大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON306 米国が抱くドル安幻想~一度流出した雇用は米国に戻らない

2010年4月9日

 中国人民元
人民元問題で公聴会
米下院歳入委員会
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 ▼人民元相場が上昇しても、
米国内に雇用が創出されることは有り得ない
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米下院歳入委員会は24日、中国の人民元に関する公聴会を開催しまし
 た。ピーターソン国際経済研究所のバーグステン所長は、人民元は
 「米ドルに対して40%過小評価されている」と証言し、米政府は中国
 を為替操作国に認定すべきだと強調しました。


 そのような中、中国の経済誌「財経」は29日発売の最新号で、「人民元
 の為替制度改革を4月に実施する案が、中国政府内で話し合われている」
 と報じています。


 米ピーターソン国際経済研究所のC・フレッド・バーグステン氏の発言
 を聞いて、私としては「またいい加減なことを言っている」と憤りを
 感じます。


 バーグステン氏はかつて日本に対しても似たような発言をしていたこと
 があります。貿易不均衡を是正するためには、日本円は70円くらいが
 調度良いと述べていました。私に言わせれば、子供の算術の結果に過ぎ
 ず全く当てにならないものでした。


 今回の中国人民元に対するバーグステン氏の見解にも、やはり大きな
 間違いがあると私は思います。バーグステン氏は人民元が「米ドルに
 対して40%過小評価されている」とし、人民元相場が25~40%上昇
 すれば、米国内で60万~120万人の雇用が創出されるとの試算を示して
 います。


 人民元相場が上昇することで輸出競争力がなくなり、現在中国に進出し
 ている企業が米国に戻ってくるため雇用が創出されるというロジックの
 ようですが、私に言わせれば、こんな欺瞞はありません。


 そもそも米国の企業は米国内で生産することを好んでいません。
 一度米国を出て生産拠点を移した企業が、再び米国に戻ってきた事例
 などほとんどないはずです。


 人民元が高くなって中国での生産ができなくなれば、ベトナムなどに
 移るだけでしょう。もしも、米国に戻るなどという決断をする経営者
 がいたら、株主から大きな批判を被ることは間違いないでしょう。


 かつて日本がテレビの生産を増やし積極的に輸出をしていた時代、米国
 企業は喧々諤々と、円が過小評価されているから米国製品の競争力が
 低下し、米国での生産が海外に流出していると議論していました。


 その後、テレビの生産拠点は日本から台湾や中国に移っていきましたが、
 だからと言って米国にテレビの生産拠点を戻す企業は当然ありません
 でした。


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 ▼ 「人民元の切り上げ=バブル崩壊」ではなく、その逆
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 私は過去数十年に渡って、C・フレッド・バーグステン氏の議論を聞い
 ていますが、正直言ってバーグステン氏が新聞などに登場して米国政府
 にアドバイスをすること自体、米国の恥と感じるべきだと思います。
 過去の事例を見ても、この期に及んで100万人を超える雇用が米国に
 戻ってくることは考えられません。


 「米国企業の実態を知らないマクロエコノミストが小学生レベルの算術
 でモノを言っているだけ」私にはバーグステン氏の発言はそのように聞
 こえます。こんなレベルで発言するのは控えた方がいいと私は強く感じ
 ます。


 私は近々中国へ訪問する機会がありますから、中国に対しては、米国の
 言うロジックなど一度も正しかった試しはないから安心していいという
 アドバイスをするつもりです。


 また実際に人民元の切り上げが起きたら、資産バブルの崩壊が起きるの
 ではないか?と懸念している人がいるようですが、これは「逆」です。
 人民元が切り上げられたら購買力が増すことになるので、一層中国に
 資金が集まってくるようになります。


 これはかつての日本でも見られた現象です。プラザ合意後、円の購買力
 は強くなり、日本には想像を絶するような資金が集まりました。しかし、
 それがバブルを生み、さらには89年から始まるバブル崩壊の道へと
 続いていったのです。


 中国においても、人民元が切り上げられたからといってバブルが崩壊
 するのではなく、逆にバブルは加速します。そして、その結果、いつ
 の日かバブルを維持できなくなって崩壊するというのが正解だと私は
 思います。


 「中国の生産拠点で採算が合わなくなったら、企業は米国に戻ってくる
 のか?」「人民元が切り上げられたらバブル崩壊の引き金になるのか?」
 と考えれば、これらの仮説が成立しないことはきちんと検証・実証すれ
 ばすぐに明らかになります。


 それをせずに机上の空論・単純な算術だけで「仮説」を正しいと思い込
 んでしまうのは非常に危険だと思います。


 仮説を立てて、それを検証・実証するための事実・データを収集し、
 結論を導いていくという「問題解決の基本」の重要性はいくら強調しても
 し過ぎることはありません。ぜひビジネスパーソンの基本スキルとして
 身に付けてもらいたいと思います。


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