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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON298 迷走する米オバマ大統領の経済立て直し策~輸出倍増計画でさらに波紋

2010年2月12日

オバマ米大統領は1日、議会に提出する2011会計年度(10年10月~
 11年9月)の予算教書を発表しました。2010年度の財政赤字は過去
 最大の1兆5560億ドルとなり、GDP比で10.6%に達するとの見通し。
 11年度は1兆2670億ドルで、同8.3%となる見通しが明らかになりました。


 これについてオバマ米大統領は、政府は雇用の創出に必要なことを今後も
 やり続けると訴える一方、財政赤字については政治の変革が必要として
 議会に赤字削減の協力を求めているとのことです。


 今年1月の雇用統計によると、失業率は9.7%となり前月に比べ
 0.3ポイント低下。4カ月ぶりに10%を下回り、改善効果が現れてきている、
 とオバマ米大統領は主張しているようですが、私にはそうは思えません。


 また、米国の財政収支の推移を見れば、オバマ米大統領が就任した09年度
 以降、急速に財政収支が悪化し続けていることは明らかです。もちろん、
 この状況はブッシュ前米大統領が残した金融危機の影響ですから、
 オバマ米大統領だけの責任ではありません。


※「日米の財政収支の推移」チャートを見る


 日本の場合にはここ数年間、ずっと今の米国並みの財政収支を続けてい
 ます。ここに来て日米は足並みを揃えて悪い状況に陥っていて、日米の
 財政赤字の対GDPの割合でも両国ともにマイナス10%近くという結果に
 なっています。


※「日米の財政赤字の対GDP」チャートを見る


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 ▼ 輸出倍増計画は、米国企業の実態にそぐわない
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 オバマ米大統領は先月27日、一般教書演説で、雇用の創出を支援する
 ため、今後5年間に輸出を2倍に拡大する方針を示すとともに、国際貿
 易交渉を成功させる取り組みを推進する意向を示しました。この計画が
 波紋を呼んでいます。


 目標達成に向け、農業や中小企業の輸出増加を狙った「国家輸出戦略」
 を作成すると表明したものの、具体的な政策手段は明らかになっていな
 いためです。


 このオバマ米大統領の発言を聞いて、大変なことを言い出したものだと
 感じました。というのは、これまでの歴史を振り返れば米国はずっと
 輸出を減らし続けてきたからです。


 とは言っても、米国が輸出を減らし続けてきたのは米国企業の競争力が
 低下したためではありません。米国企業がグローバル化して結果的に
 輸出の必要がなくなってきたためです。


 企業がグローバル化して海外に拠点を構え、現地で生産して現地で販売
 するというスタイルになれば必然的に輸出は減っていきます。


 輸出を倍増させると言うのは、こうした流れに逆行することになります。
 仮に輸出を倍増させるとなると、米国内で生産して新たに輸出するもの
 を増やさなければ成立しないでしょう。しかしこれは現実的ではありま
 せん。


 例えば、IBMジャパンがわざわざ米国内で生産してから製品を日本に
 持ち込むようになるかと問われれば、答えは「NO」でしょう。IBM
 ジャパンに限らず、他の企業でも同じだと思います。


 このような事実を認識していれば、オバマ米大統領の発言がいかに経済
 を分かっていない人の発言であるか理解できるでしょう。逆に言えば、


 何ら具体案がないのによくも演説で言い切れるものだと感心してしまい
 ます。オバマ米大統領の演説の上手さだと言えるかも知れませんが、
 私はここにオバマ米大統領の問題を感じています。


 2009年1月にオバマ氏が米大統領に就任してからすでに1年が経過しました。
 現在米国が直面する情勢は厳しいにも関わらず、オバマ米大統領はこれ
 までに多くの問題を解決してきたし、今後も対処できると認識している
 ようです。


 しかし、アフガニスタンでの戦況は泥沼化していますし、医療保険改革
 法案は当初の内容から大幅に変更を加えてなんとか成立させた状態です。
 肝心の経済の立て直しはまだ成し遂げられてはいません。


 一体、オバマ米大統領は何のために大統領になったのか再考してもらい
 たいと思います。


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