ここまで堕落してしまったのかと嘆かわしい気持ちです。


 もちろん管理がずさんな行政にも問題はありますが、本来受け取るべき
 ではないお金を受け取り続ける「モラルの欠如」の方が大きな問題だと
 思います。


 私に言わせれば、意図的に数十年にわたって「年金をだまし取っていた」
 のが真実ならば、それは国家に対する詐欺行為と呼んでもおかしくない
 と思います。


 今、日本は国家財政が厳しい状況にあり、年金財政も破綻が間違いあり
 ません。その状況にあってなぜこのようなことをしてしまうのか、理解
 できません。


 この点、マスコミの伝え方も甘いと私は感じます。まるでパンドラの箱
 を扱うかのようにお茶を濁した表現を使っています。


 「どこにいるのか不明」というのも、冷静に考えれば死亡している可能性
 が最も高いはずです。


 さらに言えば、私はこうした行為は何らかの法律で規制すべきだと思い
 ます。


 もし死亡届けなどを出さずに年金を受け取り続けていた場合には、何ら
 かの罰を受ける、あるいは刑に服するといった対処が必要だと思います。


 おそらくしっかりと調査をすれば、行方不明のお年寄りは相当数いる
 でしょう。そして、日本は世界一の長寿国ではなくなるのではないかと
 私は見ています。


 行政・制度の問題以上に、今回のニュースで明らかになった日本人の
 モラルの低さは、世界に対しても非常に恥ずかしいことであり、残念で
 なりません。


 今の日本人の姿を直視し、この事実をしっかりと認める必要があると
 思います。


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 ▼ 「根本的な制度」を見直さなければ、年金問題は解決しない
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 厚生労働省が5日に発表した2009年度の国民年金保険料の納付率が
 59.98%となり、初めて60%を割り込んだことが明らかになりました。


 所得水準が低い非正規労働者の割合が増加したことなどが影響したと
 見られています。


 年金に関連することには、良い話題がありません。79年にはほぼ100%
 の人が国民年金を納めていました。95年の時点でも80%を超えていたのに、
 それがついに60%にまで低下してしまいました。


 ここには2つの問題があると私は見ています。


 1つは、国民年金保険料を納めていない4割の人たちは本当に年金を
 受け取らないのか?ということです。


 この人たちは年金生活が開始される年齢になったとき、人生設計を
 どのように考えているのでしょうか?おそらく、保険料は払わないけれど
 「年金を受け取る権利だけ」を主張する人も出てくると思います。


 死亡届けを出さずに年金を受け取り続けるというモラルの低さを考えれば、
 十分に考えられます。


 また家族に年金受給者がいるとき、毎月の年金のうち一部をお爺さんや
 お婆さんに渡して、残り大半は家族が管理しているという場合もあるで
 しょう。


 そういう意味では、すでに「年金保険料を支払わずに年金を受け取る」
 という下地があるとも言えるでしょう。


 支払っていないものは受け取るべきではないのですが、国の側にも
 「支払ったにも関わらず記録がありません」などという落ち度がある
 ため、信頼性がありません。それゆえ、両者は完全に「いたちごっこ」
 に陥っています。


 2つ目の問題は、年金の「制度」そのものの見直しが必要だと言うこと
 です。


 その大前提として、私が20年も前から提言している「国民データベース」
 の導入が挙げられます。


 国民データベースがなく、未だに「戸籍」ベースのずさんな管理になって
 いるために、政府は当てずっぽうな政策しか打ち出せないのです。


 国民年金を支払わない4割の人に対しても、国民データベースでしっかりと
 管理して、「あなたには年金を支払いません」と言えれば事態は変わって
 くると思います。


 そして年金制度は、かつて民主党が野党の頃、長妻議員が提言したように
 「2階建て」とするしかないでしょう。1階部分は生活保障として税金でカバー、
 2階部分は401kと同じく個々人が自分の計画で運用するというものです。


 率直に言って、今の年金制度及びそれに関わっている人を私は信用して
 いません。


 例えば私のところにも年金の案内が来ることがありますが、「70歳まで
 に受給を開始しなければ、永遠に権利が剥奪される」と言われます。


 これは全くナンセンスです。そう言われたら、必要なくても「もらって
 おくか」となってしまいます。


 基本的には辞退するけれど、何かの事情で必要になったらその時点から
 受け取れるとするべきです。


 そして現実的に年金財政は非常に厳しいのですから、辞退するという人は
 国としてはありがたいはずです。その人達には何かしらの名誉でも良いので
 与えるべきだと思います。


 昔、今の年金制度についてアドバイスをしていた大学教授の話を聞いた
 ことがあります。


 彼は何の根拠もなく「給料が4%、人口が2%ずつ毎年伸びるので、
 年金制度は大丈夫だ」と主張していました。私はその根拠はどこにある
 のか問い質し、事実の数字はそうなっていないと指摘しました。


 政府はこうした外部の「識者」と呼ばれる人たちを上手に利用します。
 何か問題があっても外部の識者の意見を聞いた上での判断という
 「エクスキューズ」を用意します。年金制度もまさにその代表例だと
 思います。


 私に言わせれば、彼は国家を転覆させるに等しいアドバイスをした
 とんでもない識者であり、それを利用した役人も同罪です。


 そしてこれが日本という国の制度の特徴です。ここに手をつけない限り、
 年金問題も根本から解決することはできないと私は確信しています。


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