大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON314アップル一人勝ち~富は「プラットフォーム」から生み出される

2010年6月4日

 スマートフォン市場
 ノキア、米ヤフー ネットサービスを統合
 電子書籍
 ソニー、KDDIなど新会社設立を発表
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 ▼ アップルとグーグルのスピードの速さに、ノキアはついて行けない
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 5月24日、世界最大の携帯電話メーカーであるフィンランドのノキアと
 米ネット検索大手ヤフーが携帯電話を中心とするネットサービス事業
 を統合すると発表しました。


 スマートフォンが世界的に急速に普及するなか、携帯電話のサービスを
 共同で拡充し、この分野でシェアを伸ばしている米アップルや米グーグル
 に対抗する狙いとのことです。


 米国での実態を見る限り、ほぼアップルとグーグルが勝者になることは
 間違いないと私は見ています。おそらくノキアは世界最大の携帯電話
 メーカーとして「焦り」を感じているのだと思います。


 そして、同じ気持ちを抱いているヤフーと組んで何かしら巻き返しの策
 を練ろうということでしょう。


 しかし、アップルやグーグルが進めるビジネスのスピードにノキアは
 追いつけないと私は思います。アップルやグーグルの戦略は自社として
 はプラットフォームだけを提供し、その上で動作するアプリケーション
 を開放して、どんどん外部の力を借りて作ってもらう点にあります。


 この方法を採用すると、開発のスピードが圧倒的に早くなりますし、
 いち早く気の利いたサービスが登場します。


 例えば、iPhoneで撮影した写真データをBluetoothでiPadに転送する
 アプリケーションなどがすでに開発されています。実際、私は見てみま
 したが非常に使い勝手が良いと感じました。そして、このようなアプリ
 ケーションが無数に存在しています。


 ノキアのように「自社で設計して自社で作り上げる」という従来型の手法
 では、同じ立場のヤフーと手を組んだところで、アップルやグーグルの
 スピードには絶対に追いつけないでしょう。


アップルとグーグルのスピードの速さ、そのパワーを私は日々感じています。


今さらノキアがヤフーと手を組んでアップルやグーグルに対抗したいと
言っても、「健闘を祈ります」くらいしか贈る言葉は見当たりません。
それほど双方の間には決定的な違いがあると私は思います。


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 ▼ アマゾンが電子書籍をiPadに提供したのは、なぜ?
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 アップルが発売したiPadの利用方法について様々な意見があるよう
 ですが、私はビジネス上でも無限の使い方があると感じています。


 やや本体が重たい点は否めませんが、専用のホルダーがありますし、
 Bluetoothのキーボードを使えば、違和感なく普通のパソコンとしても
 利用できると思います。


 携帯電話としての機能がないという点を否定的な側面として取り上げて
 いる人もいますが、あっという間にアプリケーションが開発されて解決
 してしまうのではないかと思います。


 Skypeを利用して「SkypePhone」のアプリケーションで代替される
 可能性も十分あるでしょう。


 今後さらに様々なアプリケーションやサポートサービスが発展していく
 ことは間違いないと思います。私としてはiPhoneに比べてもiPadの
 発展の可能性は高いと見ています。


 私は拙著『新・資本論』の中で「21世紀の富はプラットフォームから
 生まれる」と述べましたが、iPadを取り巻くビジネス環境を知る上で、
 この考え方は非常に重要だと改めて感じています。


 プラットフォームビジネスにおいては、トラフィック(アクセス数)が
 最も重要な要素であり、そこに集まる人が増えることで商流や情報流が
 発生して富が生まれます。


 米アマゾンは自前の電子書籍端末「キンドル」というプラットフォーム
 をすでに持っていましたが、4月に「iPad」が発売された途端、自社が
 販売している電子書籍をiPadでもダウンロードできるようにしてしま
 いました。


 アマゾンにしてみれば、ハードウェアとしての「キンドル」では「iPad」
 に敵わないので「自分はコンテンツ屋」だと割り切ったのだと思います。


 元々ネット通販の小売業を展開しているのですから、電子書籍が売れれば
 良いという判断でしょう。


 iPadというプラットフォームに便乗して「コンテンツで稼ぐ」という
 考え方は、プラットフォームビジネスの本質から見ても理にかなって
 いると思います。


 こうした電子書籍ビジネスの世界的な広がりを受けて、欧米で電子書籍
 ビジネスを展開してきたソニーは27日、同社の電子書籍専用端末
「リーダー」の新しいモデルを、日本国内で、年内に発売すると発表
しています。さらにKDDIも専用端末を年度内に開発する意思を明らか
にしています。


さらに、両社と凸版印刷、朝日新聞社4社で電子書籍配信事業に関する
 事業企画会社を設立する方針とのことですが、この取り組みは上手く
 行かないと私は思います。


 なぜならソニー・KDDI・凸版印刷・朝日新聞社が、電子書籍ビジネス
 を展開する上で最も考慮すべき事項は、ハードウェアではなく、
 様々な本や雑誌などソフトを取り揃えることだからです。


 極端な話、ソニーでなくてもハードウェアを作る技術力がある日本企業
 は沢山あります。


 日本で電子書籍ビジネスを展開する上で、最も大きな障害となるのは
 トーハン(株式会社トーハン)と日販(日本出版販売株式会社)です。


 印刷業界に君臨するトーハンと日販を通さずに、直接書籍をダウンロード
 させる仕組みを展開する「勇気」があるかどうかです。


 そこをクリアしない限り、日本で電子書籍ビジネスを成功させることは
 できないでしょう。


 プラットフォームビジネスという概念は今後ますます重要になってくる
 と思います。他社(者)が積極的に参加してくれる魅力あるプラット
 フォームとはどのようなものかをしっかりと理解してもらいたいと思い
 ます。


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