大前研一「ニュースの視点」Blog

KON968「エイチ・アイ・エス/ポイント経済圏/SBI新生銀行/NTTグループ~NTTの今後に注目すべき取り組み」

2023年2月6日 NTTグループ SBI新生銀行 エイチ・アイ・エス ポイント経済圏

本文の内容
  • エイチ・アイ・エス 澤田秀雄会長が退任
  • ポイント経済圏 資本・業務提携で合意
  • SBI新生銀行 コンビニATMの出金手数料を無料に
  • NTTグループ システムなどの弱点報告者に報奨金

海外旅行ブームを支えた辣腕経営者


旅行大手のエイチ・アイ・エスは先月26日、創業者の澤田秀雄会長が2月1日付で退任し、取締役最高顧問に就任すると発表しました。

新型コロナ禍で主力の海外旅行事業が打撃を受ける中、ハウステンボスの売却等の構造改革で一定の成果が出たと判断したもので、矢田素史社長が続投し、澤田氏が兼務してきたグループCEOを引き継ぐとのことです。

澤田氏は、航空会社が独占していた海外旅行業界にメスを入れた方です。

安い航空チケットを販売し、航空会社からは目の敵にされた時代もありました。

しかし、やがて主導権はエイチ・アイ・エス側に移り、我々は安い値段で海外に行けるようになったという経緯があります。

例えば、かつて宮崎はハワイ気分を味わえるとして新婚旅行に大人気だったのですが、エイチ・アイ・エスが主導権を握った後は実際にハワイに行った方が安いという現象まで起こりました。

私も向研会では大変お世話になりました。

新型コロナ禍で主力の海外旅行、いわゆるアウトバウンドが大打撃を受けました。

ハウステンボスも中途半端な形でファンドに売却してしまいました。

「自分がやった事業は失敗したことがない」が口癖の方でしたが、最後は感染症の大流行で会長職を退く形になりました。




「人を集める天才」は時代の変化にも強かった


先月27日、三井住友フィナンシャルグループとカルチュア・コンビニエンス・クラブは資本業務提携で合意しました。

両者のVポイントとTポイントを2024年春に統合するとのことで、ポイント経済圏の競争が激化する中、知名度と決済という両者の強みを融合し楽天グループ等に対抗する考えです。

カルチュア・コンビニエンス・クラブの創業者の増田宗昭氏は、エイチ・アイ・エスの澤田氏と共に、立教大学の野田一夫教授の下でベンチャー経営を学んだ人です。

米国のタワーレコードをはじめ、ビデオレンタルの事業には逆風が吹き荒れていますが、増田氏は書店に軸足を移しながら耐えています。

増田氏の強みは、人を集める天才であることです。

例えばベルコモンズという青山にあった女性服飾のショッピングセンターは、増田氏が鈴屋の社員時代にプロジェクトメンバーとして手掛けたもので、私も大好きな中華料理店をテナントに入れるなど、人を集める工夫を凝らして大成功しています。

蔦屋書店も、本質は人を集める仕組みであり、その才によって今、同門の澤田氏と明暗が分かれたような形になりました。

とはいえ、書店の将来性は薄く、最後に残った武器がTポイントだったと分析します。

その武器も銀行と組むことによって、生き残りの道を探すしかないという状況だと考えられます。




預金獲得の王道だが長続きはしない


SBI新生銀行は先月24日、コンビニエンスストアに設置されている現金自動預け払い機(ATM)の出金手数料を、2月6日から無料にすると発表しました。

同行は去年6月から定期金利をこれまでの10倍に引き上げるなどのリテール戦略の転換を図っていますが、将来の日銀の利上げを見込み、積極的な預金獲得戦略を継続する考えです。

高い金利で預金を集めるやり方は、かつて新生銀行やあおぞら銀行も採用した戦術ではあります。

しかし長続きはせず、新生銀行はSBIの傘下に入りました。

そのSBIもまた、同じ戦術を繰り返そうとしています。

高金利を謳う銀行の中では、ソニー銀行などは実店舗を持たないといった高金利にできる仕掛けを持っています。

しかし、そうした仕掛けのないSBI新生銀行では、手数料無料や高金利は長続きしないと考えます。

SBIはお得感を打ち出して顧客を集めることに長けていますが、集めるだけ集めたら値上げをためらわない企業文化もありますので、そのうちに手数料は有料になるし、金利も下げてしまうと予想します。

とはいえ、実際に預金は集まると予想されます。

将来手数料や金利が元に戻ったとしても、預金者としては元が取れていれば満足できるのかもしれません。




制度の運用・リスク管理にも注目すべき取り組み


NTTグループが、システムやセキュリティーの弱点を見つけた報告者に対し、報奨金を支払うバグバウンティと呼ばれる制度を社員向けに導入することがわかりました。

副業として業務委託契約を結び、1報告あたり最大数十万円の報奨金を支払うとのことで、意欲ある人材の発掘や、サイバー防衛スキルの育成にもつなげる考えです。

私もゲーム会社で働いていた際、バグを発見する作業には苦労しました。

従業員からバグはもう無いと報告を受けても、いざ発売する時になって大量のバグが見つかる事態が多発し、サラリーマンはデバッグに向いていないと痛感しました。

そこで、発売1か月前くらいに500人くらいの学生を集めて、ひたすら遊ばせるという方法をとったところ、チェック作業では見つからないバグが次々に発見されたという経験があります。

副業としてバグを探してもらう仕組みは、マイクロソフトやグーグルで採用されている有効な手法ではありますが、大きなリスクも存在します。

悪質な開発者がバグに気づきながら放置したり故意に埋め込んだりしたものを、仲間に発見させて報奨金をだまし取る社内犯罪を誘発する可能性があります。

そのため海外では、抜き打ち検査やアクセス履歴のチェックなどの性悪説にもとづいた厳しい管理の元で導入されています。

NTTは管理体制も整っている会社なので心配はしていませんが、他社が模倣しようとするときには注意が必要です。

リスク管理の手法も含め、どれだけデバッグ作業を効率化することができるのか、今後に注目すべき取り組みです。




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※この記事は1月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はNTTグループのニュースを大前が解説しました。

大前は「報奨金をもらうために、わざとバグをそのままにするような社内犯罪が起きる可能性がある」と指摘し、「アメリカの企業の場合は性悪説に基づいて、抜き打ち検査を行っており、日本でも同様の手法を取り入れた方が良い」と述べています。

前例がない施策を行う場合、事前にあらゆるリスクを想定し対処法を検討しておく必要があります。

過去の事件や他社事例などから学び、リスクへの対応を万全にしておくことで損失を最小限に抑え、施策の効果を最大限に引き出せます。


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