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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON317 「中国人民元改革」にちょっと待った!~切り上げは世界経済にとって良いことなし

2010年6月25日

 G20サミット
サミット参加者に書簡で
人民元改革促し
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 ▼ 中国人民元を切り上げても、世界にとって良いことはない
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  米政府は18日、26日からカナダで開く20カ国・地域(G20)首脳会議
 (サミット)の参加者に対し、オバマ米大統領が書簡を送ったと発表
 しました。


 大統領はその中で、「市場原理に基づく為替相場が不可欠だ」と指摘し、
 人民元改革が必要だとの認識をにじませています。


 かつて米国はプラザ合意で日本に対して、今の中国に対するのと同じ
 ように、半ば強引に「日本円を強く」させました。


 それに対して日本は正しい対応が取れず、プラザ合意の85年以降、日本経済
 は混迷の時期へと突入し、結果的にはバブル経済に陥ってしまいました。


 では、その結果として米国経済は回復したのかといえば、そんなことは
 ありませんでした。だから私に言わせれば、単なる「余計なお世話」
 だったのです。これは今の中国人民元についても同じことが言えるで
 しょう。


 そして現状を見ると、人民元がこれ以上高騰する余地はないと私は見て
 います。現在、中国では人件費が上昇しています。


 この状況でさらに人民元まで切り上げられてしまうと、世界の生産基地
 として機能している中国の力が急激に衰えてしまうでしょう。これは
 世界中のいずれの国にとっても得策ではありません。


 中国人民元を切り上げることで中国の競争力が失われたら、米国から
 流出した産業が米国に帰ってくるとオバマ米大統領は思っているので
 しょう。


 それゆえ、中国への圧力を強めているのだと思います。しかし残念ながら、
 一度流出した産業が米国に戻ることはありません。実際、かつて日本円
 が高騰した後、米国に戻った産業はなく、日本からさらに中国やベトナム
 などに移動しただけでした。


 人民元を正常化したら米国の経済・産業が競争力を持つ、というのは
 錯覚です。この点についてもっと世界は米国に対して主張すべきだと
 私は思います。


 主要通貨に対する人民元の騰落率を見ると、「対ドル」の人民元は06年
 から08年にかけて上昇していたものの、この数年は横ばい状態になって
 います。


 おそらく今のタイミングで中国側が人民元の切り上げについてコメント
 をしているのは、「横ばい」状態について米国からの圧力をかわしたいと
 いうだけだと思います。


※「主要通貨に対する人民元の騰落率」チャートを見る


 今、中国人民元を完全フロート制度に移行したら、どのような事態を
 招くでしょうか?


 おそらく世間は「人民元が安すぎる」という認識を持っていますから、
 一気に「元高」に振れると思います。「1ドル4元、5元」というレベル
 まで行くかも知れません。


 そうなると中国の実体経済はそこまで強くないと判明し、そこから今度
 は逆に「空売り」する人が続出します。


 これは90年代にペソが暴落した「メキシコ」と同じ状況です。そして結果
 として、中国人民元は乱高下するようになってしまいます。


 この影響は中国だけに留まりません。現在、貿易相手国として「中国が
 第1位」という国はたくさんあります。中国経済が不安定になると、
 そうした国にも影響が出てくるでしょう。


 世界経済にとっても何ら得なことはないと私は思っています。人民元は、
 中国国内の人件費やコストとの兼ね合いを見ながら、徐々に適正な価格
 へと導くようにコントロールするべきです。


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 ▼ 今の民主党政権では財政赤字を半減させることは不可能
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 カナダのハーパー首相は、26日からトロントで開く20カ国・地域(G20)
 首脳会議(サミット)参加国に2013年までに財政赤字を半減させ、2016年
 までには財政赤字の対GDP比率を安定化させることで 合意するよう望むと
 の意向を示しました。


 日本の場合、2010年度当初予算での新規国債発行額は約44兆円ですから、
 「半減=22兆円」です。これはほぼ不可能と言える水準だと私は思います。


 民主党が掲げている政策を全て撤回して、ゼロから練り直さなければ
 実現できません。もし菅首相がG20にてこの条件を了解したなら、根本的
 な部分から認識間違いをしているはずです。


 今の民主党政権お得意の「事業仕分け」をしたところでどんなに頑張って
 も財政赤字の削減幅は2兆円に届きません。


 さらに実際に予算を立てる際には、小沢氏の影響もあったと思いますが、
 それが半減しています。つまり、せいぜい1兆円の削減というのが今の
 民主党政権にできるレベルです。


 「消費税率を10%に」して財政赤字を解消させるという議論もありますが、
 10%になったとしても税収は現在の5%の2倍です。


 2009年度の消費税による税収は9.4兆円ほどですから、単純計算で増える
 税収は10兆円に過ぎませんから、まだ足りません。この計算で考えるなら、
 IMFが提言するように日本の消費税は「15%」にする必要があると言えます。


 では消費税を15%に引き上げたら全てが解決するかと言えば、そんなことは
 ありません。それで穴埋めできるのは、まだ「半分」に過ぎないからです。


 本当の意味で日本の財政赤字を解消しようとするなら、「歳入を増やす」
 だけでは限界があります。大幅に「歳出を削減する」ことを実施しなけ
 れば難しいと私は思います。


 そのためには、「公務員を半数に減らす」あるいは、「不必要なバラマキ
 を全面的に禁止する」などの措置が必要でしょう。


 スペインやギリシャのことは他人ごとではありません。ここまで実行する
 ことを迫られると、スペインやギリシャのように日本でも久しぶりに
 「ゼネスト」が戻ってくる日が来るかも知れないと私は感じています。


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