大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON308 避けられないグローバル競争激化の波~企業も個人も覚悟はできているか!?

2010年4月23日

 パナソニック 海外売上高を55%に高める計画
日本板硝子 新社長にネイラー氏起用
日本航空 早期退職に応募殺到
トヨタ自動差 SUV型レクサスをリコール
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 ▼ グローバル展開に期待するパナソニック、
つまづくトヨタ、不安を感じる日本板硝子
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パナソニックは15日、連結売上高に占める海外比率を現在の47%から
 2012年度に55%に引き上げる計画を明らかにしました。まずはインド
 でエアコン工場を新設し、2012年度までに同国の売上高を現在の5倍に
 増やす方針です。


 パナソニックは新規採用でも、海外に力を入れていこうとする方向性を
 強くしめしています。2011年度に国内外で採用する1390人のうち、
 海外の採用数が全体に占める比率は過去最高の約8割の1100人で過去
 最多です。


 いままでこのような動きを見せる日本企業は少なかったのですが、
 いよいよ時代が変わってきたのだと感じます。パナソニックは海外の
 売上比率を6割程度まで伸ばす方針とのことですが、パナソニックの
 商品を考えれば、海外8割くらいのバランスでも良いと私は思っています。


 例えば、インドネシアではテレビでさえも、まだ普及させる余地が大き
 くあります。これから先、エアコンでも冷蔵庫でも、便利な家電製品の
 需要は高まっていくことは間違いありません。


 パナソニックのような商品は新興国で大人気です。まだまだ、海外展開
 において大きな市場が残されていますから、どんどん突き進んでもらい
 たいと思います。


 一方、これまでグローバル市場で成功してきたトヨタがつまづいていま
 す。米国でのトヨタ自動車の苦戦は収まる気配を見せていません。


 トヨタ自動車は19日、米消費者情報誌で横転事故の危険性を指摘された
 高級スポーツ用多目的車(SUV)「レクサスGX460のリコールを発表しま
 した。また、同日、トヨタは米運輸省に約15億円の制裁金を支払うこと
 にも同意しました。


 今回の米国紙の口調は非常に強く、「Don’t Buy」という明確な表現が
 使われていました。CNNの映像ではトヨタ車がカーブでスライドしてしま
 う様子が流れていましたが、確かにあの映像を見る限り、私もトヨタ車
 の造りが「陳腐すぎる」と感じました。


 本来、カーブでタイヤがスリップしないようにバランスを取り直す機構
 が機能するはずですが、半導体の制御が上手く行っていないように私に
 は見えました。


 この辺りの問題をどうやって解決していくのか、今のところトヨタの動
 きを見ていても、明確な意図を感じられません。この点、私は少しトヨ
 タに不安を感じています。


 パナソニックとは対照的に、少々不安を覚えたのが日本板硝子のグロー
 バル展開についてのニュースです。


 日本板硝子は15日、米化学大手デュポン元上席副社長のクレイグ・ネイラー
 氏を6月29日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に起用すると発表しました。
 国際経験が豊富な新社長のもとで、新興国の開拓などグローバル化を加速する
 考えとのことです。


 日本板硝子は、かつて英ピルキントンを買収した際、日本も含めグループの
 社長をピルキントンの社長に任せたものの退任されてしまい、再び藤本氏が
 社長職に戻った経緯があります。


 そして、今度はデュポンの副社長であるクレイグ・ネイラー氏に白羽の
 矢を立てたわけですが、私は日本板硝子の経営姿勢に根本的に不安を感
 じています。


 2005年にピルキントンを買収してから、それまで約3000億円だった売上が
 約9000億円にまで増えました。しかし2008年のリーマン・ショック以降、
 大きく下がり続けています。


 世界的企業であったピルキントンを買収できたにも関わらず、今や買収に
 よって得たアドバンテージは完全に失っています。


※「日本板硝子の売上高の推移」チャートを見る


 日本板硝子の競合となるのは、米コーニングや旭硝子です。藤本氏の経
 営手腕を見ていると、思いつきだけで決断・行動しているのでは?と疑
 いたくなることが多々ありました。


 今回の人事で藤本氏は会長職になるとのことですが、競合他社は世界的
 に競争力が高いだけに、日本板硝子の不安定さに懸念を抱かざるを得ま
 せん。


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 ▼ リストラに揺れる日航、余波は退職者にも
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 会社更生手続き中の日本航空が3月から募集していた早期退職に対し
 応募が殺到していることが明らかになりました。


 関連会社など合わせて2700人を予定していたところ、グループの1割弱
 に当たる4000人近くが退職を申し出たとのことです。一度に全員の退職
 を認めた場合、通常運航に支障をきたす可能性があるため、一部の職場
 では調整が必要になりそうです。


 職場によっては6分の5の人員が早期退職に応募したそうですが、「JAL
 年金削減計画に現役社員の3分の2超が減額に同意」というような、現在
 の日本航空が置かれた状況からすると致し方ないかも知れません。


 日本航空に勤めるくらいの人ですから、かなり優秀な人も多いはずです。
 これを機会に転職を、と考える人がいるのも頷けます。


 同じような問題は日本航空だけに留まりません。退職者への手厚い年金
 給付はかつて日本的マネージメントと絶賛されたこともありましたが、
 今では年金の積立不足が23兆円というお粗末な状況になっています。
 2010年4月12日号のBusinessWeek誌には、かつての勤務先から年金
 の減額を迫られている退職者たちの特集記事がありました。


 なかには、年金受給額を毎月6万円減額することに同意するよう求められ、
 それに反対している日本航空退職者の話も取り上げられていました。


 年金受給者からすれば、今になって「後付けで」言われてもお手上げ状態
 だということでしょう。


 終身雇用制度などと言っていた時代は終わり、終身雇用どころか、引退
 した後で「背後から刺される」危険性すらある時代になっています。


 年金の積立不足は23兆円ですから、恐ろしい事態が待ち構えています。
 これは決して日本航空だけの問題ではないことを強く認識する必要が
 あります。


 これまで私が何度も伝えてきたように、企業を取り巻く環境は大きく変化
 しています。その変化を正しく認識し、それに対応できる一貫した経営方針を
 たてないと、経営はこれまで以上に大きく傾いていくでしょう。日航の問題は、
 多くの日本人にとって決して他人事ではありません。


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