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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON283 ノーベル平和賞~米オバマ大統領受賞の意味とその影響を考える~大前研一ニュースの視点~

2009年10月16日

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 ノーベル平和賞
 09年ノーベル平和賞を
 米オバマ大統領に授与
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 ▼ 核なき平和を提唱する米国の抑止力
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 9日、ノルウェーのノーベル委員会は2009年のノーベル平和賞を、
 米国のバラク・オバマ大統領に授与すると発表しました。


 同委員会は授賞理由について「国際外交や人々の協力関係を後押しする
 傑出した努力」を続けたと説明。「核兵器のない世界」を提唱し、
 核軍縮への新しい潮流を生み出した同氏の功績をたたえています。


 他のノーベル賞とは違い、平和賞だけはスウェーデンではなく、
 ノルウェーのノーベル委員会が選考を行っています。今回のオバマ大統領
 の選出について、何とか話題性を創出したいというノーベル委員会の
 焦りがあったのではないかと、私は率直に感じます。


 これまでもノーベル平和賞の選考では、選出理由に賛否が分かれる例が
 他の賞と比較して多く見受けられました。


 例えば、マザー・テレサ氏であれば誰もが文句なくその受賞を認める
 ところでしょうが、2000年にノーベル平和賞を受賞した金大中・元韓国
 大統領などの功績を客観的に見ると、ノーベル平和賞を授与するのに
 値するのかを疑問視する意見も少なくありませんでした。


※「近年のノーベル平和賞受賞者・機関」 チャートを見る


 実際のところオバマ大統領の受賞が話題性を加味したものかどうかは
 分かりません。ただ別の観点で私には気に懸かることがあります。


 それは、この受賞によっては米国の世界に対する「抑止力」に制限が
 加わるのではないか、ということです。言うまでもなく、米国はイラク
 や北朝鮮を叩く圧倒的な軍事力を持っています。


 しかしノーベル平和賞をもらってしまうと、軍事力を持っていても、
 大統領としてそれを行使できない事態が想像されるからです。


 端的に言えば、イラクや北朝鮮に対して「いざとなったら米国は攻撃
 するぞ」という脅しが効かなくなるということです。


 そういう意味では、オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞するにしても、
 現職を退いた後の方がタイミングとしては適当だったと私は思います。


 世界への抑止力としての米国の在り方について、2009年10月12日号
 のNewsweek誌におもしろい興味深い記事が掲載されていました。


 「AFTER IRAN GETS THE BOMB(イランが核爆弾を持った後)」と
 いう表題です。すなわち、ウラン濃縮施設の発覚で騒がれているイランが、
 いよいよ核兵器を保有したらどう対処するのか?ということです。


 結論から言うと、


1.今すぐに核施設を全て破壊する
2.輸出制限などの制裁措置をとる
3.政府高官などの海外脱出を制限する


 という3つのオプションがあり、それぞれについて説明がされていました。


 中でも軍事的な観点から非常に米国らしい発想だと感じたのは、
 イスラエルにイランを叩かせるべきだという考え方です。


 公表されていませんが、イスラエルは200発の核爆弾を保有していると
 言われています。その軍事力は圧倒的にイランを凌ぎます。


 そのイスラエルを炊きつけることでイランを押さえ付ければ、米国その
 ものは平和を維持できるというわけです。


 何とも虫の良い話に聞こえますが、イスラエルの国民性を考えると
実現性は低くないと思います。


 万一自らが実際に攻撃されば、徹底的に応戦するでしょう。そして
 歴史的に振り返っても見ても、イスラエルがそのような「一見すると
 無茶な軍事行動」を起こした場合でも米国はイスラエルに寛容な姿勢を
 とる場合もあります。


 もちろん賛成の意思を表明することはありませんし、一応止めようと
 します。しかし実際にイスラエルが行動を起こしてしまったら黙認する、
 というパターンです。


 オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したことにより、このような
 考え方がより浸透していく可能性も高いと私は感じています。


●オバマ大統領を広島に呼び、オリンピック招致へ


 ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領が、今度来日した際には広島を
 訪問するのではないかと言われています。私はぜひオバマ大統領に広島
 を訪問してもらいたいと思っています。


 そして「核なき平和」を提唱する立場として、被爆地である広島の地で
 今一度、プラハでの名演説に匹敵するような演説を聴きたいと思います。


 その際、日本としては「広島・長崎でオリンピックを開催するのは素晴
 らしい」という言葉をオバマ大統領から引き出せるようにするべきです。


「核なき平和」の象徴として世界唯一の被爆地である広島・長崎で
 オリンピックという祭典を開くというのは、オバマ大統領としても筋が
 通った話です。


 私は東京へのオリンピック招致には反対でしたが、広島・長崎であれば
 大いに賛成です。


 今の時期から2020年に向けて盛り上げていけば素晴らしい準備が
 できると思いますし、東京への招致とは違い、国民の支持も得られる
 はずだと思います。


 2020年にはオバマ大統領は退任しているでしょうが、それでもこの
 タイミングでコミットメントをもらえる効果は絶大でしょう。


 広島市の秋葉市長には、そのための準備を怠らないようにして頂きたい
 と思います。


 具体的には、演説内容の中で「広島・長崎への核爆弾の投下」という
 事実をどのように伝えるのが日米両国の国民感情を考えた際にベスト
 なのか、という点を入念に打ち合わせてもらいたいということです。


 「戦争を終結させるためには仕方なかった」だけでは広島市民が納得
しないでしょうし、逆に「原爆投下は完全な間違いだった」では米国民
が納得しないでしょう。その両者のバランスをとることが大切です。


 例えば私ならば、


 1.戦争を終わらせるために使わざるを得なかったが、
 2.本来使うべきではなかったものであることを認識し、後悔をしている 
 3.そしてその後は一切使っていない 
 4.このまま人間の愚かな教訓の1つとして「核を使わない」という
   状況を未来永劫継続することが大切だ


 という論旨展開を考えます。


 本来使うべきではなかったものを使ったということにも言及し、その後
 一度も使っていないということについて、これを担保していくという
 ことであれば、日米両国民にも納得できる内容だと思います。


 秋葉広島市長は、私のかつての同級生で知人でもあります。彼は非常に
 英語も堪能ですし、こうした微妙なニュアンスを伝えられるだけの
 交渉力も十分に持っています。


 オバマ大統領としては、広島市民の感情を考慮して演説のバランスを
 とることが非常に難しいと感じているはずです。それについては、
 日本側からフォローしてあげるべきです。


 私に言われてなくても、おそらく秋葉市長はこのようなことを承知の
 上で準備を進めていると思います。


 ぜひオバマ大統領に広島で演説をしてもらって、そして広島・長崎への
 オリンピック招致のきっかけを作ってもらいたいと期待しています。
 そうすれば、2020年に向けて支援するムードが醸成されていくことに
 なり、リオデジャネイロに負けないくらい「意義」のあるオリンピック
 を開催できると思います。


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