大前研一「ニュースの視点」Blog

KON976「日中関係/日韓関係/米英豪安全保障協力/台湾情勢~誰の利益にもならない愚行」

2023年4月3日 台湾情勢 日中関係 日韓関係 米英豪安全保障協力

本文の内容
  • 日中関係 中国・孔鉉佑前駐日大使の離任挨拶を断り
  • 日韓関係 韓国・尹錫悦大統領が来日
  • 米英豪安全保障協力 原子力潜水艦配備計画を発表
  • 台湾情勢 馬英九前総統が訪中へ

誰の利益にもならない愚行


日本政府が、中国の孔鉉佑前駐日大使の離任に際して申請した岸田首相への挨拶を、断っていたことがわかりました。
日本国内の対中世論に配慮したとのことですが、歴代大使の大半は離任時に首相と面会をしており、岸田政権の対応は異例のことです。誰も得をしない愚行だと言わざるを得ません。日中の交流には2000年の歴史があるのだから、対中政策は米国の追従をするべきではなく、当たり前のことを当たり前にするべきです。

安倍首相の頃から、普通にしていても関係が悪くなっているのに、さらに関係性が悪化したら日本の責任になります。中国側の反日感情が高まれば、意趣返しとして日系企業の社員をスパイ罪で捕まえるようなことがまた起こってしまうかもしれません。岸田首相は「聞く力」をアピールしているのに、こんないたずらに事を荒立てるようなことをするとは思いませんでした。あくまでも儀礼通りに対処すべきだったと私は考えます。



日韓関係改善に意欲的な尹大統領に期待


韓国の尹錫悦大統領が16日に来日し、岸田首相と会談しました。
韓国の大統領が首脳会談だけを目的に来日するのは、2011年の李明博氏以来約11年ぶりです。会談で両首脳は、日韓軍事情報包括保護協定の正常化や、両首脳が相互に訪問するシャトル外交の再開等で一致しました。また、会談後は日本料亭や洋食店で会食し、打ち解けた雰囲気の中で意見交換を行ったとのことです。尹氏は日本通で、奥様も安藤忠雄氏と食事をするなど日本との関わりが深い方です。

今回の来日は、安倍政権時代に悪化した日韓関係を尹氏が正常化しようとしている努力の現れだと理解できます。日本もこれを受け入れ、尹氏が前向きなうちに友好関係を再構築するべきです。日本は韓国への半導体材料輸出を規制していますが、これもやめるべきです。

そもそも、サムスンのような大きな顧客との取引を日本企業側が諦めるはずはなく、したたかな企業はベルギーや台湾を経由して輸出を行っていました。想定した効果はなく、無駄にことを荒立てているだけの規制になってしまっています。一方、尹氏の対日政策でも韓国では叩かれているようですが、叩いている側に問題があります。叩いている筆頭の文在寅前大統領は、汚職や不正でまもなく逮捕されるのではないかと言われている人です。地方政治に携わっていたころには頭を下げて誘致していた味の素に対して、大統領になったら徴用工問題で告発するようなペテン師です。

今回は李明博氏以来の訪日ですが、私は意義深いものだったと評価します。李氏も就任当初は親日姿勢を見せていましたが、最後は竹島に上陸したり、天皇に謝罪を求めたりするなど、反日姿勢を打ち出すようになってしまっています。尹氏も同じようになってしまうとしたら、今の関係改善に向けた姿勢を活かせなかった日本の責任です。



長期的な安全保障協力へ大きな決断


オーストラリアのアルバニージー首相は13日、米国のバイデン大統領、英国のスナク首相とカリフォルニア州サンディエゴで会談し、オーストラリアの原子力潜水艦配備計画を発表しました。これは2030年代に米国から原潜を購入し、さらに40年代には自国建造の原潜が完成することなどが盛り込まれており、米国、英国、オーストラリアの安全保障の枠組み(AUKUS)の下、インド太平洋地域の防衛能力を強化し、海洋進出を図る中国を牽制する考えです。

原子力潜水艦の配備で一番大変なのは、買うことでも作ることでもなく訓練です。原潜は一度潜ったら1年浮上しないこともあるうえ、原子炉も積んでおり、危険で精神力も問われるオペレーションが要求されます。

米国でもリッコーヴァー海軍大将が約10年かけて乗務員を訓練しました。今回も、最初の10年は英米の手による訓練期間で、その間に新しい原子炉と潜水艦を設計し、最終的にはオーストラリアで建造するというプランだと考えられます。5隻から10隻を配備する今回のプランは、米中に続いて新たに太平洋地域に原潜を持つ国が現れるという意義深いものでもあります。予算の面でも、32兆円と言う超大型プロジェクトです。潜水艦配備計画としては、当初はディーゼル潜水艦の予定で日本も支援に手を上げていましたが、フランスが選ばれました。しかしアルバニージー首相は、英米と共同での安全保障にコミットする決断をし、フランスを怒らせて違約金を支払ってでも、英米と原潜を配備する方に舵を切りました。これまでのオーストラリアのリーダーにはあまり見られなかった、長期の防衛戦略を見据えたアグレッシブな動きだと評価します。



対中融和姿勢で前総統に存在感


台湾の馬英九前総統が3月27日から4月7日の日程で中国を訪問するとのことです。

先祖を祀り、大陸の学生と交流する学生を引率するのが目的と言う事ですが、台湾総統経験者の訪中は、1949年の中台分断後初となります。馬英九氏は人気絶頂で総統を辞めたわけではないですが、来年の総統選に出馬するつもりなのではないかと予想しています。蔣介石のひ孫で、有力な総統候補である蔣万安氏は台北市長になったばかりなので、よほどのことがない限り来年の総統選出馬は見送られる見通しです。その間に隙を縫って、総統に返り咲く狙いだと考えられます。

馬氏は中国が求めていた台湾との通信、通航、通商の「三通」を実現し、融和的関係を築いた実績があります。蔡英文政権下で台湾有事が懸念される現在、中国を刺激せず、丸め込んでくれるかもしれない存在として、馬氏に一定の期待があると言えるでしょう。

今回の訪中も、自分の強みを強化し、アピールする狙いがあると考えられます。一方で中国側も、米国が喜ぶような台湾有事を回避し、対話によって有利な対中関係を築くために馬氏を歓迎しています。総統を退任してから6年以上たちますが、馬氏はまだまだ注目に値する人物です。


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※この記事は2023年3月26日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


大前は、「日本政府が、中国の孔鉉佑前駐日大使からの、離任に際して申請した岸田首相への挨拶を、断っていたことは、誰も得をしない愚行だ」と述べています。
対中世論に配慮したとのことですが、本来あるべき姿とのギャップを埋めるためには短期視点と長期視点で物事を捉える必要があります。問題を見誤らないためにも、問題設定においては、あるべき姿と現状の差を明確に把握することが必要です。あるべき姿を具体的にしておくことで、どの程度問題解決が出来たのか結果を振り返る際にも役立ちます。


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