大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#132 経営の基本は、AND経営ではなく、OR経営 ~前編~

2006年10月3日

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 USEN株が急落
 その背後に見る、USEN経営の迷走


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●迷走するUSEN経営の背景にあるAND経営の危険性
13日、一時、USEN株が急落をしました。
これは、UBS証券の投資判断がこれまでの
「中立」から「売り」へ変わったことが
きっかけとなっているとのことです。


USENの業績を事業別に見てみると、
次のようになっています。


・最大の収益源である
カラオケ/有線放送事業では、
利益は出ているが伸びがない
・BB/通信事業では、
売上は伸びているが、利益は出ていない
・映像/コンテンツ事業では、
売上は伸びているが、赤字が拡大している


さらに言えば、
このようなUSENの業績面からの判断に加えて、
USENという会社の経営手法そのものに
目を向けてみると、
いずれ経営が上手くいかない状態になるのは
目に見えていたではないか、
と私は思ってしまいます。


193億円ものお金を使って
自動清算機メーカーの
アルメックスを買収したり、
人材派遣の
インテリジェンスを子会社化したり
といった施策は、
USENの経営が迷走し始めていることを
顕著に物語っているように
私には感じられます。


USENの経営が迷走し始めているとは、
どういうことか?
こういう質問を投げかけてみると
分かりやすいと思います。


「そもそも、
USENという会社は何をやる会社だったのでしょうか?」
「インテリジェンスを子会社化したということは、
人材派遣の会社でしょうか?」


もちろん、
USENの事業ドメインは有線放送ですから、
「それ(=人材派遣)"も"やっています」
というのが答えになるのではないでしょうか。


実は、
ここに大きな間違いがあるのです。
経営とは、選択であり、
集中し焦点を定めることが重要なのです。


だから、
「AもBもやっています」というような
「AND経営」ではダメなのです。
「AもしくはBを選びます」という、
選択と集中を意味する「OR経営」が
経営手法として正解だと私は思っています。


●AND経営で上手く行っているのはGEくらい。
OR経営による「選択と集中」が大切。


USEN以外でも、
このような「AND経営」に陥ってしまっている例は、
数多く見受けられます。


例えば、
証券会社や消費者金融、プロ野球にまで
手を広げてしまった楽天、成城石井や
エーエム・ピーエム・ジャパン(am/pm)を
買収した、牛角のレインズ・インターナショナル
(現レックス・ホールディングス)なども、
私から見ると「AND経営」に陥っていて
危険だと感じます。


私が「AND経営」を非難するのは、
「AND経営」でそれぞれの事業間で
シナジーを発揮させるのは、並みの経営者では
不可能な芸当だろうと思っているからです。


USENの宇野社長にしても、
インテリジェンスを創業した手腕は見事でしたし、
私は経営者としての素質が高い人だと思っています。
その宇野社長をもってしても、
「AND経営」でシナジーを起こすことが
難しいというのは、
その業績を見ても明らかでしょう。


私が知る限り、「AND経営」で成功しているのは
世界の企業の中でも、
唯一GEだけではないでしょうか。
GEはそれぞれの事業において
しっかりとした経営者を置き、そして、
多国籍・多角事業を纏め上げることに
成功しています。


それは、
経営者の実力も、経営者育成にかける情熱も、
評価システムも、他の企業と比べて
一つ抜きに出ているからこそ
できることだと思います。


そして、現状で言えば、
おそらく他の企業がGEと同じことを
やろうとしても失敗するだろうと思います。
現実に、GEと同じようなことを
やろうとしたウェスティングハウスは、
空中分解して、会社が崩壊してしまいました。


先に述べた
USENも楽天もレックス・ホールディングスも、
どこも「AND経営」で成功しているとは思えません。


だから、
現実的に不可能な「AND経営」ではなく、
「OR経営」によって、
選択と集中をする手法をとっていくべきなのです。


GEのような
多角化・多国籍化という方法でなくても、
世界へ進出するくらいまで、
1つの分野で徹底的にエクセレントになることを
目指していけば
十分に立派な結果を残すことができると思います。


例えば、
シートベルトのメーカーであるタカタは
非常に優れた企業です。
1960年に日本発の
シートベルトの製造・販売を開始し、
基本的にシートベルト一筋で
成長したメーカーです。
現在、世界18カ国 48工場を構え、
国内外で高いシェアを持っています。
1つのことでエクセレントになることを
突き詰めていくだけでも、
これだけの結果を残すことができるのです。


事業を営むというのは、
それこそ1点集中で
そこに命を懸けるくらいの
気概が必要だと思います。
安易に多角化を図って、
自分を見失ってしまうような
「AND経営」に陥ってしまうのは
避けるべきでしょう。


選択と集中というのは、
ある意味、基本原則ですから、
「そんなの、わかっている」
と感じる方も多いかもしれません。
しかし、実際には
日本でも名だたる有名企業であっても、
AND経営に陥っているケースは多いのです。


つい先日も、
新幹線に乗っているときに見かけた、
ある大企業の広告を見て、
「この企業も、AND経営に陥ったか」と
私は感じたばかりですから・・・


(後編へとつづく)


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