大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON311 普天間基地問題~軽薄発言が物語る、恐るべき首相の認識欠如

2010年5月14日

 普天間基地問題
鳩山首相
 「最低でも県外は自分の発言」
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 ▼ 米海兵隊は、防衛力しか保有できない日本にとって重要
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 鳩山首相は6日、普天間飛行場の移設について「最低でも県外」といったの
 は自分自身の発言とし、民主党の正式な公約ではないとの認識を示しました。


 またこれに先立ち、沖縄に駐留する米海兵隊は抑止力の維持につながるとの
 認識を持っていなかったと説明。「学べば学ぶにつけ抑止力が維持できると
 いう思いに至った」と語りました。


 この発言を聞いて、さすがに呆れ返ってしまいました。一政治家としても
 認識不足が甚だしいところですが、首相としては問題外です。
 「即刻、首相を辞任するべき」と私は思います。


 鳩山首相は、この問題の本質を全く理解していません。それは、海兵隊は
 「攻撃力」であるから「抑止力」になること、そして日本は憲法上「攻撃力」
 を保持してはいけないということです。


 実際にベトナム戦争や中東での紛争等に海兵隊が出動している点から見ても、
 明らかに海兵隊は防衛のためではなく、「攻撃のための軍隊」だと分かります。


 そのような攻撃力のある軍隊が沖縄に駐留していることで、日本は北朝鮮や
 中国などの周辺諸国に対して間接的に抑止力を持てているのです。核兵器と
 同様、「攻撃するぞ」という姿勢があるからこそ、相手も攻撃をしないのです。


 今回の問題に関して、「米海兵隊から日本の自衛隊に置き換えればいい」と
 いう方法を主張している人もいますが、これは認められません。なぜなら
 日本の憲法では「攻撃力」を保持してはいけないと定めてあるからです。
 自衛隊が「攻撃力」を保持するのは明らかな憲法違反になります。


 日本の自衛隊は「防衛」のためのものですから、自ら攻撃の姿勢を見せる
 など許されません。イメージとして、2回殴られて初めて殴り返すくらいの
 姿勢が、防衛に徹する姿勢だと思います。


 日本は憲法を変えない限り、絶対に米海兵隊のような軍隊を保有することは
 できません。だからこそ、海兵隊が沖縄にいることは日本にとって大きな
 意味があるのです。


 こうした背景を認識しておくことが重要であり、それなくして問題解決する
 ことなどできないでしょう。


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 ▼ もはや、鳩山首相は米国から相手にされない
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 この背景を理解していると、日本の国防とは「基本的に嘘をつく」ことが
 前提になっていることが分かります。日本国憲法では、二度と戦争は起こさ
 ないし軍備も持たないと明示しているにも関わらず、ゴムひも付きの解釈を
 して「専守防衛」のための軍備を黙認しているのです。


 そして、実際には「専守防衛」と言いながらも、米海兵隊という「攻撃力」
 を沖縄に置くことで、周辺諸国への抑止力として機能させています。


 海兵隊をバラバラにして鹿児島へ移設するという腹案もあるようですが、
 これでは日本の国防にとって全く意味を持たないことが分かります。


 そして米国の立場になってみれば、移設資金さえ出してくれるなら、喜んで
 全部グアムにでも移設すると言うでしょう。


 今の米国には沖縄に攻撃力を置いておく必要性はないからです。海兵隊が
 沖縄にいないと困るのは日本です。普天間を必要としているのは米国では
 なく日本なのです。


 鳩山首相も小沢幹事長も政治家としての経験は長く、しかも自民党に所属し
 ていたのですから、こうした事情を知っていて然るべきです。「勉強して
 いなかった」「知らなかった」では済まされないレベルだと思います。


 あまつさえ、「最低でも県外は、私の考えであり公約ではない」「学べば学ぶ
 につけ抑止力が維持できるという思いに至った」などと首相が発言するとは
 論外です。私としては、これまで政治家として受け取った給与はすべて返し
 なさい、と言いたいくらいです。


 そして民主党自体もお粗末に過ぎます。お目付け役であるはずの小沢幹事長
 も、党全体も鳩山首相をフォローできていません。記者会見で鳩山首相が
 あれほど勘違いな発言をしてしまう前に、民主党として発言内容を修正させ
 るべきだったと私は思います。


 「学べば学ぶほど・・・」という発言は鳩山首相の本音かも知れませんが、
 記者会見の場では「もちろん、こうした背景は理解していたけど・・・」と
 言わなければ、首相としての信頼に問題が出てきます。


 実際、米国も今回の鳩山首相の記者会見を見て、かなり驚いていると思いま
 す。おそらくあまりの鳩山首相の「ずれ」具合に「これ以上、鳩山首相に何
 を言っても無駄だ」と感じたはずです。だからもう米国側は何も言って来な
 くなりました。


 かつての自民党も褒められたものではなかったですが、少なくとも米国と
 共通の目的を理解し、あうんの呼吸で「密約」を締結していました。普天間
 基地も辺野古へ移設するということで米国とほぼ話がまとまっていたと思い
 ます。


 まやかしではありますが、それでも米国も日本の意図を理解できていたはず
 です。しかし民主党政権になって、今は何をどのように理解したら良いのか
 米国は全く分からない状態に陥ったと思います。


 小沢幹事長が鳩山首相のリーダーシップに問題があると発言しているようで
 すが、民主党が抱える構造的な問題は「鳩山首相と小沢幹事長」という二人
 です。


 まさに自分たち二人が問題の根源になっているということをいい加減、鳩山
 首相にも小沢幹事長にも理解してもらいたいと強く思います。


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