大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON316 「格差が小さい国」を望む日本人~皆で貧しくなることが幸せなのか!?

2010年6月18日

 社会世論調査
「日本は自信喪失」74%
朝日新聞世論調査
 -------------------------------------------------------------
 ▼ ロウアーミドルに収斂する日本社会
 -------------------------------------------------------------


 朝日新聞社が「日本のいまとこれから」をテーマに郵送方式による全国
 世論調査を実施したところ、「いまの日本は自信を失っている」とみる人
 が74%に達し、90%以上の人がこれからの日本に不安を感じていると答え
 たことが分かりました。


 一方で、回復する底力があるとみる人が半数以上おり、日本の将来の
 あり方としては、経済的豊かさよりも「格差が小さい国」を求める意見
 が70%を占めたとのことです。


 これは非常に悩ましい結果だと私は感じました。「日本が自信を失ってい
 る」のは疑いないでしょう。


 この20数年を振り返ってみてもこれといった良いニュースはなく、さらに
 この数年間ではあのイタリアを上回る回数で首相が変わる始末です。


 ですから「自信を喪失している」ことについては理解できます。しかし、
 「格差が小さい国」を目指すことが重要だというのは如何なものかと
 思います。


 私は拙著「ロウアーミドルの衝撃」の中で、所得階層の2極化によって
 総中流社会が崩壊したと指摘しました。給与所得者数の構成比推移を
 見ると、その状況はさらに加速していることが分かります。


 ※「給与所得者数の構成比推移」チャートを見る  


 年棒300万円以下の人たち、300万円-600万円の人たちを足すと、
 全体の80%程度になります。アッパーミドルと称される
 600万円-1000万円の割合は98年頃から下がってきています。
 またアッパーと言われる年棒1000万円超の割合は横ばいです。


 つまり全体としては、年棒600万円を上回る割合が減ってきており、
 逆に600万円以下の割合が増えてきています。格差が縮小し、600万円
 以下のロウアーミドルに見事に収斂してしまっています。まさに
 「低位安定」といったところです。


 このような状況にあって、さらに「格差のない社会」を求めてしまうと
 いうのは、私には信じられない心境です。行き着く先は、高所得者には
 もっと税金をかけて、低所得者には何かしらの補助金でも付与しましょう、
 という社会でしょう。


 そして「補助金を受け取るほどではないけれどやや低所得者」という
 ロウアーミドルが最も多く、そこが一番安定しているという構図になり
 ます。


 世界の先進国を見渡してみれば、もっと大きな格差がある社会が普通で
 す。上へと登っていきたいという気持ちを抱えている人が多く、実際に
 結構な割合の人が「お金持ち」になっています。


 格差が縮小し、全体としてロウアーミドルに収斂してしまう日本のよう
 な社会では「元気」がなくなってしまいます。果たしてそれで幸せなの
 かどうか、今一度考えてもらいたいと私は強く感じています。


 -------------------------------------------------------------
 ▼ 夢や志を持てる社会になっているか?
 -------------------------------------------------------------


日本では「高齢者に金持ちが多い」と聞くことがあります。しかし実際
 には「ロウアーミドルからロウアーにも高齢者が多い」というのが事実
 です。つまり、現在の日本社会では高齢者が2極化しているのです。


 こうした事情を考慮しても、もし格差のない社会を本当に目指すなら、
 今まで以上に誰かが年金などを負担する一方、低所得者にはさらに補助
 金を付与し、税金を免除するということになってしまいます。もし、
 こうした状況が助長されると、社会はどうなってしまうでしょうか?


 例えば、生活保護を受ける世帯数の推移を見てみると、90年代には減って
 いたものが94年頃から急激に増え続けているのが分かります。厚生労
 働省が発表した速報によると、2009年度では生活保護を受ける世帯数は
 月平均で127万世帯に達し、過去最高になっています。


 ※「生活保護を受ける世帯数の推移」チャートを見る  


 生活保護を受けつつ、母子手当を受け取ることもできます。そうすると
 「最も経済的に得な状況」というのは、例えば次のような状況だと考え
 ることができてしまいます。


 ・結婚してから子どもを3人産み、子ども手当を3人分受け取る
 ・その上で偽装離婚をして、
 ・児童扶養手当など、母子家庭に資格がある手当を受け取る
 ・加えて、(偽装離婚している)旦那が給与をもらう


 結婚してから偽装離婚する方が「得」だとなってしまうのです。倫理的
 な問題を指摘することはできるでしょうが、こういう風に考える人が
 出てくるのは必然でしょう。それで良いのか?ということです。


 私も若い頃は、月々数千円の社宅に住み、銭湯に出かけるという生活を
 していました。月末に残る現金は1000円くらいのものでした。経済的
 には決して豊かではありませんでしたが、とても楽しい生活でした。


 そこには、「将来は何かやってやろう」という強い夢があったからだと
 思います。


 そういうものがなく、「生活保護+子ども手当+偽装離婚」でもしていれば
 生活はできるという状況では、将来に向かうエネルギーが湧いてきません。
 社会全体としてもエネルギーが欠けた状態になってしまうでしょう。


 これは由々しき問題であり、決して放置して良いものではないと私は
 思います。菅首相は「最小不幸社会」を目指すなどと述べていますが、
 それでは話になりません。


 これは会社経営についても当てはまることですし、家庭においても同様
 だと私は思います。やる気があるなら、どんどん上を目指せるようにする
 べきです。


 逆にやる気がないなら尻をたたく必要があります。今、日本では家庭で
 も企業でも国家でも同じことが問われているのだと感じます。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点