大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#130 私たちの公的年金に運用能力はあるのか

2006年9月19日

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 公的年金運用
 4-6月運用実績利回りは、「-2.73%」
 2兆32億円の赤字
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●運用の実力がないと感じる公的年金の運用実績


厚生年金と国民年金の積立金を市場運用する
「年金積立金管理運用独立行政法人」は4日、
今年4-6月期の運用が、総合収益額で2兆32億円の
赤字だったと発表しました。利回りベースで見ると、
-2.73%になるとのことです。


このニュースを聞いて、
意外な印象を持った人も多いのではないでしょうか。


なぜなら、
公的年金の05年度の年間運用実績は、
過去最高の約8兆6800億円
(市場運用分。運用手数料等控除前。)の黒字で、
それを受けて、
まるで盆と正月が一緒に来たような楽観的な見方が
多かったからです。


しかし、
私は以前から年金運用について警笛を鳴らしてきました。
株式市場が横ばいもしくは下落してきたら、
運用実績が下がるはずだから、
決してこの状況を楽観視するべきではないと。


私がこのように指摘してきた理由は、非常に簡単です。
05年度は日本の株式市場は、
インデックスで約46%値上がりしていました。
インデックスは市場の平均ですから、
極端なことを言えば、何も考えていなくとも、
運用の実力がなかろうとも、
株式市場にお金を置いておけば利益を得られたと
言っても良いでしょう。


年金運用の実態として言えるのは、
「運用実績が高い=運用能力が高い」
という関係性は成り立たず、
実際には全く運用の実力が伴っていない
ということです。


今回の4-6月の四半期ベースで運用実績が
約2兆円の赤字に転落した事実も、
如実に運用の実力が不足しているかを
物語っていると思います。


株式市場の上昇が止まり、
横ばいもしくは下落に転じてしまうと、
もはや実力で運用実績を挙げることはできませんから、
株価に引きずられるようにして、
運用実績も下がってしまうというわけです。


株式市場が横ばいもしくは下落し始めたときに
運用実績をあげるためには、
しっかりとした個別株の識別能力が必要になります。
運用先を自らの目で評価し、自ら選び、
アセットアロケーション(資産配分)を考えて、
運用方式を構築する本当の実力が
必要になってくるのです。


日本の年金は、このような運用能力は、
ほぼゼロに等しいと思います。
株式市場が上昇してくれるか、
あるいは外国人投資家が日本の市場に入ってきてくれれば、
それに便乗して利益を得るというくらいしか
できないのではないでしょうか。



●企業年金も同様。株式市場頼みは変わらず。


実は、今週はもう一つ「年金」のニュースがありました。
それは、企業年金連合会は5日、
05年度の運用利回りは平均で19.16となり、
1984年度の調査開始以来、
過去最高を更新したと発表した、というものです。


こちらは「公的年金」ではなく
「企業年金」についてですが、
ポイントは同じです。
混乱しそうになりますが、こちらも「05年度」の
実績ベースで過去最高を記録したというだけです。


過去5年間の運用利回りの推移を見てみると、
下記となっています。


年間の運用利回り
・00年度 -9.8%
・01年度 -4.2%
・02年度 -12.5%
・03年度 16.2%
・04年度 4.6%
・05年度 19.2%


一方、株式市場(日経平均)の各年度末(終値)の
騰落率に目を向けて見ると、下記となっています。


日経平均の年間騰落率
・00年度 「20,726→12,999」(-37%)
・01年度 「12,937→11,024」(-15%)
・02年度 「11,028→7,972」(-28%)
・03年度 「7,986→11,715」(47%)
・04年度 「11,683→11,668」(0%)
・05年度 「11,723→17,059」(46%)


運用利回りと株式市場の騰落がほぼ対応しているのが
見て取れると思います。


すなわち、企業年金についても、
運用の実力があるわけではなく、
株式市場の動向や外国人投資家に依存した状態は
変わらないということです。


公的年金も、企業年金も、いずれも
外国人投資家が日本市場に参入してくれたら儲けもので、
あとは株式市場にお任せ状態であって、
自分たちで運用する力は全くないのが現状だと
認識するべきでしょう。


企業年金の資産構成割合の推移をみると、
国内及び外貨建株式や外貨建債券などが
増加してきていると言えます。


96年度末には、
国内株式・債券、外国株式・債券といった
資産が占める割合は、
全体の約57%に過ぎませんでした。


一方、05年度末には、
国内株式・債券、外国株式・債券で
80%以上を占めるようになりました。


また、全体の中で株式資産が占める割合も
5割近くになっています。だからこそ、
株式市場の影響を受けやすい状態になってしまって
いるとも言えます。


年金運用の問題を見ていても、
やはり日本人の投資に関する
教育不足・勉強不足という点を認めざるを得ません。


自分の資産は
自分でマネジできるようにならなければならない時代。
個人資産を守る意味でも、国の資産を守る意味でも、
もう一度、教育の見直しを図るべきだと感じています。


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